五木ひろし版 「テネシーワルツ」 のチョンボ
昨日の朝、カーラジオで 「大沢悠里のゆうゆうワイド」 を聞いていたら、五木ひろしが 「テネシーワルツ」 を歌い、CD を発売したとのことで、その歌を流してくれた。
で、残念なことに、五木ひろしはこの歌の歌詞を間違えているのだった。下の YouTube 動画で試聴してみれば、わかる人はすぐにわかる。
テネシーワルツというのは、ざっと次のような筋立ての歌である。
ある日、私が恋人とテネシーワルツを踊っていた時に
昔からの友達と出会い
私は彼(または彼女 = 出会った友達のこと)を恋人に紹介した
そして彼らが踊っているうちに
その友達は私から恋人を盗んでしまったのだ今でもその夜に流れていた
テネシーワルツを忘れられない ……
で、3行目の「私は彼(または彼女)を恋人に紹介した」というところを、五木ひろしは "I introduced her to my loved one" と歌っているのである。直訳すると、「私は彼女(つまり昔からの友達)を私の恋人に紹介した」ということになる。そして、その 「彼女に」 恋人を取られてしまったのだ。
するてぇと、何かい? お前は、恋人を女に寝取られたというのかい? お前の恋人は、実はレズビアンだったってのかい?
いや、種明かしをすると、実はまったくの間違いというわけでもないのである。五木ひろしが "I introduced her to my loved one" と歌ったのは、これは女性歌手が歌う場合のバージョンなのだ。そうすれば、恋人は男だから、その恋人を取った友達は「彼女(her)」ということで OK なのである。
一方、テネシーワルツを男の歌手が歌う場合は、"her" を "him" に置き換えて歌う。つまり、"I introduced him to my loved one" になるのだ。
テネシーワルツに限らず、英語のスタンダードナンバーで恋人を三人称で表わすときは、男が歌う場合は "she/her/her" に、女が歌う場合は "he/his/him" にするものなのである。これはもう、言わずもがなの「お約束」である。
(テネシーワルツの場合はちょっと複雑で、ここに出てくる he とか she は、恋人ではなく、恋人を寝取った友達のことなので、歌い手と同性になる)
まあ、同性愛を歌う場合はその逆になるのだろうが、少なくともテネシーワルツは、よほど斬新な新解釈をしない限り、そういう歌じゃない。どうやら五木ひろしは、いにしえの江利チエミ・バージョン(つまり、女性歌手が歌うバージョン)を、そのまま歌ってしまったようなのだ。
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それにしても、五木ひろしが気付かなかったとしても、レコーディングの現場に居合わせたスタッフの誰一人、この間違いを指摘できなかったというのは、信じられないチョンボだと思うのである。音楽の世界のプロのはずなのに、そんなことも知らなかったんだね。
それとも彼は、日本の演歌によくある、男が女の立場で歌う「女歌」として(あの 「よこはま・たそがれ」 みたいに)歌ったんだろうか? それにしても、ちょっとなあ。まあ、少なくともはっきりしているのは、彼が原曲の歌詞の意味なんかまったく知らずに歌っているということだろう。
それと、余計な話かも知れないが、この歌の英語部分、五木ひろしは完全に「カタカナ英語」だが、江利チエミはかなりこなれてるよね。さすが、進駐軍のキャンプ周りで鍛えただけのことはある。
【追記】
※ このテーマは思わぬ広がりをみせて、続編を書いていますので、ご覧ください。
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コメント
御題の チョ・・ はまずくないでしょうか・・・。
投稿: ロティ | 2008年12月13日 05:24
ロティ さん:
>御題の チョ・・ はまずくないでしょうか・・・。
どうしてでしょう?
投稿: tak | 2008年12月13日 07:56
この曲の一番有名なバージョンは、女性歌手のパティー・ペイジのものですね
テネシー州の第二?州歌となっているという
同じ曲を男性歌手と女性歌手が
如何に男歌として歌うか?
如何に女歌として歌うか?
興味があり、聞き比べたりします
ジャズ・ポップスでの話しですが
それに、私のブログで「英語に女性話法というものがあるのか?」と質問をされて苦戦しました (笑)
投稿: alex99 | 2008年12月13日 08:24
歌詞を変えたり、余計なセリフを加えると森進一のような騒動が、面白おかしく報道されるからかな?
カバー曲が好きなんですよ。なぜか、カバーで歌ってる歌手の方が素直に聴ける。この曲に同梱されてる悲しき雨音もいいですね。
youtubeとブログの合体したような米国の音楽専門サイト(完全無料)IMEEMというサイトで色々な曲を聴くが、早速、テネシーワルツも聴いてみたのでした。Norah Jonesが歌うテネシーワルツが気にいりました。
ちなみにIMEEMのテネシーワルツ検索後url
http://www.imeem.com/tag/Tennessee%20Waltz/
投稿: やっ | 2008年12月13日 17:47
alex さん:
>同じ曲を男性歌手と女性歌手が
>如何に男歌として歌うか?
>如何に女歌として歌うか?
これは、当然にも、
同じ曲を男性歌手と女性歌手が
如何に (男性歌手が) 男歌として歌うか?
如何に (女性歌手が) 女歌として歌うか?
ということだと思います。
少なくとも英語のスタンダードナンバーでは、これが常識ですね。
ところが、よく考えてみると、日本では
男性歌手が女の立場で書かれた歌を歌う
(「よこはま・たそがれ」 など、ムード歌謡に多い)
女性歌手が男の立場で書かれた歌を歌う
(水前寺清子の 「いっぽんどっこの歌」 など)
という文化がありますね。
ちょっと調べてみたら、こういうのを CGP (クロス・ジェンダー・パフォーマンス) と言うんだそうです。
http://homepage2.nifty.com/tipitina/CGREP.html
ただ、そのコンセプトを英語の歌にも適用したのかどうかしりませんが、テネシーワルツを歌うのに男の声で
"♪ I introduced her to my loved one"
とやられると、それを聞いた瞬間、ぞくっと気持ち悪いですね。
これって、多分、文化の違いなんでしょうね ^^;)
投稿: tak | 2008年12月13日 21:51
やっ さん:
>歌詞を変えたり、余計なセリフを加えると森進一のような騒動が、面白おかしく報道されるからかな?
いや、シンガーのジェンダーによって、三人称の he/she を使い分けるのは、常識でして、そんな騒動以前の問題です。
例えば、"Yesterday" を女性歌手が歌ったら、
"Why he had to go" になります。
それで ポール・マッカートニー が怒るなんて、あり得ません ^^;)
>youtubeとブログの合体したような米国の音楽専門サイト(完全無料)IMEEMというサイトで色々な曲を聴くが、早速、テネシーワルツも聴いてみたのでした。
以下に男性歌手バージョンをいくつか並べてみました。
(当然にも、全員 "I introduced him..." と歌ってます)
パット・ブーン版
http://www.imeem.com/iancom/music/2PN8gFIX/pat_boone_tennessee_waltz/
サム・クック版
http://www.imeem.com/vivienleefilms/video/Tpgo72GC
/sam_cooke_tennessee_waltz_live_music_video/
ウィリー・ロジャーズ版
http://www.imeem.com/people/YAsnDal/music/Z4ScC2UY/willie_rogers_tennessee_waltz/
投稿: tak | 2008年12月13日 22:06
そうですよね
tak-shonai さんが言う通り、ジェンダーを変えて歌うのは当たり前の事なんですが、意外に日本では一般的ではない
だから、そのこと(ジェンダーを歌詞においても変換する)に気がつかない
男言葉、女言葉なら、気がつく日本語ですが、英語に直すと、文法のジェンダーがよくわからない
そんなことが起因しているのでしょう
許してあげましょう (笑)
もうひとつ、ポップスなどにはアンサーソングというジャンルがありますね
プレスリーの「Are you lonsome tonight?」(私、酩酊なのでスペルが大丈夫か?)に対して女性歌手が「Yes I`m lonsome tonight」だったかな?
答えていましたね
あれも、ちょっと粋
いつかの、だれかさんの「私のコメント、酒臭くなかったですか?}ってコメント、素直で、おおらかで (笑) 素晴らしかった
私には言えないセリフだと、度量を感じました
これは、ぜひ言っときたくて (笑)
投稿: alex99 | 2008年12月14日 00:39
alex さん:
>tak-shonai さんが言う通り、ジェンダーを変えて歌うのは当たり前の事なんですが、意外に日本では一般的ではない
>許してあげましょう (笑)
もとより責めるつもりはありませんが、「ぞくっ」 だけは生理的反応なので、収まらなくて ^^;)
投稿: tak | 2008年12月14日 16:26