堅い道と柔らかい土壌 Part 2
昨日の記事 (Part 1) で私は、本来仏であるはずの人間がなぜ迷うのかという根元的な疑問にこと寄せて、踏み固められた土 (いにしえ人の知恵) への信頼について述べた。
踏み固められた道を歩くと、道を外れれば靴底を通して伝わる感触が急に柔らかくなるので、すぐにわかるのである。
その上で私は、次のように書いた。確認のため、引用しておこう。
全ての者の中に仏性はあるので、その仏性が自ずから先達の付けてくれた道を歩むのだと思っていた。心を空にして歩めば、仏性を内在する菩薩の辿るべき道は、靴底を通して自ずから示されるのだと思っていた。なぜならば、仏性は仏性に感応するからだ。
ここで私は「思っていた」という過去形を 2度繰り返して使っている。つまり、これは私の過去の理解であって、今はちょっとだけ違うのである。この理解は一見偉そうにみえるかもしれないが、恥ずかしながら浅薄だったのだ。
なぜ浅薄なのかというと、靴底を通してはっきりとわかる「道を外れたところ」に、人間はどうしてそんなにも好んで足を踏み入れたがるのかということが、全然語られていないのである。
実は、私にはその答えがおぼろげながら見えていた。ずっと前から「あっさり悟った悟りより、迷いに迷って辿り着いた悟りの方が、味わい深くて、コクがあるかもね」と、私は言っている。しかし、そんな言い方では漠然としすぎて「だから、それがどうした?」と返されてしまいそうだ。
その解答のとっかかりになりそうな本を、最近読んだ。"奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録" (石川 拓治・著、幻冬舎・刊、当ブログの右欄 "My Recommendation" にリンクあり)という本である。これ、ベストセラーまでは行かないかもしれないが、かなり売れているのだろう。書店でも平積みになっている。
一昨年の 11月(だと思う)に、NHK テレビの 「プロフェッショナル」 という番組で、木村秋則さんという方の、まさに「奇跡のリンゴ」というにふさわしいリンゴ作りが紹介された。私はその番組を見ていないが、それを見た知人が感動しまくっていたので、ちょっと意識していて、つい最近、書籍化されたものを見つけて買ったのである。
内容は私がくどくど説明するより、この番組に関わった茂木健一郎氏がブログで紹介されているので、単刀直入「奇跡のリンゴ」 というタイトルの記事を読んでいただく方がいいだろう。
木村秋則さんは、農薬と肥料がなければ絶対に育たないといわれたリンゴを、それらを使わずに育てることに成功した。それは素晴らしい味で、しかも切って置いても腐らない「奇跡のリンゴ」であるという。そして私がここで言いたいのはただ一つ、その秘密は「土壌」にあるらしいということなのだ。
無農薬無肥料でリンゴを育てることに失敗し続け、人生に希望を失って自殺しようと、山に分け入った木村さんの目の前に広がっていたのは、豊かな山の自然、「いのち」のあふれる柔らかい土壌だった。木村さんは、その土壌を自分の農園に再現したのである。
それまでの木村さんの農園の土は、他の農園と同様に、雑草を駆除し、堅く踏みしめられたものだった。そこで育ったリンゴは、虫や病気に対する抵抗力がなく、育つことができなかった。ところが柔らかい「いのち」のあふれる土壌にしていくと、ある年からリンゴの白い花が咲き、実がなり始めたのだった。
どうやら「いのち」というものは、あまり堅く踏みしめられた、一見整然としたものを、本来好まないようなのである。豊かな自然の中でこそ、本来の力を十分に発揮して育つことができるもののようなのだ。
じゃあ 「堅く踏みしめられた道」への私の信頼は、一体どうなってしまうのだ?
私にとってはこれが大変な問題なのだが、今日はここまで。何しろちょっと難しい話なので、一気に書ききるだけの時間がなく、申し訳ないが、切れ切れで書かせて頂くことにする。
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