材料を十分に 「寝かせる」 ということ
一昨日、「本格的インドカレーに期待」なんていう記事を書いた流れというかなんというか、近頃「寝かせる」ということについて考えている。カレーも一晩寝かせると旨いという。
私は若い頃、「寝かせる」ということの苦手な人間だった。思いついたら、即やっちゃわないと気が済まなかったのである。
ところが近頃では、とてもいい加減にずぼらになってきて、思い立ってもなかなか始めない。ぐずぐずしているうちに、やるべきことなんて忘れてしまっている。しばらく経ってから、「あぁ、そうそう」なんて、呑気に思い出す。それでもまだ手を付けない。「どうしたもんかなあ」なんて、考えるともなく考えている。というか、半分忘れている。
で、ようやく切羽詰まった頃に 「いくらなんでも、そろそろ始めるか」なんて、仕事に着手すると、なんと、すらすらできてしまう。まるで、以前やったことをなぞるが如く、苦もなく仕上がって、それが自分でも「ほほう」なんて感心するほどのできばえだったりする。
これって、忘れている間に自分の中で「寝かされ」ていて、その間にずいぶんとうまい具合に熟成されちゃっているようなのだ。忘れているようでも案外忘れきっているわけじゃない。心の隅の方で、コクが出てきているようなのである。
私は 30歳代を繊維専門の日刊紙の記者として過ごした。日刊紙だから、その日に取材したことをその日のうちに書く。速さの勝負である。で、はっきり言って、書いたことはよほど身を入れて取材した特集物か何かでない限り、その日のうちに忘れてしまう。単に「垂れ流し」だ。
その後いろいろなキャリアを経て、日刊紙のような短サイクルのものはなくなった。今は月ベースの仕事が多い。
月ベースの仕事でも、初めのうちは仕入れた材料は、その日のうちに形にしてこなしてしまっていた。ところがあまり速くこなすと、周囲のペースに合わない。こちらがいくら早めに仕上げても、次にプロセスでのんびりとデスクに積まれていたりする。
だったら、こちらも周囲の流れに合わせて仕事をしようとする。初めのうちはなんとなくペースがつかめなかったが、一度呼吸があってしまうと、不思議なものである。材料を「十分寝かせる」ということを覚えてしまった。
おなじ材料でも、せっかちに形に仕上げてしまうとそれなりのものにしかならない。ところが十分に寝かせてから形にすると、なんとなくオモムキが出てくるのである。こればかりは、説明しにくいがそんなものなのである。
一晩寝かせたカレーに「コク」が出るというが、じゃあ、その「コク」って何なんだと言っても、なかなかうまく説明できない。そんなようなものだが、人生、あまり急ぎすぎない方がいいという教訓なのかもしれない。
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コメント
私は、tak-shonai さんと反対に、愚図な人間です
モラトリアムとも言い、怠け者とも言います (笑)
とてもスピーディーな仕事には向いていません
一応、いろいろ考える方でもあるので、ベストに持って行きたがるという原因もあります
歳を取って、ますます、スピードが鈍くなって困っています
ただ、私は中郷などで、プラント案件という巨額プロジェクトをしていたので、この私の愚図な、考えすぎる (笑) 性格がプラスになった時もあります
入札期間を友好に生かして、拙速に決断せず、いろいろな案をじっくり検討して、ベストな案を積み上げてプラント案件の入札のスペックなどを決めるのです
この結果、客先の要求にあったオファーが可能になって、大型契約が受注できた実例があります
分野が違うと、いろいろですね
「手がもどる」という職人さん言葉がありますね
やりかけた仕事を中断してしまうと、仕事によってははじめからやり直しになったり、せっかく会得したコツの様なものを忘れてしまったりのディメリットがあるので、仕事は一気にやってしまった方がいいという教えです
私など、手がもどるばかりです (笑)
投稿: alex99 | 2009年1月14日 13:09
alex さん:
なるほど、のらりくらりとやる方がいいこともあるんですね。
ただ、「のらりくらり」 と見えても当事者の頭の中はフル回転してるんでしょうけど。
>「手がもどる」という職人さん言葉がありますね
私も、ブログをやっていなければ確実に手が戻ると思います。
投稿: tak | 2009年1月14日 15:04
追加になりますが、総合商社は昔、ラーメンからミサイルまで売ると言われましたけれど、事実いろんな部門があります
中にはスピード命の商売もあり、その一方で私のようなのらくら(に見える)商売もある
人も様々です
投稿: alex99 | 2009年1月14日 15:48
数年前までは、私も朝のことは昼には忘れる記者稼業でした。しかし、今は四半期単位です。こつこつと仕上げてゆくのが苦手なので、四半期ごとに「夏休みの宿題」状態です。
何かの間違いで1日、2日早く仕上がったときに一晩寝かせてみると、思わぬ改善点がみつかります。しかし、私の場合、いったん完成といえるところまで持っていかないと「寝かせる」効果が出ません。
そこまでわかっていながら、いつもギリギリになってしまうのは我ながら情けないです。今週まさにそういうデッドラインが目白押しなので、ついボヤいてしまいました…
失礼!
投稿: きっしー | 2009年1月14日 16:48
takさん
金属加工時の話ですが・・・
熱処理時や機械加工時に金属素材内部にストレス(応力)が生じた場合、それを除く方法のひとつとして「枯らし」という方法があります。
いわゆる『長期間放置』で、鋳物(部品)に用いられた手法でした。
(今では場所も時間も資金も必要とされるため、焼鈍し等の熱処理に置き換えられていることが多いと聞きます)
工作機械や金型に応力が残っていますと、出来上がる製品(部品)の精度を損ないますので(設計時点の寸法が出せない)、応力の除去は欠くことの出来ないものです。
部品が上手く嵌合しないなんてのは、安物ノックダウン家具なんかにありがちですが、あれなんかそのまま工作精度や金型の粗雑さが形に出ているわけです。
熟成するとストレスが抜けるものは色々あるように思います。
ジャンルは異なりますが、意見や文章にしても然りでしょう。
会社宛てのレポートにしても、(嘗て大好きだった)あの娘に送ったラヴレターにしても、慌てたり舞い上がったりしたまま出すと碌な事は無い(無かった)訳で。(懐泣)
かと云って、熟成しすぎれば腐る/錆びる/廃れるで使い物にならなくなるので、何事も時宜が大切なのはこれまた然りですが・・・
私もこちらに投稿する際は幾度か推敲しております。
#それでこの程度かと云われれば・・・それまでですが。(苦笑)
投稿: 貿易風 | 2009年1月15日 00:36
自分はせっかちなんで、とりあえず勢いでやっちゃうんです。
しかし、後から見ると「こうすれば良かった」と思うことばかりでして、皆さんの
コメントを見るとなるほどと考えさせられることしきりです。
そういえば、池波正太郎先生も「(原稿は)最後の一日手元に置いておくだけでも違う」
とおっしゃっておりました。
文章に限らず、どんな仕事でもそうなんでしょうね。
投稿: 雪山男 | 2009年1月15日 08:41
alex さん:
>追加になりますが、総合商社は昔、ラーメンからミサイルまで売ると言われましたけれど、事実いろんな部門があります
>中にはスピード命の商売もあり、その一方で私のようなのらくら(に見える)商売もある
>人も様々です
私の付き合いのある商社マンは繊維畑の人ですが、商社の繊維部門というのは、かなり縮小しちゃいましたね。
投稿: tak | 2009年1月15日 09:04
きっしー さん:
日刊ベースから、四半期ベースとは、かなりのギャップですね。
ちょっと早めにできあがって、それを修正できるというのは、PC で仕事するようになったことの福音かもしれませんね。
昔だったら、印刷してできあがってしまうと、あとから 「ありゃ?」 なんて思っても、そのまま 「えいや」 で出してしまうなんてことが多かったという気がします。
投稿: tak | 2009年1月15日 09:06
貿易風 さん:
>熟成するとストレスが抜けるものは色々あるように思います。
>ジャンルは異なりますが、意見や文章にしても然りでしょう。
織物でもありますね。
とくに、熱を加えて接着芯地を付けた毛織物などは、後から冷えて湿度が加わると、変形します。
それを見越して、初めに織物のストレスを十分とってから、上手に処理しなければならないんです。
昔、キャリアウーマンに流行ったボディコン・スーツのラペル (襟) が、細かいシボシボになっているのがよく見られましたが、あれなんか、下手な処理の典型です。
文章なんかも、やっぱり寝かせると変なところが浮き彫りにされたりしますね。
(本来なら、書いた自転で気付けばいいんでしょうが ^^;)
投稿: tak | 2009年1月15日 09:12
雪山男 さん:
>そういえば、池波正太郎先生も「(原稿は)最後の一日手元に置いておくだけでも違う」とおっしゃっておりました。
そうなんでしょうね。本当に。
投稿: tak | 2009年1月15日 09:16