買えるけど買えない現象?
昨今の消費低迷の要因の一つに「買えるけど買えない現象」というのがあると、繊維業界紙のコラムに書いてあった。
某百貨店に「今でも欲しいし、買えるのだけど、周りの目が気になるし、買ってもつけられないので、(購入を)やめたい」 という理由で、高額時計の購入キャンセルがあったそうだ。
百貨店の担当部長は、これを「買えるけど買えない現象」と名付けたんだそうだ。この言葉、一見するとおかしい。「買えるけど買わない」というならわかるが、「買えるけど買えない」と表現したところに、かなり錯綜した心理がうかがわれる。
私ならもっと慎重かつわかりやすく、「もっともらしい言い訳をつけつつも、結局やっぱり買えないわ現象」とか「以前なら買えたけど、今は買えなくなったんだわ現象」とか名付けたいと思う。
まず、この「今でも欲しいし、買えるのだけど、周りの目が気になるし、買ってもつけられないので、(購入を)やめたい」というキャンセル理由も、眉に唾を付けてかかる必要があるだろう。
もっともらしいことを言っているが、高額時計を買う層というのは、「周りの目が気になるし、買ってもつけられない」なんてことは普通は言わない。彼らは自己満足と同じぐらいの比重で、「周りに見せるために買う」のだから。
つまり、周りの目が気になるから購入をやめるという理由は考えにくい。ということは、このお客は、周りに見せつけるために買おうと思って発注はしたものの、昨今の不況で懐具合が相当にさみしくなったので、考え直した結果やっぱり諦めたと解釈する方が自然ではなかろうか。
そうした事情に立った上でのことなら、「あの人、相当苦しいはずなのに、見栄だけは相変わらずね」なんて思われるのも嫌だから、「周りの目が気になるし、買ってもつけられない」というのも、少しは「なるほど、それもあるかもね」という気もする。
一方、百貨店側はどうして「買えるけど…」なんていう見え透いた言い訳をそのまま受け入れているのか。それは顧客の懐具合がそんなにまでさみしくなっているとは思いたくないからかもしれない。昨今の売上げ減少は、多くは心理的要因によるもので、ほとぼりが冷めれば、売上げは戻ると思いたいのではなかろうか。
しかし、それは甘い。完全に甘い。そして、そんなことは誰でもわかっているのだが、あまりシリアスなことを言ったり書いたりすると、市場のマインドがますます冷え込むから、業界紙としてもオブラートに包んだような書き方をする。
そのあたりの複雑な心理が、「買えるけど買わない」ならぬ「買えるけど買えない」というイレギュラーっぽい言い方に反映されているように思われる。
【同日 追記】
あとで気付いたのだが、この記事には 「買えるけど買わない現象」と「買えるけど買えない現象」という 2つの表現が混在している。もしかして最も複雑な心理が働いたのは、新聞の編集部かもしれない。
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コメント
さすがtak-shonai さん
マーケティングの実地知識がおありなので、こういうひねった見方が出来るんでしょうね
はじめは不景気だから回りに気をつかって自粛・・・と言う話しかな?と思っていたんですが、実体として買えなくなってしまった、ということですね
たしかに、高額商品を買う人は、人に見せびらかせる意欲は人一倍なんだろうと思います
私はやはりコスト・パーフォーマンスと言うものが気になりますが、ああいう人達は C/P があまりにも悪いものを、無造作に買うようですからね
私など、私としては思い切ったものを買っても、そういう人の買う高額商品には足元にも及ばない
それにもともと、人に見せびらかす事など今まで思ってもいませんでした
小心で謙虚なところがあると自分で自分をほめて?やりたい (笑)
むしろ、ゴルフ用具など自分の実力より上(はるかに) (笑) の物を持っていると萎縮してしまいます
デジタル一眼カメラもそんな気配です (笑)
もしカメラ教室などに行っても、「本当はこんなカメラを持つほどのレベルじゃないんですが」とまわりの人みんなに言い訳をしそうです (笑)
投稿: alex99 | 2009年2月 9日 12:59
alex さん:
>マーケティングの実地知識がおありなので、こういうひねった見方が出来るんでしょうね
いやいや、実地知識というほどのものは持ち合わせておりません。
外資系団体時代に初歩を学んだだけです。
ただ、業界記者時代にいろいろなケースについていやというほど書きましたので、耳学問だけは豊富かもしれません。
>私はやはりコスト・パーフォーマンスと言うものが気になりますが、ああいう人達は C/P があまりにも悪いものを、無造作に買うようですからね
腕時計のコストパフォーマンスで言ったら、せいぜい 5,000~6,000円のもので十分でしょう。
あるいは、純粋に機能と価格のコストパフォーマンス比較をしたら、2,980円ぐらいのものでいいかも。
私のは、6,000円ぐらいだったかな。
ソーラーバッテリー付きなので、ちょっと高めです。
同じデザインと性能で 3,000円のものがあったら、迷わずそっちを買います。
投稿: tak | 2009年2月 9日 14:24
必ずしも財政的には逼迫していなくても、「見せびらかし」のコスト・パフォーマンスが悪くなっているということはあるんじゃないでしょうか?
高額商品が「尊敬」されない、あるいは成金趣味として嫌悪されるという方向に世の中の価値観がシフトしていれば、コストパフォーマンスは悪くなるので手元に潤沢な資金があり、しかも金ぴかのロxxクスに未練があっても、手を出しにくい、と。
車に例えると、「ハマー(装甲車みたいな派手なSUV)は今でも好きだしお金もあるけど、やっぱり今どき買えないよなあ」といった場合、ハマーの車両価格やガソリン代の問題ではない(部分が大きい)のはよりはっきりするのではないでしょうか?
じゃあ、お金を持っている人にどうやってそれを使って満足感を得てもらうか?これがわかればいいんですけどねえ。
投稿: きっしー | 2009年2月 9日 15:08
本当にその高級時計のメーカーが好きであれば、たとえ万難を排しても購入すると思うのですが、人が持っているからとか付和雷同的にほしいと思う人であれば、時計は普通の時計にして、浮いた分をどこかに回そうと考えるんじゃないでしょうか。
かつて「いつかはクラウン」って言葉がありましたけど、あれだって世のおじさまたちが本当にクラウンをほしいと思っていたわけではなさそうですし。
この手の高級なものってある程度、雰囲気で買っちゃっているのもあるんでしょうけど、alexさんやきっしーさんもおっしゃっているとおり、コストパフォーマンスが悪いのでこれをどのように買わせるかを売り手は考えなきゃいけないんでしょうね。
投稿: 雪山男 | 2009年2月 9日 15:37
きっしー さん:
>必ずしも財政的には逼迫していなくても、「見せびらかし」のコスト・パフォーマンスが悪くなっているということはあるんじゃないでしょうか?
なるほど。
成金でも成金趣味を避けたくなるくらい、世間の空気は冷え込んでいるということですね。
でも、今回ロxxクスをキャンセルした人は、前に買ったロxxクス (あるいは オxガ?) を身に付けているんじゃないかという気がしますが ^^;)
>じゃあ、お金を持っている人にどうやってそれを使って満足感を得てもらうか?これがわかればいいんですけどねえ。
お金を使わないことがトレンドになっちゃってるかもしれませんね。
何しろ、時代はフルーガリスタですから。
https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2009/01/post-4d8e.html
投稿: tak | 2009年2月 9日 16:37
雪山男 さん:
>本当にその高級時計のメーカーが好きであれば、たとえ万難を排しても購入すると思うのですが、人が持っているからとか付和雷同的にほしいと思う人であれば、時計は普通の時計にして、浮いた分をどこかに回そうと考えるんじゃないでしょうか。
それで、キャンセルする時には、もっともらしいことを言って見栄を張ると ^^;)
>この手の高級なものってある程度、雰囲気で買っちゃっているのもあるんでしょうけど、alexさんやきっしーさんもおっしゃっているとおり、コストパフォーマンスが悪いのでこれをどのように買わせるかを売り手は考えなきゃいけないんでしょうね。
売り手にとっては、困難な時代になったようですね。
コスト・パフォーマンスを追求すると、なぜか、ステイタスは落っこちますからね ^^;)
投稿: tak | 2009年2月 9日 16:40
takさん
こういうご時勢ですから、妬み、嫉みが怖くて購入に踏み切れない方が居ても不思議は無いかなと思いました。>買えない理由
キャンセルされた時計が何なのかが不明ですが、R~とかO~とかの、世間一般に判りやすい銘柄なのかなぁ、と。
Patek PhilippeとかVacheron ConstantinとかAudemars Piguetといった、超弩級高級高額時計であれば、却って周りには判りそうもないですが。(そもそも直に目にする機会がほとんど無い、特に田舎では)
さて、ブランドの存続は、古典的発想では如何に狂信的なパトロンを確保し続けるかなのでは?と思います。かつて、貴族が特定の馬具職人を贔屓にしていたように。
それを現在の手法でホールディングス・カンパニーとして邁進しているのがLVMHかな、という印象です。
この辺りはtakさんがお詳しいでしょうから、別途ご解説いただけたら、なんて思いますが。
前述の御三家はともかく、R~やO~であっても時間を確認する為の道具としてはCPが異常と云っていいくらいに悪いですが、工芸装飾品として見ることができればその価値は一変しますね。掛けられた手数を考慮すればあながち高価いとも言い切れないような気もします。私が機械式時計が好きという贔屓目もありますが。(笑)
投稿: 貿易風 | 2009年2月10日 02:59
貿易風 さん:
>こういうご時勢ですから、妬み、嫉みが怖くて購入に踏み切れない方が居ても不思議は無いかなと思いました。>買えない理由
それは、二次的理由でしょうね。
金さえあれば、結局は買っちゃいますよ。ここぞという時のために。
>Patek PhilippeとかVacheron ConstantinとかAudemars Piguetといった、超弩級高級高額時計であれば、却って周りには判りそうもないですが。(そもそも直に目にする機会がほとんど無い、特に田舎では)
初耳のブランドばかりです。でも、Audemars Piguet は、見覚えがあるような、ないような。^^;)
>それを現在の手法でホールディングス・カンパニーとして邁進しているのがLVMHかな、という印象です。
「ヴィトンの価値が変容する日」 という記事を、昨年の今頃書いています。
https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2008/02/post_424a.html
>工芸装飾品として見ることができればその価値は一変しますね。
その価値のわかる人がもてばいいんでしょうね。
投稿: tak | 2009年2月10日 12:57