『唯一郎句集』 レビュー #15
『唯一郎句集』 のレビューも、今回で 15回目だ。前回に続いて「木鐸」時代の句。とはいえ、「木鐸」時代の句は 7句しかない。
今回は 残りの 4句。これまでずっと、句集の 1ページ分を取り上げてきたが、今回は初めて 2ページ分のレビューとなる。というのは、1ページに 2句しか収められていないから。
本当にもう、こんなに贅沢なページの使い方をするぐらいなら、後世に読む者がもう少しわかりやすいような、解説的な記事を加えてもらいたかったものだ。前回のレビューでもちょっと不満を述べたが、年譜と掲載された雑誌の解説ぐらいは入れてもらいたかったものである。
私は唯一郎の孫にあたるが、私の母は幼い頃に養女に出たので、外孫も外孫、血のつながりはあっても、戸籍上のつながりはない孫である。だから自然、唯一郎の家の、それも大正末期から昭和初期の頃の事情なんて疎い。何とか想像でレビューせざるを得ないのである。
「木鐸」という雑誌についてググってみると、庄内日報社のサイトの、「郷土の先人・先覚 144」 という特集の「酒田が生んだ政治家 伊東知也」というページに、以下のようにある。(参照)
酒田で発行していた雑誌「木鐸 (ぼくたく)」の明治 43年 2月号に知也の「鉄道問題所感」という文が載っている。この文は雑誌「日本及日本人」所蔵の分を酒田人を覚醒するため知也が投稿したもの。
ずいぶん昔から続いている雑誌だったらしい。少なくとも明治末期から大正末期に至る 10数年間発行されたことは間違いないようだ。政治と文学中心の硬派のローカル誌だったようだ。そして大正の末には、唯一郎の家で印刷を請け負っていたようなのである。
とりあえず、レビューを始める。
梅の木傍らの普請よ花すぐ散り
梅の木のそばで普請 (工事) があって、そのせいで梅の花がすぐに散ってしまったということのようだ。
梅も工事のどさくさがストレスになって、早々に散ってしまうのだろうか。梅になり代って「うるさい!」と不平を述べているような句である。
娶れる友が笑はざりし 梅屋敷塀際
妻を娶った友が、笑顔を見せなかったというおである。梅屋敷の塀際で、その友と逢ったときの話なのだろうか。
普請のストレスで花は早々に散るし、せっかく吉事のあった友は不機嫌だという。梅が咲いても少しも楽しい気分のない、ストレスの多い春のようである。
世の中も大正デモクラシーの時代を過ぎて、次第に昭和初期の動乱の時代に突入する頃だ。
雲雀とまりおちつかず浜ぐみ揺るる
日本最大規模の砂丘の一つ、庄内砂丘に位置する酒田では、海岸近くに行くとずっと砂地が続き、浜グミが生えていた。昔は防砂林としても、松とともに盛んに植えられたらしい。
その浜グミの低木に、ヒバリがとまって揺れているという。
私はグミにヒバリがとまったところなんて見たことがないが、昔は珍しくない光景だったんだろうか。ヒバリはなにしろ、忙しい鳥である。浜グミの枝も落ち着かず揺れる。
「浜ぐみ揺るる」 と、終止形の 「揺る」 ではなく連体形で切れているから、後ろの何かが省略されているのだろう。あからさまに言ってしまうと語弊のあるようなことなのだろうか。余韻がありすぎて気にかかる。
青空見る毎 雲雀籠おもたくなり
昔はヒバリを籠に入れて飼っていたんだろうか。そして、青空を見るのは、誰なのだろうか。
唯一郎自身が見上げるのか。それとも籠の中のヒバリが見上げるのか。私はヒバリが青空を見上げるという方を採りたい。ヒバリが本来飛んで揚がりたい青空を見上げる。
その思いが、籠を重くする。
今日は 4句とも、何か思いを背後に隠したような、ちょっとした重苦しさのある作品である。
本日はこれぎり。
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コメント
ヒバリ籠です。http://blogs.yahoo.co.jp/suzumetanxxx/25189568.html
香港のバードストリートに、昔はありました。
青空を見るのは、ヒバリでしょうか?紹介の
ホームページにもありますが、上に飛ぶ習性が
ありますから、人間につかまってしまったヒバリが、
青い空を見るが、籠の中でしか飛べない憂鬱な
気持ちが、籠を重たく感じさせるのでしょうか?
投稿: ヒロ | 2009年3月29日 07:59
ヒロ さん:
ありがとうございます。
なるほど、高さのある籠なんですね。
投稿: tak | 2009年3月29日 14:37