「エンダイブ」 を巡る冒険
近頃妻が「エンダイブ」という野菜に凝って、盛んに食わせてくれる。なんだかしらないが、ちょっとハリのある繊細な葉物野菜で、サラダにして食べると、繊細な苦みがおいしい。
これに、白身の魚の水煮をほぐしたのとか、カツオのたたきなど、いろいろ添えて食べると、なかなかイケルのである。
この新種の野菜を初めて食べさせられた時、「これは、何て言う野菜?」と聞くと、妻は「それは『エンダイブ』っていうのよ」と答えた。ふぅん。で、私はさらに訊ねた。
「それって、漢字ではどう書くの?」
「漢字?」
「そう、漢字」
「漢字なんて、あるわけないじゃない。カタカナよ」
それでも私はめげなかった。だって、漢字で表記される植物の多くも、普通はひらがなとかカタカナで通っているってこともあるじゃないか。「檸檬 - レモン」、「蒲公英 - たんぽぽ」、「向日葵 - ひまわり」 とかね。
「本当は、漢字があるんじゃないの?」
「あるわけないじゃないの。エンダイブはエンダイブなんだもの」
というわけで、この時はそれで終わりになったのである。終わりにはなったのであるが、私の頭の中には、これはインド原産の野菜で、原語は梵語か何かで、きっともっともらしい漢字表記があるんじゃあるまいかとかいったような、曖昧な印象が残った。
そしてしばらく経ってから、気になって調べたら、「エンダイブ」はヨーロッパ原産の野菜であると書いてある(参照)。そして、英語表記は "endive" であるという。
「なんだ、インド原産じゃなかったのか」と、私は拍子抜けしたような気分になったのであった。
ところで、何で私がエンダイブをインド原産かと思ったのかという原因は、すぐに思いあたった。「閻浮提」という梵語とごっちゃになったのである。「閻浮提」の読みは「えんぶだい」 。ざっとした意味は人の世ということで、お経なんかに出てくる言葉だ。詳しくは、以下の通り (Goo 辞書より引用)
〔梵 Jambudvpa〕四洲(ししゆう)の一。須弥山の南方の海上にあるという島の名。島の中央には閻浮樹(えんぶじゆ)の森林があり、諸仏が出現する島とされた。もとはインドをさしたが、その他の国をもいい、また人間世界・現世をさすようになった。閻浮洲。南閻浮提。南閻浮洲。南瞻部(せんぶ)洲。瞻部洲。瞻部。閻浮。
まあ、鉄筋コンクリートを「テッコンキンクリート」なんて言い間違えるような勘違いをしてしまったわけである。お恥ずかしい。
それで、今度は次の問題である。英語表記は "endive"ということだが、字面からすると 「飛び込ませる」 みたいな意味合いが連想される。なんでまた、あの可愛い野菜が「飛び込ませる」みたいな話になるんだ?
この疑問もすぐに解消された。元々は英語ではなく、フランス語なのだそうで、読みは「アンディーヴ」に近いらしい。なるほど。で、意味合いというと、英語の飛び込みは関係なく、「いろいろ複雑な中に」みたいなイメージなのかなあ。まあ、葉っぱの形は確かに複雑だしね。
そして、さらにややこしいのは、Wikipedia の以下の表示である。
味はチコリーとよく似ているため混同されることが多い。フランスでは Chicorée(シコレ)ということが多く、単に Endive(アンディーヴ)というと普通はチコリーを指す。アメリカではエンダイブを誤って Chicory と呼ぶこともある。
まあ、とにかく呼称的には面倒な野菜のようなのだ。「閻浮提」と間違えてもおかしくはなかろう(と開き直っておくことにする)。
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