花粉症の多くは「気のせい」らしい
花粉症シーズンもあともう少しで終わる。今や日本人の 5人に 1人が花粉症とまでいわれているが、友人の耳鼻科医は、「花粉症患者の半数近くは気のせい」 と断言する。
たまたまこの季節に風邪を引き鼻水が多くなったりすると、「ついに自分も花粉症デビューか!」と勝手に思いこむ人が多いらしい。
気のせいとはこわいもので、自分は花粉症になってしまったのだと思いこむと、ちょっとした鼻水やくしゃみでも、花粉症のせいだということになり、そうした観念がますます花粉症じみた症状を誘発して固定化してしまうという。
そう聞いたのは昨年末、某雑誌の花粉症特集の取材を進めていた時のことである。彼が花粉症の多くが気のせいではないかと疑い始めたきっかけは、その 3年前に来院したある患者の嘆きだった。その患者は花粉症歴 4~5年というビジネスマンだったが、こう切々と訴えたという。
「先生、私の花粉症は近頃とくにひどいんですけど、先週ヨーロッパに出張したときは、全然平気だったんですよ。ところが帰りの飛行機の中で日本に近づくと、着陸しないうちから目はかゆくなるし、くしゃみは連発するしで、往生しちゃったんです。何とかなりませんかねぇ」
「これって、どう思う?」 と、彼はいまいましげに言うのだった。「気のせいと思わない方がおかしいでしょ? ヨーロッパにだって杉林はあるんだし、それに日本の杉花粉がどれほど大量だといっても、いくらなんでも飛行機の飛ぶ成層圏にまでは舞い上がらないだろうよ」
これで疑いを抱いた彼はそれ以後、「花粉症になった」と言って来院する患者に、決まってこう言うことにした。
「うーん、これはどうも、花粉症じゃなくて単なる鼻風邪かもしれませんねぇ。もう少し様子を見ることにしましょう」
そして、ごく普通の鼻炎薬を処方するのである。すると、花粉症と言って来院した患者の半数近くは、それで治ってしまうのだそうだ。中には、花粉症歴 3年を自称しながら、「単なる鼻風邪かも」の一言で治ってしまった患者もいるという。
これでますます「花粉症の多くは気のせい」という確信を深めた彼は、その論理を自分にも適用することにした。実は彼自身、それほどひどくはないが、長らく花粉症を患っていた。薬を飲むと眠くなって仕事に差し支えるので、マスクだけで我慢していたのである。
「驚いたね。『俺は花粉症なんかじゃない、単に風邪引いたのを勘違いしただけだ』と、日がな一日自分に言い聞かせたら、何の治療もしないのに、たちまち治っちゃった。あれから 2年間、全然平気。病は気からと言うけど、なんと医者の俺が、気のせいで何年も花粉症になってたんだよ!」
彼はこの画期的な発見にとても気をよくしていたが、問題は「あまりに馬鹿馬鹿しすぎて、学会に発表しにくいこと」だそうだ。それに「花粉症の多くが気のせい」では、同業者の商売に差し障るので、「ここだけの話」に止まってしまうのが残念だと言う。
なるほどそうだろう。気持ちはよくわかる。それで私も、この話はオフレコにすることに同意したのである。もっとも、あまりに馬鹿馬鹿しすぎて、初めからまともな記事になりそうにない話ではある。そしてその話を聞いた 3日後に、私は同じ特集の取材で、別の方面から意外な事実を聞いた。
ヨーロッパの杉は日本の杉とは品種が違い、気候などの条件も違うので、花粉症を誘発しにくいのだそうだ。それに、日本付近では大量の杉花粉が発生すると、成層圏にまで上昇することもまれではないらしい。そして航空機の換気フィルターは目が粗いので、容易に機内に入り込むというのだ。
だから、日本でひどい杉花粉症の人がヨーロッパで全然平気というのはよくあることだし、日本に近づいた飛行機の中で再発するというのもあり得ることだという。彼が「花粉症は気のせい」と断じたそもそもの前提は、残念なことにこれで呆気なく崩れてしまった。
私はその日のうちに、それを彼に電話で知らせてやった。昨年 12月中頃のことである。そしてそれから 2ヶ月ほど経った今年 2月半ばの夜、彼からひどい鼻声で電話がかかってきた。
「あのさあ(ぐしゅぐしゅ)、あんたが去年の暮れに余計なことを言ってきてくれたおかげで、俺の花粉症が一昨日あたりから 2年ぶりに再発しちゃったんだよ(ぐしゅぐしゅ)。しかも、前よりひどい感じ。一体どうしてくれるんだよ」
私は彼の「花粉症、気のせい説」を聞いた時には、かなり疑ってかかっていたが、これを聞いてしまっては、逆に信じないわけにいかなくなってしまったのである。
【4月 2日 追記】
この記事はエイプリルフール・ネタですので、よろしくお願いいたします。(既にコメント欄でもバレバレですが、念のため)
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コメント
あぁ!
そうですね。
毎年楽しませていただいています。
takさんのHPチェックして何年になるんだろうと
朝からちょっと感慨にふけってしまいました。
これからもよろしくお願いします。
投稿: とも | 2009年4月 1日 07:55
友人(昔の仕事仲間)が、現在外資系の航空貨物会社で整備士やってます。
takさん仰るとおり、春先から5月の連休明けまで、航空機のフィルター掃除が大変なんだそうです。
海外(欧米)からの航空機より、国内&アジア地域を発着する航空機のほうが大変だとか!
その友人いわく、『花粉の地域性って、確実にあると思う。』
へぇ~、そうなんやぁ~!
投稿: 乙痴庵 | 2009年4月 1日 08:47
なるほどぉ、そういうこともあろうかとしきりに頷いてしまう「今日」この頃です。
投稿: 山辺響 | 2009年4月 1日 09:26
前半を読んでいて、そりゃ違うだろうと思いながら、後半を見て納得。私も海外では花粉症は出ませんし、日本に着陸する飛行機は成田に近づけば高度を落とすので不思議ではありません。
しかし、最後のオチを見て、「今日は4月1日だけど、もしかしたらかつがれたのか?」と疑心暗鬼になっています。
種明かしを…
投稿: きっしー | 2009年4月 1日 11:18
とも さん:
>あぁ!
>そうですね。
>毎年楽しませていただいています。
むむ、鋭い! (^o^)
投稿: tak | 2009年4月 1日 12:18
乙痴庵 さん:
>takさん仰るとおり、春先から5月の連休明けまで、航空機のフィルター掃除が大変なんだそうです。
>海外(欧米)からの航空機より、国内&アジア地域を発着する航空機のほうが大変だとか!
やっぱりね。
一応、事実は抑えてますから。
投稿: tak | 2009年4月 1日 12:19
山辺響 さん:
>なるほどぉ、そういうこともあろうかとしきりに頷いてしまう「今日」この頃です。
毎度ツボをおさえたコメント、ありがとうございます m(_ _)m
投稿: tak | 2009年4月 1日 12:20
きっしー さん:
>種明かしを…
明日までお待ちください。
あ、こう言ってしまったら、もう明かしたようなものか ^^;)
投稿: tak | 2009年4月 1日 12:22
知人が「杉花粉症がひどいから、この季節はヨーロッパに逃げたい」とぼやいておりました。
しかし、初夏のヨーロッパには、杉花粉より怖い「ポプラ花粉」が舞うとか。
3年前、ドイツでのサッカーWカップでは、画面の中でケサランパサランみたいなモノがフワフワしてました。アレです。
投稿: karin | 2009年4月 1日 15:08
karin さん:
>知人が「杉花粉症がひどいから、この季節はヨーロッパに逃げたい」とぼやいておりました。
私も一時、春と秋にドイツに行く仕事をしていたことがありまして、スギ花粉症はヨーロッパでは全然平気というのは、実感としてわかります。
>しかし、初夏のヨーロッパには、杉花粉より怖い「ポプラ花粉」が舞うとか。
ポプラの花粉は、北海道でも舞うというか、積もるというのは聞いたことがありますが、積もるだけじゃなくて、花粉症も発生するとは、知りませんでした。
世の中、いろいろあるもんですね ^^;)
投稿: tak | 2009年4月 1日 16:03
エイプリルフールのネタと思いつつも、自分も転勤で環境が変わってすっかり花粉症が治ったんで、これを笑うとまさに、裸の王様状態になってしまうんではないかという不安が。。。
投稿: 雪山男 | 2009年4月 1日 16:43
雪山男 さん:
>エイプリルフールのネタと思いつつも、自分も転勤で環境が変わってすっかり花粉症が治ったんで、これを笑うとまさに、裸の王様状態になってしまうんではないかという不安が。。。
実は私も、年によっては 「治っちゃった」 と思いたくなるようなこともあるのです。
ただ、飛散量の多い年は、やっぱり出ますね ^^;)
投稿: tak | 2009年4月 1日 16:53
明日、訂正のお知らせがアップされるんだろうな。
花粉症の多くは「樹のせい」の間違いでした……って。
投稿: 山辺響 | 2009年4月 1日 18:37
山辺響 さん:
>明日、訂正のお知らせがアップされるんだろうな。
>花粉症の多くは「樹のせい」の間違いでした……って。
恐れ入りました。
座布団 5枚! (^o^)
投稿: tak | 2009年4月 1日 18:49