肺結核を巡る冒険
ハリセンボンというお笑いコンビの箕輪はるかという人が肺結核で入院したのだそうだ。テレビをあまり見ない私は、このニュースを読んでも、全然誰のことだかわからなかった。
相方は近藤春菜という名前らしい。「二人揃って女みたいな名前だなあ」と思ったら、それも当然、二人ともれっきとした女だった。
いやはや、大変失礼してしまった。ニュースに添えられた小さな写真をみたところでは、女性とは気付かなかったのである。このブログを書こうとして念のためネットで調べ、さっき初めて女性とわかった。しかも入院した箕輪はるかって、私の大学の後輩じゃないか。
私は前にも、宇宙飛行士の向井千秋さんを長年にわたって男と思いこんでいたことがあって(参照)、この方面では気を付けなければならない。
ハリセンボンについては、実は世の中では案外よく知られているようで、周囲にいるオバサンたちに聞いてみると、「結核になっちゃった方、やせてるもんねぇ」とか「売れすぎて、過労で体力落ちてたのかも」なんて真顔で言う。
結核になるぐらいの過労に陥るほど売れすぎていたらしいお笑い芸人を、私は全然知らなかったということに少し驚いたが、そんなに売れている芸人をちっとも知らなくても、日常生活には全然不具合を生じなかったということも驚きだ。普段知人と話していて、話題にのぼるなんてこともまったくなかったし。
本当に、今の世の中のマーケットは細分化されている。あるカテゴリーの大ヒット商品や売れっ子スターを、他のカテゴリーに属する人間が全然知らなくても、何の不都合もないのである。むしろ、なまじ知っていると邪魔くさいから、知らない方が気楽だったりする。
いや、今日はマーケティングの話をするんじゃなかった。結核の話をするつもりだったのである。
年長の知人には、若い頃に肺結核を患ったという人が何人かいる。中には、今では全然丈夫で、80歳を過ぎてもまだ現役で仕事をしているなんていう人もいるが、逆に片方の肺がないので、無理がきかないとか、風邪をこじらせたら命取りになるとか言う人もいる。
昔は肺結核が珍しい病気ではなくて、結核で入院したことのある親戚が一人もいないなんていう人は珍しいだろうと思う。戦前は息子が文学志望なんて言い出そうものなら、世の中のオヤジは「文士になんぞなったら肺病で死んでしまう」と言って反対したらしい。
そしてかくいう私も、どうやら結核経験者の端くれらしいのである。というのは、40代前半の頃、勤務先の定期健康診断でレントゲン写真を撮ったら、「所見あり」ということで呼び出されたのだ。私はそれまでの健康診断ではずっと、悪いところが一つもない優等生だったので、何事かと思ったのである。
指定された時刻に業界健保組合の診療所に行くと、医者が「あなたはの肺には結核になりかかった形跡がある」と言う。藪から棒ににそんなことを言われても、こちらはどう反応していいかわからないから、「はぁ」と言うぐらいしかない。
「あなた、体力ありそうだから、気付かないうちに自然に治ってしまったんですよ。そんなに珍しいことじゃありません。体力あってよかったですねえ」と言う。ははあ、世の中で一番頼りになるのは、頭の賢さなんかよりも体力だとは常々思っていたが、やっぱりその通りのようなのだ。
レントゲン写真を見せられると、右肺の一番上あたりに、うっすらと影があるような、ないような、まあ、言われてみればあるのかなあというような気がしないでもない部分がある。これが「自然に治ってしまった跡」だという。
「何か、体調に異変はありませんでしたか?」と聞かれても、全然覚えがない。ただ、そう言えば、やたらと寝汗をかくことが一週間近く続いたのを思い出した。結核になると寝汗をかくと聞いたことがあるのでそれを告げると、医者は素っ気なく「きっと暑かったんでしょうね」と、全然取りあってくれない。なんだ、案外つれないなあ。世間話にもなりゃしない。
とりあえず、どうすればいいのかと聞くと、「一年間はあまり無理をしないように」という。そんなことなら、おやすいご用なので「わかりました」と答えた。これを言えば妻はさぞ大事にしてくれるだろうと思ったが、相変わらず重いものを動かす時なんかは、遠慮なく「ちょっと来てぇ」なんて呼びつけられた。
翌年の定期検診では、もう何の所見もなく、健康優等生に戻った。問題の影すらも消えてしまったのだろう。あるいは、前年のレントゲン写真自体が、何かの間違いだったのかもしれない。それは今となっては誰にもわからない。
私としてはもし本当に結核になりかかっていたのだとしたら、あの医者の全然取りあってくれなかった異常なまでの寝汗のおかげで、結核菌を体外に排出し、一週間足らずのうちに治ってしまったのだと、何の根拠もなく思いこんでいる。そしてそんなことがあったというのも夢まぼろしの如く、私は馬鹿馬鹿しいほど健康で、今に至っている。
で、大学の後輩の箕輪はるかさんには、こうしてブログで書かせていただいたというご縁もできたことだし、早く全快してお笑いに復帰してくれるように祈りたい。そして、復帰したら是非テレビで見てみたいものである。
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コメント
過去、結核発症事例の高かった、岐阜県東濃地方民です。
今はすっかり都会の病気と言われておりますね。
箕輪さんが、お元気でご復帰されることをお祈りしつつ、takさんの事例に倣って、体力重視にシフトしていきたいなっと。
『動けるデブ』目指して…。
投稿: 乙痴庵 | 2009年4月 9日 12:34
乙痴庵 さん:
>過去、結核発症事例の高かった、岐阜県東濃地方民です。
「東濃/結核」 でググってみたら、「東濃地域結核重点対策協議会設置要領」というページが見つかりました。
>東濃保健所管内の結核罹患率、有病率が高いのは、地場産業である陶磁器産業による粉塵の関与が強く考えられることから……
とあり、「まてよ、それって、『塵肺』 と混同してないか?」 と思ってさらに調べたら、Wiki の 「塵肺」 のページに
>塵肺になると肺結核などの病気を合併しやすくなる。
という記述がありました。勉強になりました m(_ _)m
投稿: tak | 2009年4月 9日 13:17
うーん結核って、若い人にしてみると本当に昔の病気というイメージ(「サナトリウムの文豪」のような(笑))しかないんですけどね。
ハリセンボンの箕輪さんやまさかTAKさんまでとは。
クスリ自体は進んでいるそうですので、完治するらしいですね。
それでも気をつけねばと、認識を新たにしたところです。
ところで、子どもたちもハリセンボンの話題を知っていて、びっくりしたんですが、どうやらNHK教育の子ども番組に出ていたみたいです。
うーんNHK侮りがたし。
投稿: 雪山男 | 2009年4月10日 09:00
サナトリウムにいるのは文豪ではなく薄幸の令嬢なイメージです(何
まあそれはさておき。
私の身内にも2年ほど前、結核者が出ました。
本人は薬飲んでひたすら安静にするのですが、周囲の人間も感染してないかレントゲン健診(接触者健診)受けに行ったりして、結構大変でした。
私の肺にも影があったのですが、それは結核ではなく、心臓近くの脂肪によって生じたものでした。
喜んで良いのか悲しんで良いのかorz
投稿: 風花 | 2009年4月10日 09:15
雪山男 さん:
>うーん結核って、若い人にしてみると本当に昔の病気というイメージ(「サナトリウムの文豪」のような(笑))しかないんですけどね。
文豪はしっかり栄養取ってるから、サナトリウムにふさわしいのは、売れない三文文士じゃないでしょうかね ^^;)
>ところで、子どもたちもハリセンボンの話題を知っていて、びっくりしたんですが、どうやらNHK教育の子ども番組に出ていたみたいです。
>うーんNHK侮りがたし。
NHK は、目立たないところでさりげなく意地を発揮しますからね。
投稿: tak | 2009年4月10日 12:20
風花 さん:
>サナトリウムにいるのは文豪ではなく薄幸の令嬢なイメージです(何
そういえば、「となりのトトロ」にもサナトリウムが登場しましたね。
さつきとメイのお母さんの病名に関しては一言も出てこないんですが (これ、子どもたちと一緒に何度も繰り返し見たので、自信を持って断言)、あれはどうみてもサナトリウムでしょうね。
(実際のサナトリウムは見たことないくせに、これも断言! ^^;)
>私の肺にも影があったのですが、それは結核ではなく、心臓近くの脂肪によって生じたものでした。
それはそれで気を付けなきゃいけないんでしょうね。
心筋なんとかとか、関係ないんでしょうかね。
健康が一番ですから。
投稿: tak | 2009年4月10日 12:25