長嶋さんの知られざる 「重大発言」
すき家の店内の壁に "Sukiya is delicious." と書いてあることもあって、「すき屋は食えない」と指摘しちゃった(参照)わけだが、コメントで当然の如く Engrish に話題が飛んだ。
で、さらに長嶋さんのあの妙な英語らしきものの話題に及び、それに止まらず、長嶋流のレトリックまでまな板にのってしまった。
私は長嶋さんのレトリックの中では、あまり知られていないけれども、決定版とも言える材料をもっている。そのことについては、大分前に、こちら に書いておいたのだけれど、格納場所があまりにも目立たないところなので、あまり読まれていない。それでこの際、改めてブログに書いて紹介してしまおうと思うのである。
これはとても古い話なのだが、「知られざる重大発言」である。昭和 55年に、長嶋さんが巨人軍監督(第1期)を辞める(実際は辞めさせられる)ことになった時のことだから、もう 29年も前のことだ。30歳になっていない人は生まれていないし、35~36歳ぐらいでもまず記憶にないだろう。
この年の秋、長嶋さんが監督を務めていた巨人軍は、辛うじて Aクラスにはとどまったものの、2リーグ制分立後に、3年連続で優勝を逃したのは初めてのことだった。その責任をとって、長嶋さんは辞任を表明したのだが、それは読売幹部による事実上の解任というのは明らかだった。かなり悲劇的な状況だったのである。
辞任表明の日、あの「イレブンPM」という深夜番組のインタビューに応え、長嶋さんが沈痛な面持ちで次のように語るのを、私はたまたま深夜営業のラーメン屋のテレビで見ていた。
「マァー、私は巨人軍を去りますがァ、
ファンの皆様にはですネ、
これからも巨人軍を、マァー、いつまで続くか分かりませんがァ、
応援していただきたいとォ……」
これを聞いた私は、口の中のラーメンを吹き出しそうになった。まあ、発言が正確にこの通りだったかは自信がないが、少なくとも赤い太文字部分は、まさにそのようにおっしゃったのである。
この人は自分の現役引退セレモニーで何を言ったか覚えていないのか!? 確か
「巨人軍は永久に不滅です!」
とか何とか、かの有名なセリフを絶叫したではないか。詰め腹切らされたからといって、「いつまで続くか分かりませんがァ」とは、トボケるにも程がある。自分自身の栄光の発言に、どう落とし前をつけてくれるというのだ。私は茫然としながらそう思った。
私は吹き出しかけたラーメンを改めて飲み込みながら、翌日の「東京スポーツ」(大阪では「大スポ」)一面トップの見出しはは、この大ボケ発言になるだろうと確信した。しかし現実は、そうはならなかったのである。
世の大衆は実にセンチメンタルな反応を示し、長嶋さんには日本中の同情が集まった。そして彼らは、讀賣新聞の購読部数が減ったとさえ言われるほどの猛烈な判官贔屓を発揮した代わりに、これほどまでにオチョクリ甲斐のある「大ネタ」をすっかり見落としてしまったのである。何ともったいない。
というわけで、長嶋さんの現役引退の時のあの栄光の発言には後日談があり、なんと自らの大ボケ発言で、それを裏切ってしまっていたのである。当時 2ch があったら、どんなに盛り上がっただろう。
長嶋さんみたいな人を上司にもったら、部下は苦労するだろう。言うことがコロコロ変わる。昨日言われたことを必死で実行していると、今日は正反対のことを言われる。当人はそれについて、別になんとも思っていない。
しかし、当人には悪気がないのである。全然ないのだ。発言内容に無意識なだけである。それだけに憎めないのである。何があっても、長嶋さんのせいにはできないのである。すべて部下の方で飲み込んで、うまく処理するしかない。
だから現在の象徴的地位は、長嶋さんにぴったりなのである。この人に実務なんかさせてはいけない。象徴として、その明るい光を周囲に放ってもらえばいいのである。そうすることで、すべてがうまくいく。
実は私も、長嶋さんは大好きなのである。だからこの記事は、「ちょっといい話」というカテゴリーに入れておくのである。
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コメント
takさん
長嶋サンの意図するところは、『(巨人軍が)いつまで続くか分かりませんがァ』ではなく『(ファンの皆さんの巨人軍への想いが)いつまで続くか分かりませんがァ』なのかな、と思いました。
長嶋茂雄サン、誰もが認める通りの感覚的な方、或いは論理的な説明のヘタな方という印象ですが、抽象イメージを理解していてもそれを表現する言葉を持ちえていないのかな、という気がします。幼少の頃のアインシュタイン博士も、言葉で自身の理解を表現しきれず、それで劣等生のレッテルを貼られた、なんてエピソードが残っておりますが、ジャンルは違えど共に異能人である点は共通しておりますね。
長嶋監督、前監督である川上氏の『後始末』に伴う惨憺たる成績とその不振の責任を押し付けられての監督降板と、少年(その頃は^_^;)の目には映りました。それは図らずも、そう考える大人の言葉を受けて感じたことなのかな、と当時を懐古する次第です。
そういう大人が記者を含めて多かったのであれば(実際多かったでしょうが)仮に読売に弓を引いていたとしても、国民的英雄である長嶋サンを叩くような真似を控えたのかもしれないな、とも思った次第です。
V9後の最下位陥落の際には、無残な程にボコボコに叩かれていたような記憶もあるので、乱暴すぎる仮説かも知れませんが・・・
投稿: 貿易風 | 2009年4月21日 00:08
貿易風 さん:
>長嶋サンの意図するところは、『(巨人軍が)いつまで続くか分かりませんがァ』ではなく『(ファンの皆さんの巨人軍への想いが)いつまで続くか分かりませんがァ』なのかな、と思いました。
長嶋さんという方は、そこまで明確に意識している人じゃないと思っています。
「いつまで続くか……」は、何となくついぽろっと出てきただけで、とくに深い意味はないというのが、本当のところだと思います。
ただ、ついぽろっと出た言葉が、現役引退時のあの言葉を、はからずも裏切ってしまったというだけで…… ^^;)
フロイト的な解釈をすれば、読売幹部への怨念がちらっと顔をのぞかせたということになるんでしょうけど。
少なくとも、「ファンの皆様の思いがいつまで続くか」などという想念は、心の中に浮かばない人だと思いますよ。
投稿: tak | 2009年4月21日 07:14
こんにちは。
横レスにて失礼します。
貿易風さん説に一票です。
長嶋さんはファンの立場に立って物を見るお人柄。
例えばエンターテイメントあふれるプレー。
「全国の野球ファンの皆様」というセリフ。
ヘルメットの大きさから一塁へのスローイング等、
一挙一投足がファンを意識した所作。
件の11PMで
「ファンの皆様にはですネ」と言った所で
長嶋さんがいない巨人の風景が頭に浮かび、
あぁ、オレがいない巨人ってファンにとって応援のやりがいが減るナァ
これじゃぁファンを辞めちゃうよなぁ・・なんて思ってポロっと
「いつまで続くか分かりませんがァ、」と出ちゃったんじゃないかなと
勝手に想像します。
本人じゃないし、過去の事なので誰もわかりませんが、
色々な想像ができておもしろいですね。
私は昔からアンチ巨人でしたが、
長嶋さんは好きですね~。
長嶋さんと比べては失礼かもしれませんが、
今どきのおバカタレントも通じる所があります。
何本かネジが抜けていても、明るく無邪気で前向き。
そういうキャラは好かれますね。
投稿: リュウT | 2009年4月21日 12:47
リュウT さん:
>貿易風さん説に一票です。
うぅむ。
長嶋さんはファンを大切にする人だけに、巨人を応援し続けてくれとお願いする時に、「(あなた方の応援が)いつまで続くかわかりませんが」というような、失礼な物言いはしないでしょう。
というわけで、貿易風さんのコメントのレスでも申し上げたように、単なる 「もののはずみ」 とか、あるいは長嶋さん特有の 「調子を整えるための接続詞みたいなもの」 であり、それがはからずも自分の前言を裏切ってしまう結果になっているところが、とても長嶋さんらしいのだと、私は思っています。
投稿: tak | 2009年4月21日 16:33