『唯一郎句集』 レビュー #27
週末は 『唯一郎句集』 のレビューをするのが恒例になってきていたが、今週末は関係する事務所の引っ越しで大わらわで、週末のような気がしていなかった。
というわけで、今回はレビューをすっ飛ばしそうになってしまう寸前で思い出した。それで今週末は、本日、日曜の一度きりである。
今回は、「酒田俳壇」時代とされた 3句。前回は夏と冬の句を 2句ずつレビューしたが、今回は麦秋 の 1句の次がまたいきなり冬の 2句になる。こうした並び方のため、唯一郎が何歳の頃の句なのか、わからない。多分二十歳を少し過ぎた頃なのだとは思うが、句の並べ方にも少し混乱があるような気がする。
とはいえ、ここらでレビューに入らざるを得まい。
日本海岸の麦秋のひろびろと匂ひもなし
庄内平野は米作の盛んな所だが、一部で麦も作られている。海岸沿いの水はけが良すぎて田んぼにならないところだ。
このあたりの麦秋は、6月頃だろうか。梅雨入り前のさわやかな時期。初夏のさわやかな風が吹きわたり、麦の匂いが漂うということもない。からりとした感じがする。
正月の夜の酒器など並べては自らの愛しきに酔はんとす
唯一郎の息子 (つまり私の伯父) は、酒好きである。私がよく知っているのは 3人いるうちの 2人だけだが、両方とも酒を飲んで朗らかになる。多分、唯一郎も酒が好きだったのだろうと思う。
ただ、この句にみる限り、唯一郎の酒は静かな酒だったのだろうと思う。お気に入りの酒器を並べて、自らの愛しきに酔うというのは、賑やかな酒とは到底思われない。ナルシシズムを感じさせる。
冬雲の動きをみてあれば寒鱈を提げて來る貧しき女
酒田の冬雲の動きは速い。その動きに見とれていると、寒鱈を提げて貧しき女がやってくるという。「貧しき女」 というのは、自分の妻のことを言っているのではあるまいか。
寒鱈は日本海の冬の味である。鱈の全てを汁にぶちこんで 「どんがら汁」 というのを作る。暖かい家庭料理だ。
暖かい家庭料理を目前にしているだけに、あえて自分の妻を逆説的に 「貧しき女」 と言ってしまっているのではないかと、私は深読みする。
本日はここまで。
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