「その程度でいいの?」という疑問
私はアパレル業界で主たるメシの種になる仕事をしている。この業界は、今最先端の IT 技術とはなかなか相性が悪い。
前にも書いたが、「ファッションとウェブは、水と油」 なのである。消費者向けのウェブ活用が遅れているだけでなく、業務システムとしての IT 活用も非常に遅れている。
この遅れた現状を是正しようとして、国を始め、地方公共団体などもこれまで少なからぬ補助金を投入して、繊維・アパレル業界向けの業務ソフトを開発させ、普及させようとしてきたが、ほとんど空振りに終わっている。補助金で作成したソフトで市場で生き残っているのは、ざっとみたところ 2割以下である。野球選手だったら、クビになっているところだ。
つまり、この分野で投入された税金の 8割以上は無駄になっているのである。これで利益を得るのは、この補助金交付業務にたずさわる役人と、業務ソフト開発を請け負った IT ベンダーだけだ。ベンダーは補助金をもらって開発しさえすればいいのだから、あとはどうでもいいみたいなのである。いわば 「作り逃げ」 だ。
何故、お役所の肝いりで作るソフトが使い物にならないかというと、机上のプランだけが魅力的すぎるからである。補助金交付の決定までには、この机上のプランを如何に飾り立ててプレゼンするかが大切になるが、これが間違いの元なのだ。
プランの上では「あれもできる、これもできる」「こんなことまで合理化できる」と、とても魅力的なものにしなければならない。そうでないと、審査を通らないからだ。ところがいかんせん、アパレル業界の多数を占める中小企業は、そんな小難しいソフトを押しつけられても、使いこなせないのだ。いや、それどころか、意味すら理解できないのである。
ウェブ上で受注すると、バックヤードの在庫を自動的に検索してすぐに発送のレスポンスを返し、自動的に請求業務を行う (まるで Amazon みたい) なんてことを言っても、アパレル・メーカーの多くは、在庫管理がアナログ・ベースなのだから、そんなシステムを導入しても宝の持ち腐れである。
受注が統一フォームによる FAX かメールで受け取れるなら、受け取った側がその時点からアナログ処理を行い、つまり、人手で在庫を確認し、受注確認の電話なり FAX なりメールなりを返し、人手で発送し、まあ、請求書の印刷程度は自動で行うというぐらいのシステムなら、すぐにでも導入可能だ。多くのアパレル・メーカーが欲しいのは、このレベルのシステムなのである。
私なんかが IT ベンダーにこうしたシステムのニーズを力説すると、相手は必ず「しかし、そんなの業務システムとはいえませんよ。 いわば 『おもちゃ』じゃないですか。我々が作る以上、そんなお粗末なものはできません」と言う。
私はこう答えざるを得ない。「おもちゃ程度でないと、この業界は使いこなせないんですよ。我々が求めているのは、まさに『おもちゃ』なんですよ。『おもちゃ』だけでも、この業界の業務効率はものすごく改善されるんですから」
だが、IT ベンダー側も損益分岐点というのがあり、大手になればなるほどそんな「おもちゃ」の制作では利益を出せないとみるらしく、どこも手を付けてくれない。私からみれば、開発コストがかからず、リスクも最低限で、しかもやり方次第でどっと売れる可能性があるのに、どうして着手しないんだろうと思う。
もしかしたら、小さなベンダーがやってくれるかもしれないが、販売単価が安くなるので、広範な営業力がないと、少しぐらいの売上では儲けにならないから、なかなか腰が上がらない。
こうしたジレンマは、アパレル業界だけでなく、世の中全般にある。「そんなもんで、いいんですか?」「そんな程度のことで、効果があるんですか?」という問いは、世の中にあふれている。そんなとき私は、「そんなもんから始めてみましょうよ」「その程度のことからでないと、気楽にスタートを切れないでしょうよ」と答えることにしている。
私が最近実践している 「マイ箸」 なんかは、このケースの代表例で、ようやく少しずつ普及し始めているのが喜ばしい。(参照)
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コメント
卑近な事例で恐縮ですが、私も事務処理用のExcelのマクロを何度か作ったことがあるんですが、いろいろな機能を設けて作っていざ使ってみると、当初の意図通りに使えないマクロも結構多くって、逆に意図しないでいた用途が必要になったりすることがあります。
ですから簡単な機能をまず作って、それを後で機能追加するというやり方でやっています。
結局、SEさんが机上でいくら頭をひねっても実際の業務を理解していないと、本当にほしいシステムは作れないし、逆に作ってみて顧客の側で始めて必要性に気付く機能もあるとおいます。
takさんの言うとおり、できればはじめは簡単なシステムだけ作って、後はご用聞きみたいに顧客の意見を聞いて、そのシステムを成長させるという営業スタイルが一番なんですがね。
うーんお金にならなそうだなぁ。
投稿: 雪山男 | 2009年6月23日 14:14
雪山男さん:
>takさんの言うとおり、できればはじめは簡単なシステムだけ作って、後はご用聞きみたいに顧客の意見を聞いて、そのシステムを成長させるという営業スタイルが一番なんですがね。
システムも、手作りで成長させるのが一番です。
MS Office なんて、もうその段階をとっくに越えちゃっているので、いらない機能ばっかり増えて、重くて大変です。
>うーんお金にならなそうだなぁ。
それが最大の問題です ^^;)
個人的には、ずっと将来を見通せば、最小限の利益で十分採算の取れるミクロな経済活動というのが、注目されると思っています。
投稿: tak | 2009年6月23日 15:27