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2009年6月18日

百貨店の衣料品売り上げ

衣料品の小売市場に関する調査によると、ユニクロの一人勝ちという様相を呈している。値段の割に品質も安定しているので、日常的な洋服としては文句なしというわけだ。

一方、衣料品販売チャネルとしての百貨店は、かなりの落ち込みだ。一体誰が百貨店で服なんか買ってるんだろうと思うほどである。

繊維業界で最もメジャーな専門紙である 「繊研新聞」 の調べによると、小売市場における百貨店の売上シェアは、婦人服で 53.0%、紳士服で 32.3%、子供服で 29.8%だという。この数字を見て、私は 「ウソだろ!」 と思った。

日本中の婦人服の売上の半分以上が百貨店だなんてはずがない。同様に、紳士服と子供服のそれぞれ約 3分の 1が百貨店の売上だなんてはずもない。いくら百貨店の品物が他のセクターの倍ぐらいの値段であったとしても、そんなシェアになるはずがない。

で、この記事をよく読み返したら、繊研新聞社が実施した 08年度の小売業衣料品売上高調査で、婦人服・紳士服の上位 50社、子供服の上位 30社の数字をもとにはじき出した比率のようなのである。道理でね。

個別の百貨店の売上は相対的に大きいから、上位 50社とか 30社とかには多くがランクインしている。一方、売上の小さい専門店 (街の用品店を含む) の数字は、初めから無視されている。つまり、数字のマジックなのだ。上位にランクインした企業だけをベースにシェアをはじき出して、一体何の意味があるのだろう。統計手法として疑問が残る。

実感として、私の知り合いでこの 1~2年に、百貨店で服を買ったという人なんて、ほんの数人である。あとはほとんど専門店で買っている。だって、値段が全然違うのだもの。

例えば、紳士スーツを百貨店で買ったら、何とかセールを別とすれば、安いゾーンでも 38,000円、普通は 48,000円以上する。ちょっとしたブランド品となれば、平気で 10万円以上になる。

ところが、ショッピングセンターなどに入っている専門店チェーンの店で買えば、大体 2万円台、安ければ 19,800円なんていう値段で買える。ちょっと見た感じなら、百貨店のものとほとんど変わらない。近頃は、廉価品でもちょっと着たらヨレヨレなんてことはあまりなくなった。

よほどのこだわりのある人でなければ、スーツなんて単なる仕事着だから、安い方がいいに決まっている。だから百貨店でスーツを買う人なんて、ちょっとした小金持ち以上のクラスということになる。

女性にしても、よほどのキャリアウーマンとか小金持ちの奥さんとか、水商売のおねえさんとかでもなければ、百貨店でスーツなんか買わない。フツーの OL は、専門店で大体 1万円ちょぼちょぼで買えるものに、3万円も 4万円も、あるいは 10万円も 30万円も投資したりしない。

ということは、繊研新聞の調査で、婦人服売上高のシェアで百貨店が 53%というと、数量ベースでは、多分 30%以下になるだろう。さらに上位 50社というしばりを外したら、10%台になってしまうのではなかろうか。

思えばバブル最盛期には、百貨店は我が世の春という状況だった。その辺の OL のおねえさんが 100万円近いボーナスをもらい、百貨店でシャネルや D&G のスーツを買ったりしていた。

「一度高級品の着心地を知ってしまうと、もう安物には戻れないわよねぇ」なんて言っていたバブリーなおねえさんが、今や 40歳をとっくに過ぎて、ユニクロでバーゲンハンターをしている。そして、高級スーツなんて着るのは馬鹿馬鹿しいと思っている。まさに諸行無常である。

ファッション業界人の多くは、「着るものにこだわりをなくしたら、人間おしまい」みたいに思っているが、それは幻想だ。人間、生活に余裕がでるとファッションなどに気を使うようになるが、ある程度のレベルに到達したら、さらにファッションで突き進むか、別の分野にこだわりを見いだすかは、人それぞれなのである。

私はアパレル業界でメシを食っているが、人間が着るもの以外にも広範な興味を持てる世の中で生きる方が、ずっとハッピーだと思っている。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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コメント

百貨店で服の買い物。
 名古屋の松坂屋で、コートの並んでいるところへ「冷やかしで~す。」といいながら、ロングコートを漁っておりましたが、重いのばかりで…。
 ほとんど冗談で、マネキンさんに「すねまで隠れて軽いやつ。デブなので分厚い生地では汗かいちゃいますんで…。」と、無理難題を浴びせたつもりでしたが…。

 「いいのがありますよ。少々お待ちください。」とバックヤードから1本出てきました。
 軽くて薄くてすねまでバッチリ!ビヤ樽腹もなんとなく目立たないシルエット…。

 ほれた。1本8万円也。見事に返り討ちの様相。
 あなどれぬ、百貨店!

 ただし、後にも先にも、百貨店で服買ったのは、この1本のみです。今でも(冬場ッス)大事につかってマース!

投稿: 乙痴庵 | 2009年6月19日 09:47

服にかけるお金は年間一万円程度(下着を除く)。
百貨店で服を買ったのは10年前出先で必要に駆られて買ったのが最後。
プレゼントでもらったブランド物のシャツは確かに柄もいいし生地も縫製もしっかり。しかし一万円も出して買おうとは思わない。そんな私からして、ブランド物で身を固めた兄ちゃんを見ると少し笑ってしまう。好いように標的にされてるなと。しかし本人がそれで自信が付き胸を張って歩けるならそれはそれでいいのかもしれないが。

昔、出会った青年は、ワイシャツの袖は擦り切れていたが、堂々とした態度と凛々しい雰囲気で、こちらは滲み出てくる個性に圧倒された。その青年は自身がブランドでした。小生はその域にはまだ到達できていません。

投稿: 偽浜っ子 | 2009年6月19日 10:24

乙痴庵 さん:

>「いいのがありますよ。少々お待ちください。」とバックヤードから1本出てきました。

もしかしたら、冬物ではなく、スプリングコートなのかもしれませんね。
なかなかやるもんだ (^o^)

8万円とは、これもまた、なかなかのもんですね。
大事にお使いください。

投稿: tak | 2009年6月19日 11:55

偽浜っ子 さん:

>服にかけるお金は年間一万円程度(下着を除く)。

カジュアルスタイルなら、それでもいけそうですね。
すり切れたら買うというサイクルで。

年間に、シャツ 1枚、ポロシャツ 1枚、チノパン 1本で、まだ 5000円分ぐらい余裕がありますからね。

>昔、出会った青年は、ワイシャツの袖は擦り切れていたが、堂々とした態度と凛々しい雰囲気で、こちらは滲み出てくる個性に圧倒された。その青年は自身がブランドでした。

その上で、それなりに身なりに気を付ければ、満点ですね。
あくまでも、中身が先という前提で。

投稿: tak | 2009年6月19日 12:00

地方だと、まだ百貨店がないと駅前が華やかにならない的な考え方があります。
ただ、土地は都会と違ってある訳なので、むしろ個々のショップが独立して商店街を形成する方が私なんかは、にぎやかになると思うのですがね。

先日、約1年ぶりに百貨店で義理の父の「父の日」プレゼントを買ってきました。
ウォーキングシューズを結局買ったんですけど、それだったらスポーツ量販店で買えばよっぽど種類もあったし、安かったなと反省してしまいました。

投稿: 雪山男 | 2009年6月19日 12:48

雪山男 さん:

>地方だと、まだ百貨店がないと駅前が華やかにならない的な考え方があります。

県庁所在地ぐらいの都市だと、地方でもかなり見栄を張って、誰が買うの? と聞きたくなるような高級ブランドを一階の一番いいところに配した百貨店があったりしますね。

儲かってないだろうなあと思います ^^;)

>ウォーキングシューズを結局買ったんですけど、それだったらスポーツ量販店で買えばよっぽど種類もあったし、安かったなと反省してしまいました。

それは確実に言えます。
でも、「包装紙効果」 ってものもありますから ^^;)

投稿: tak | 2009年6月19日 23:32

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