生物多様性ということ
近頃「生物多様性」ということがよく言われるのだが、私はこれについてはあまり多くの専門的知識を持たない。だが、多様性が損なわれるとやばいというのは、直感的にわかる。
短期的な視点の経済的見地からは、何でもかんでも最も効率的なものに絞り込む方がいいが、それは文字通り「近視眼的」思考だ。
自然界は人間の経済を活況に導くためにあるわけじゃない。自然界にそうした意味での「目的」があるわけじゃない。自然は自然としてあり続けるということが、人間的な意味での「目的」を離れた「ありよう」なのだと思う。そして「よくもまあ」と感嘆するほどの、絶妙なバランスを形成している。
そのバランスを人間の経済的効率という近視眼的視点で崩してしまうというのは、長期的に見れば経済そのものにも打撃を与えてしまうということが、ようやくわかってきた。いや、そんなことは初めからわかっていたのだが、客観的なデータで立証されてきたのが、近頃の話である。
熱帯雨林というのは、気候的にはとても安定しているのだそうだ。それは豊富な生物多様性が関係していることでもあるらしい。驚くほど多種多様の動物・植物が生育しており、それが絶妙のバランスを維持している。生物多様性が豊富だと、多少の変動要因は自然に吸収するというバッファリング機能が大きいらしい。
一転して日本では、「近頃、天気がおかしいよね」と言われ始めて久しい。どうおかしいのかというと、温帯特有の穏やかさが損なわれて「極端から極端に振れる」という印象だ。ドカ雪になったかと思えば猛暑になる。
冬が終わりかけても春の来るのが遅れるし、夏はいつまでも残暑が続く。春らしいとか、秋らしいとかいう時期が短くなった。つまり、暑いか寒いか、あるいは猛暑か暖冬か、その差が激しすぎる印象なのである。
これは、日本の自然界における生物多様性が損なわれていることによるという説がある。これまでは日本の自然は案外豊かだったから、ちょっとした変動要因は自然の中で吸収されて、全体としては穏やかな温帯としての気候が維持された。いろいろな変動要因を吸収する 「バッファリング・プレイヤー」(これは、私の造語)が、いくらでもいたのである。
ところが近頃は、夏になれば熱帯以上の暑さになり、東南アジアから来た人たちまで「日本の夏は暑すぎる」と言い出す。暑くなりすぎる要因を吸収してくれるバッファリング・プレイヤーが、いなくなってしまったのだ。
「夕立」という言葉は、夕暮れ近くに急に降り出す激しい雨を言うが、近頃の夕立は、そのイメージを越えて「スコール」である。どうも温帯の天気ではなくなってきたような気がする。
取り敢えずは、日本の森林を元の豊かな広葉樹林に戻す必要があると、私は思っている。とくに戦後、日本中の森林がスギ林に変えられてしまったが、針葉樹林の根の張り方は弱いから、斜面に生えたスギは大雨に耐えきれず、土砂崩れで川に流れ落ちる。流れ落ちたスギの木は、下流の街の橋桁を壊す。今回の大雨でもみられた現象だ。
保水力の豊かな広葉樹林がなくなったので、ちょっと日照りが続けばすぐに水不足になり、大雨が降れば土砂災害が起き、そのためにダムがどんどん建設され、川の流量が少なくなり、海岸への砂の供給が減り、浸食されて地形まで変わる。
山ではスギ林の手入れが行き届かず、それでもスギはスギで必死に生き残ろうとするから、花粉を大量に飛ばす。それで花粉症が国民病になってしまった。
自然界は「多様性」があるからいいのである。いろんな種類がまぜこぜになっているからいいのである。人間界でも、「あいつはちょっと違ってるから」などと言って、いじめの対象にしたり排除したりするというのは、これはもう、滅びに向かう所行である。
「違ってるからおもしろい」 というぐらいに思わなければならないのだ。
| 固定リンク
「自然・環境」カテゴリの記事
- X(旧 Twitter)から Bluesky に引っ越そうよ(2024.11.15)
- 今週半ばから、一気に秋が深まるようなのだが(2024.11.04)
- 「富士山 まだ初冠雪なし」というニュースの裏表(2024.10.31)
- 「ススキ」と「オギ」の見分け方(2024.10.21)
- 一体いつまで夏なんだ !?(2024.10.20)
コメント
温帯の天気でなくなってきたという点で言えば、今回本土に接近した9号もそうですけど、日本近海でポッと台風が発生することって、以前はめったになかったように思います。もっと南の方で発生して、だんだん近づいてくるという……。
「熱帯低気圧」が日本近海で発生しちゃうんだから、もはや温帯ではないのかもしれません。
投稿: 山辺響 | 2009年8月11日 17:18
山辺響 さん:
>今回本土に接近した9号もそうですけど、日本近海でポッと台風が発生することって、以前はめったになかったように思います。もっと南の方で発生して、だんだん近づいてくるという……。
皆無ではなかったにしろ、珍しいことでしたよね。
>「熱帯低気圧」が日本近海で発生しちゃうんだから、もはや温帯ではないのかもしれません。
とかなんとか言っているうちに、かの有名な 「茹でガエル」 になったりして。
(実際はカエルはすぐに飛び出して逃げてしまうそうですが ^^;)
投稿: tak | 2009年8月11日 19:54
台風が増えたり変な病気や虫が上陸したりしたら嫌ですね…。
>「違ってるからおもしろい」 というぐらいに思わなければならないのだ。
以前、例のデザイナーさんがあまりにも面白かったので普通にツッコミを入れてしまいましたけど、あんな風に常識の海に「非」常識の小石をぽーんと投げ入れてくれる人というのは、実は意外に貴重なんじゃないかと思います。石が大きすぎて反動で沈んでしまうというパターンは結構多そうですが(^^;
最近はそうでもないかもしれませんが、日本も世界から見ればかなりヘンな国なわけで、そのおかげで魅力を感じてもらえる部分もあるわけです。そういう部分にこそ誇りを感じている日本人も多いんじゃないしょうか。
投稿: ぐすたふ | 2009年8月11日 21:16
ぐすたふ さん:
>以前、例のデザイナーさんがあまりにも面白かったので普通にツッコミを入れてしまいましたけど、あんな風に常識の海に「非」常識の小石をぽーんと投げ入れてくれる人というのは、実は意外に貴重なんじゃないかと思います。石が大きすぎて反動で沈んでしまうというパターンは結構多そうですが(^^;
例のミスユニバースの件ですね。
あれ、"「非」常識の小石" とするならば、もう少し芸があってもいいような気がするんですが ^^;)
どうも、「話題になりさえすればいい」 という、別の意味のスケベ心が、あまりにもストレートに見えるんですよね。
>最近はそうでもないかもしれませんが、日本も世界から見ればかなりヘンな国なわけで、そのおかげで魅力を感じてもらえる部分もあるわけです。そういう部分にこそ誇りを感じている日本人も多いんじゃないしょうか。
かなり 「東洋の神秘の国」 っぽいところもあるんですよね。
そのあたりは、まさに大切にしたいところです。
欧米人に対しては、「日本の良さがわかれば、君たちもまんざら捨てたモンじゃないね」 ぐらいの姿勢でいてもいいかも。
私は欧米人にそばをおごってやるときには、大抵そんな感じで、大いばりです (^o^)
幸せなことに、私がそばをおごってあげると、8割ぐらいは、「うまい。これこそグルメのミニマリズム!」 と感動してくれます。
ただ、残りの 2割は、「なに、これ?」 みたいな感じで、いくら 「音を出してすすっていいんだよ」 と言っても、それができずに、もぐもぐ食って、目を白黒させてます。
投稿: tak | 2009年8月11日 22:49
>ただ、残りの 2割は、「なに、これ?」 みたいな感じで、いくら 「音を出してすすっていいんだよ」 と言っても、それができずに、もぐもぐ食って、目を白黒させてます。
テレヴィのグルメ番組で外人の女の子が、蕎麦をたぐる時にどうしてもそれはできない、恥ずかしいと言ってました。
私もあれはできません。隣の席で蕎麦をズルズルーッと大音響を立てて食べられると、なんでそこまでわざと音を出すのかと思ってしまいます。落語の「死ぬまでに一度でいいからどっぷりつけてみたかった」の主人公の食べ方をすれば否応なしに音が立つのでしょうが。
故宮沢喜一首相は、全国の蕎麦屋を敵に回すようなことを言ってました。たしか”私は蕎麦は食べない、食べてるすがたが下品だから”だったと思います。
私は下品とは思いませんが、もう少し静かに食べられないかなあぐらいでしょうか。
しかし何事も経験ですから、今度蕎麦屋に行って、落語の主人公になったつもりで、先をちょんとつゆにつけてから、シュボッとやってみようと思います。
投稿: 偽浜っ子 | 2009年8月14日 01:24
偽浜っ子 さん:
>私もあれはできません。隣の席で蕎麦をズルズルーッと大音響を立てて食べられると、なんでそこまでわざと音を出すのかと思ってしまいます。
そばをすするときに、ことさらな音を出すようになったのは、ラジオの普及以後だという説があります。
落語でそばをすする所作をするとき、ラジオだと伝わりにくいので大袈裟な音をさせるようになってから、「そばをすするときは、盛大な音を立てるのが粋」 という誤解を生んだのだとか。
たしかに、「ズルズルズルー」 というのは、下品だと私も思います。
「ツルツル」 ぐらいが、適度かなと。
これに関しては、以下の記事でも触れています。
https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2007/10/post_f597.html
投稿: tak | 2009年8月14日 08:56
はじめまして。結構前からちょくちょく見ていたのですが、今回初めてコメントさせていただきます。
当方、茨城在住の大学生なのですが、最近生物多様性と経済学を絡めた論文でも書こうとしていたので、今回の記事を見てびっくりしてしまいました。
まあ、それだけなのですが・・・あまりにタイミングが良かったので書き込んでしまいました。
投稿: ジェノヴァ | 2009年8月14日 23:37
ジェノヴァ さん:
>当方、茨城在住の大学生なのですが、最近生物多様性と経済学を絡めた論文でも書こうとしていたので、今回の記事を見てびっくりしてしまいました。
おもしろいテーマですよね。
「CO2 と経済学」 とかより、手垢が付いていませんから。
投稿: tak | 2009年8月15日 00:22