カップヌードル 1個のための蕩尽
カップヌードルが「生誕 38周年」だそうで、日清食品が記念イベントを開き、渋谷で 3万食を配布したところ、無料試食コーナーに 2時間待ちの列ができたんだそうだ (参照)。
目黒の「さんま祭り」でも、さんま 1尾をもらうのに 3時間行列する(参照)というから、日本というのは、世にも珍しい国である。
普通に考えれば、カップヌードル 1個やさんま 1尾をただでもらうために 2~3時間も行列に並ぶというのは、飢えに苦しんでいるわけでもない日本では、尋常な考えではない。日本人というのはそんな「尋常でないこと」を平気でする国民なのかと思われてしまいそうだ。
しかしこのニュースをして、「日本人というのは尋常でない国民だ」と決めつけるのも考え物だ。というのは、この日の該当時間帯に渋谷を訪れた人が何十万人いるか知らないが、列に並んでまでカップヌードル 1個をもらった人は、「たった 3万人」なのである。ちらりと横目で見て通り過ぎた人の方が、比較にならないほど多いのだ。
しかも、その 3万人の中のかなりの部分は、「サクラ」である。こうしたイベントを開くのに、最初に列を作るサクラを用意しないのは考えられない。そして列ができた初期の頃は、それほど並ばなくてもカップヌードルにありつけたはずである。2時間も並んだのは、3万人のうちのよほど後になってから並んだ一部の人たちだ。
だから、カップヌードル 1個のために 2時間も並ぶという「ちょっと尋常でない」人というのは、当日渋谷に訪れた中でも、ほんの数千人だったろう。何十万人という多くの人の中の数千人ぐらいなら、まあ渋谷という土地柄もあるし、群衆心理も手伝って、このくらいのことはするだろうということだ。
さらに目黒のさんま祭りにいたっては、「縁起物」でもあるし、明確にその目的で目黒まで出かけているのだから、3時間ぐらいは並ぶだろう。周囲では退屈しないイベントだっていろいろあっただろうし。
考えてみれば、人間というのは馬鹿馬鹿しいことに相当な時間を使っている。カップヌードルやさんまばかりではない。経済人類学では「過剰/蕩尽」という理論があるが、人間は時としてどうでもいいことに貴重な時間さえも蕩尽して、しかもそれなりの満足を得てしまうという存在のようなのだ。
ところで、日清食品がこんな大イベントを打ったのは、カップヌードル「生誕 38周年」を記念してのことだというのだが、どうして 「38周年」などという中途半端な年にやらなければならないのだろう。法事なら十三回忌とか十七回忌とかがあるが、それはそれなりに根拠がある。生誕 38周年とは、不思議といえば、こちらの方がずっと不思議だ。
その疑問の答えらしきものは、件の記事の中にある。「今回のイベントは誕生以来、初めて具材を一新したことを機に実施した」 という文言である。ふぅん、ごれでは「不思議感」がますます膨らんだような気がするがなあ。
ちなみに、カップヌードル誕生以来の 38年間で、私は、正確にカウントしたわけではないが、カップヌードルを食べたのは 10回あるかないかというぐらいだと思う。「他に食い物がないわけじゃあるまいし」と思ってしまうのだよね。たったあれしきのものを食っただけで、後に発泡スチロールの変な容器が残るのも割り切れない気がするし。
最近では、1~2年前にどこだか忘れたがうらさびしい地方都市に出張したとき、晩飯を食いっぱぐれ、夜中に腹が空いてしょうがなくなって、ビジネスホテルのロビーの自動販売機で売られていたのを食ったという 1度きりである。あのときは、他に食い物がなかったのだ。
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コメント
サクラを除いたとしても、わずか百数十円のために、数千人が並ぶなんて…、しかも一時間以上も。並んでる姿を人に見られるのは耐えられませんね。見られてなくても嫌ですね。その列の中に埋没してる自分が。
仕事先が用意してくれた東京のビジネスホテルで、賞味期限が2日過ぎたような、ご飯が硬くなった弁当が出てきました。他に食べるものがなかったので仕方なく食べましたが、あの侘びしさはいまだに忘れません。
温かい立ち食い蕎麦におにぎりでも食べときゃよかったと後悔しました。
投稿: ハマッコー | 2009年9月22日 11:17
ハマッコー さん:
>サクラを除いたとしても、わずか百数十円のために、数千人が並ぶなんて…、
並んだ人には、「百数十円のため」 という意識はなかっただろうと思います。
これもまた、ひとつの 「縁起物」 みたいに思えたんじゃないかなあ。
あれが縁起物に思われるというのは、ちょっと悲しい気もしますけど。
>仕事先が用意してくれた東京のビジネスホテルで、賞味期限が2日過ぎたような、ご飯が硬くなった弁当が出てきました。
フロントに行って、「これ、チンしてくれる?」 と頼むと良かったかも。
ちょっと電子レンジにかけるだけで、結構よみがえることがありますよ。
投稿: tak | 2009年9月22日 20:14