『唯一郎句集』 レビュー #63
ちょっとした秋の連休だが、私は全然休みではない。「シルバーウィーク」 といういう名前が白々しく聞こえる。
『唯一郎句集』も続きに続いて、今回が 62回目。今回の 3句は、なかなかやっかいだ。単純そうでいて、なかなかその奥が見えない。どう読んだらいいのだろう。
唯一郎の句は、短歌より長いかと思うと、急に短くなったりする。普通の五・七・五より短いのは滅多にないが、それでも時々現れる。そんな句に限って、難解である。
まあ、仕方がないからレビューに移ろう。
麻畑に立ちし男たちまち消えて見えず
47回目と 48回目のレビューで取り上げた句にも、麻が出てくる。「握れるだけの麻を引き抜きさりげなしや」 「ある時麻畑をめぐり我身ひじりの如き」 という 2句だ。
麻畑というものについて、唯一郎はなんとなく不思議な感覚を抱いているようだ。周囲はうっそうとした麻。背高く生茂った麻の上に見える狭い空。どこか目眩を起こさせるような光景だからだろうか。
麻畑の中で、たちまち見失ってしまった男は誰だったのか。あるいは自分自身の幻想だったのか。
麦を刈る刈りのこせる父
これもまたやっかいな句である。省略が効きすぎて、よくわからない。
しかし、この句は唯一郎の父が亡くなってからの句と思われる。麦をきれいに刈っても、父に関する息子としての、しかも長男としての思いは、整理がついていない。
なまじ旧家に生まれただけに、好きな俳句の路は趣味にとどめて、家業を継がなければならなかった。その家業を始めた父が亡くなってからでさえ、どのような位置付けにしておくべきか、迷ってしまっている。
一つ二つ螢をとらへ吾子と行く青萱のみち
麻、麦と続いて、今度は青萱である。まだ枯れた色になっていない萱だ。昔の庄内はいろいろな作物があったのだと感心する。
その青萱の茂る道は、水路に沿っているのだろう。螢の光りが糸を引くように飛び交う。子どもを連れて、その螢を捕らえながら夜道を歩く。ようやくわかりやすい句になった。
今日はこれぎり。
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