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2009年10月19日

アルケッチャーノ 讃

今、10月 19日の午後 9時半。酒田に帰郷して、さっき戻ってきたばかりなので、遅い更新で恐縮である。

実は昨夜、あのアルケッチャーノでディナーを堪能してきたので、レポートしてみたい。とにかく、「深ウマ」だった。その旨さは、風呂に入って寝るまで持続していた。

知らない人のために、ちょっとだけ説明しておこう。アルケッチャーノは、我が郷里、庄内は鶴岡市にあるイタリアン・レストランで、素材のほとんどは庄内産のものを使っている。なにしろ、庄内は食の宝庫であるからして、素材からして旨い。その旨い素材の味をしっかり生かした独特のイタリア料理が食える。

私たち夫婦は、田舎の母が寝たきりだった頃にずっと、2月に 1度は介護をする父の応援で帰郷していて、その度に月山街道沿いにあるアルケッチャーノを横目で眺めていた。帰郷は母の介護と父の応援が目的だったので、外でゆっくりと食事をする時間が取れなかったのである。

しかし、今年の 5月に 母の三回忌を済ませ、時間的にも余裕ができたので、今回、父を連れて 3人でディナーを食べたのだ。80歳になる父は、洋食はあまり口に合わない性分(その代わり、和食はちとうるさい)なのだが、「だまされたと思って食べてみて」と誘ったところ、「これは旨い!」とえらく満足していた。

今回のディナーは、5000円のお任せコース。順を追ってレポートしよう。

Cr091019a まず最初は、アジの刺身を載せた冷たいパスタ。皿の端にはカツオの叩きも載っている。いやはや、私は庄内人であるから、アジの刺身ぐらい何度も食べているのだが、一見してアジとは気付かなかった。

そして、口に含んでみて、「アジって、こんなにも膨らみがあったのか」と感動。「この手があったか!」ってな感じである。のっけからやられてしまった。

Cr091019b 次は、庄内浜のエビの刺身を載せたリゾット。お米は庄内米の 「ひとめぼれ」。ぷりぷりでいながらしっとりのエビと、ボディのある庄内米の取り合わせは、これまた、「うぅむ、やられたなあ」という感じ。

後効きする旨さと言っておこう。

Cr091019c お次は、マコモダケというものである。それを(多分)オリーブオイルであえて蒸したのかなあ。何も味が付いていない。それをちょいと添えられたカリカリのベーコンの塩味だけで食べる。

何しろお茶目なことに、山形新聞の新聞紙に油を吸わせて供されるから、一見すると、「こんなもの食えるんか?」という感じなのだが、いやはや、旨いのである。ワイルドな歯応えで、ちょっとした苦みの背後に 「おぉ、何じゃこりゃ?」と言いたくなるような、不思議なうま味がある。私ははまってしまったね。

父は子どもの頃、川原に生えているマコモをかじって育ったという。それが、本来の野趣も残しつつこんな洗練された料理になっていることに驚いていた。

Cr091019d次は庄内浜で取れた鯛と(多分)アサリのアクアなんとか。なんとかというのは、説明を聞いたが忘れてしまった。さすが庄内の鯛。身がしっかりしていて、口に含んだときの「おぉ、タイだ!」感がうれしい。

さらに出てくるのは、月山の野趣あふれるキノコを添えたパスタ。

パスタが洗練されているのに、そこに一見無造作に添えられたキノコが(多分)塩味だけなのに、素材自体の苦みのあるワイルドさが効いていて、その対比がいい。で、見るからに旨そうだったので、つい写真を撮るのを忘れてしまった。残念。

Cr091019e段々フィニッシュに近付いてきた。この辺で、案外お腹が一杯になってくる。庄内の食材はしっかりした腹応えがある。だめ押しの一品は、庄内の豚と藤沢カブの組み合わせ。

豚とカブが不思議に合うというのは、知る人ぞ知るところである。しかも、このカブは藤沢というところでしか取れない在来種の洗練されたもので、歯応えがいいのである。味わいもくせがなくていい。

さらに豚がいい。庄内に来ると、「豚ってこんなにおいしかったんだ」と思うだろう。サクッとしたまるで果物のような歯触りとジューシーなコク。庄内人の私は、牛より豚の方がずっと旨いと思っている。

Cr091019f デザートは、イチジクを載せたチーズケーキとアイスクリーム。エスプレッソでいただく。もう、味も量も大満足。アルケッチャーノで 5000円コースのディナーを食べようと思ったら、お昼過ぎに間食なんかしちゃいけない。食べきれなくなってしまう。しっかりお腹をすかせて行くべきである。

とにかく、アルケッチャーノの料理は、素材の旨さを最大限に引き出すためのあっさりとした塩味が基本。塩しか使ってないと言ってもいいぐらいの、絶妙のシンプルさである。これが、「後効きする旨さ」「深ウマ」 につながっている。

私は今年 7月 21日の記事で、次のように書いている。

おいしい料理は、一番幸せだった日々の記憶を蘇らせてくれる。いや、実際には 「一番幸せだった日々」なんてない。蘇るのは、これまでの幸せの記憶を凝縮したエッセンスなのだ。だから本当においしい料理を食べると、至福が訪れるのである。

アルケッチャーノの料理は、そんなような料理である。また 11月に食べる予定。今度はどんな食材のディナーになるか、今から楽しみである。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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コメント

アルケッチャーノ
庄内で有名名レストランですね
頑張り屋のシェフが すばらしいです

投稿: ryuji_s1 | 2009年10月20日 08:18

小冊子にアルケチャーノの紹介がつい最近出ていて、私もいつか行ってみたいと思っています。
拓明さんの紹介の仕方がお上手なので、ヨダレ出そうです。レストランで食べて写真撮るのはちょっと勇気がいる上に、食べることにも夢中になる。それで写真とれずになってしまうのですよね。
山形新聞の上のマコモってどんな味なのでしょう。想像は想像を生みそうです。
お父様も喜ばれたことでしょう!
ごちそうさまでした。

投稿: keicoco | 2009年10月20日 09:55

ryuji_s1 さん:

>頑張り屋のシェフが すばらしいです

そうですね。
このくらい徹底的になるのは、同じ庄内人でも、鶴岡の人だからこそという気がします。
酒田の人間はちゃらんぽらんなので (私をみればわかります)、ここまでできないと思います。

投稿: tak | 2009年10月20日 15:08

keicoco さん:

>小冊子にアルケチャーノの紹介がつい最近出ていて、私もいつか行ってみたいと思っています。

ぜひどうぞ。
心までハッピーになる料理ですから。

>レストランで食べて写真撮るのはちょっと勇気がいる上に、食べることにも夢中になる。それで写真とれずになってしまうのですよね。

イタリアン・レストランとはいえ、雰囲気が全然気取ってないので、とてもリラックスして食べられます。
写真も自然に撮れましたよ。

>山形新聞の上のマコモってどんな味なのでしょう。想像は想像を生みそうです。

なんだか、スピリチャルな元気をもらえそうな味でした。

投稿: tak | 2009年10月20日 15:11

keicoco さん
コメント有り難うございます

投稿: ryuji_s1 | 2009年10月21日 12:00

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