『唯一郎句集』 レビュー #66
近頃、時の経つのが本当に早い。週末恒例の『唯一郎句集』レビューの 64回目を終えたばかりだと思っていたら、もう土曜日で、65回目になってしまった。
で、戸惑ってしまっているのだが、前回は真夏の頃の句だったのに、今回は晩春から初夏の頃の句なのである。
『唯一郎句集』を辿っていると、時々、どんな基準で作品が並べてあるのかわからなくなることがある。なにぶん、本人の死後かなり経ってからの編纂なので、時系列が曖昧になってしまっていることもあるのだろうが、それにしても、「ありゃりゃ」 と思うことがしばしばだ。しかし、今となっては句集の順番通りに辿っていくしか方策はないので、仕方がない。
というわけで、早速レビューである。
桐畑を伐って五月盡くる頃の月
昔は桐畑というのがあったようなのだ。箪笥を作る材料になった貴重な木である。その木を伐ってしまったのが、五月の終わり頃。
夏至も近付いていて、日の暮れるのが遅い。ようやく初夏の月が出る。いろいろなことがあって、長かった一日の終わり。空を見上げて一息つく。
この季節の月は、人をただ呆然とさせる。
山ふかく花咲きし櫻一本もあらむ
平地の桜は、八重桜さえももうほとんど散ってしまった。山深く入れば、まだ花の散らない桜の木が一本ぐらいあるだろうか。
街中にはもう風流はない。山奥に入れば、まだ少しは心にしみるものがあるだろうか。
からだかゆき夜の梨の花散りやまず
唯一郎の句は、時々妙に官能的なところがある。「からだかゆき夜」 というのも、まさにその一つだ。
春が終わり、初夏に近付く頃は、布団の中で体がかゆくてたまらなくなることがある。熱っぽい皮膚を通して、赤い血の色が見えそうな感覚。
そんな夜、庭では梨の花が次々に散っている。真っ白い梨の花と血の色の対称。
本日はこれにて。
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