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2009年10月 4日

『唯一郎句集』 レビュー #67

『唯一郎句集』 レビューも、もう 66回目になってしまった。残りのページ数と比べてみると、まだ 3分の 2 までは来ていないようだ。

この分では、完結までに 100回を越すのが確実だ。1年がかりにはなるだろうと思っていたが、今年 1月末から始めてこんな具合だから、やはり年越しは必至である。

今回も前回に引き続いて春の句である。さっそくレビューを開始しよう。

路次を出る街を出る樫の芽を見んとする

「路次」と表記する場合は、辞書的には「道すがら」の意であり、この場合は「路地」(家と家との間の狭い通路)の方が適当のように思えるが、原典に即すことにする。

小さな道を出て、街をも出て、田舎道になる。大きな樫がそこかしこにあり、さかんに芽吹いている。

あたかも分厚い着物を次々と脱ぎ捨てるように「路次」と「街」から脱出し、田園風景の中に生のいのちを見ようとする唯一郎。

みほとけのくろい額の前でふくれている木の芽

山辺の古い寺で仏像の前に佇む。その仏像の額に迫るように木々の若芽が膨れだしている。

仏像の年代を感じさせる黒い額と、若芽の新緑。地方の旧家らしい保守的な価値観と、それに迫り来る新しい価値観が自分の中にあり、静かに葛藤している。

何のよすがの茅の芽に音たててゆく蟹

川岸にまた生え始めた茅の芽の上を、小さな蟹が音を立てて這っている。茅葺きの屋根というのはあるが、蟹が何のよすがで茅に寄ってくるのだろうか。

カサコソと音を立てて行く蟹に、生きとし生けるものの哀しみをみる。

今日はここまで。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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