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2009年10月25日

『唯一郎句集』 レビュー #73

30歳を過ぎてからの唯一郎は、それほど多作な俳人ではなくなったのかもしれない。前回が 初夏と秋の句だと思ったら、今度はもう春の句である。

ただ、今回は同じ日に作られた句である。病後の息子を連れて、藤棚の下で藤の花を見上げている光景の 3句だ。

さっそくレビューである。

病後の児をつれて來る明るい藤棚の下に

唯一郎の子どものうち、一番下の息子と、その下の娘(つまり私の母)をのぞくいて、上の 3人の息子は、それほど体が丈夫ではなかったようだ。私の記憶にある伯父 2人(残る一人は夭折したらしい)はやせ形で、それほど頑丈には見えなかった。

その子どものうちの一人が病気になり、快方に向った春の日、唯一郎は明るい藤棚の下に子どもを連れてくる。ようやく元気になった子どもの様子が、明るい空の下の藤棚に重なり、親の情愛が感じられる。

父子の頭の上藤花ゆれてやまず

同じ日に作られた句だろう。藤棚の花が風に揺れ続けている。それだけの句だが、やはり親の情愛がさりげなく込められていると思う。

藤の垂り花のおともなきに汗ばみてあり

藤棚の下に垂れる花は、風に揺れてはいるが、音はない。その程度の風なので、初夏の日に父子はあせばんでいる。しかしその汗も、健康を取り戻したばかりの息子を見る父の目にはうれしい。

本日はこれにて。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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