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2009年10月12日

"The smell of the South country" って?

先日、電車の席に座ってブログ更新を終え、PC の電源を落として視線を上げると、きれいな絵が目に飛び込んできた。

それは目の前に立った女性の Tシャツのプリントで、トロピカル風の魅力的なイラストである。Tシャツのお値段も、一見してお安くはなさそうに見える。

それを着て目の前に立っていた女性も、つんとした顔に色の濃いサングラスをし、いわゆる「いい女」風の魅力を、十分意識的に、あたり一面に思う存分漂わせている。

しかし次の瞬間、私はちょっとがっかりしてしまった。Tシャツのプリントに添えられた英語のテキストが目に入ってしまったからである。それはこんなのだった。

Pleasant wind and the smell
Of the South country.

Surface of the sea
Gentle condition
And the surf beat.

最初の 2行は、元々の日本文がどんなのだったか、すぐに想像がつく(誤訳だけどね)。「南国の気持ちよい風と匂い(あるいは「香り」?)」ってなところだろう。だが、その次のフレーズになると原文すらわからない。直訳して日本語に戻すと、「海面、優しい状態、そして寄せる波の鼓動」ということになる。つながり悪すぎだ。

それにしても、"the smell of the South country" (南の田舎の悪臭) はひどいなあ。もっと言えば、「気持ちよい風」は、"comfort wind" ぐらいにしておくのが無難だろう。 "Pleasant" と言ってしまうと、なんとなく人格的なニュアンスが邪魔するように思う。

数人の女性に、「電車で目の前に立った女性の魅力的な Tシャツのトロピカル・プリントに、”the smell of the South country"って書いてあったんだよね」と言ったら、全員、即座に吹き出していた。

Tシャツのメーカーを責めようとは、敢えて思わない。その辺のアパレル・メーカーの企画スタッフに、まともな英語を求めても仕方ないのである。それぐらいのことは、街で見かける Tシャツの胸のロゴをみれば、つくづくわかる。

しかし、いくら見た目が震えつきたくなるような「いい女」でも、あの Tシャツを買うときに何の疑問も抱かないようでは、ちょっと困ってしまうのである。一緒にお酒を飲みたいとは決して思わない。多分全然話題が合わなくて、すごく疲れちゃうだろうから。

久々の Engrish ネタで、失礼。

【10月 13日 追記】

変なツッコミをされるかもしれないので、念のため書いておく。

確かに、「香り」 を和英辞書で引くと、

(a) smell; (a) fragrance; an odor; ((the)) aroma ((of coffee)); ((the)) scent ((of lavender)).

と出てくる。(参照

「ほらみろ、香りを "smell" と言っても、間違いじゃないじゃないか」 と言う人があるかもしれないが、念のため、今度は 英和辞書で "smell" を引いてみてもらいたい。次のように出てくる。

━━ vt. (〜ed, 〈英〉smelt) かぐ, かぎつける ((out)).
━━ vi. かぐ, かいでみる ((at)); 鼻がきく; …のにおい[気配]がする ((of)); 悪臭がする.
━━ n. かぐこと; 嗅覚(きゅうかく); におい; 悪臭; 気配 ((of)); 跡.

つまり、"smell" という言葉の基本的イメージは、どちらかといえば、確実に「悪臭」なのである。"Good smell" と言って初めて 「いい匂い」 になる。英語で文章を書く場合には、一度和英辞書をあたったら、英和辞書でニュアンスまで確認しないと、本当に危ないということを覚えておく方がいい。

日本語で 「お天気」 というと大体 「晴れ」 のことだが、英国では "weather" とだけいうと、まず想起されるのは、言い訳の材料に使われるような好ましくない天気のようである。よく言われることだが、西洋では本当に「自然は敵」 のようなのだ。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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言葉」カテゴリの記事

コメント

Tシャツにプリントされた“英文”を読んで、あ~ぁ見えちゃったなあ(脳みそが)と思うことよく有りますね。

極め付きがこれ

“bitch”

というブランドが昔(十数年前でしょうか)有りましたね。
胸に大きく“bitch”とプリントされてるのを見て凍りつきました。

作る人、売る人、買う人、一体どうなってるんだと不思議でした。

これにはさすがに日経が異例とも言える批判記事を夕刊に書いていましたが、その後急速に消滅したようです。

スーパーの衣料品売り場に行くとへんてこ英語にたくさん遭遇しますね。
アパレル業界ってなんか変だなあって昔から思っています。

Engrishのサイト面白いですね。
私の英語力では何がおかしいのか不明なのもありますが。

投稿: ハマッコー | 2009年10月12日 23:06

少し昔にさかのぼれば
ケンゾーの「JAP」
という大変なブランド名がありましたね
JAP という言葉が世界でどういう風に使われているかを知っていれば、そんな名前を付けることなどは、日本人として出来るはずが無いのですが

話は飛びますが
昔、私が参加していたあるチェコでの通信事業の国際商談でパートナーだったイタリア人が「日本人」という意味で「JA(P)・・・」とまで言いかけて、あわててとちゅうで言葉を呑み込みました
なるほど、こいつは日常では日本人のことを「JAP」と読んでいるのだな~と、欧州人の本音を見た思いでした

それにしてもイタ公に(笑)「JAP」と呼ばれたくはありませんね
イタ公は(笑)米国での蔑称で「WOP」と呼ばれています
その心は「WITHOUT PAPER」、つまりパスポート無しで米国に入国した「密入国野郎達」という意味です

何だか、悪口競争になりましたが(笑)

投稿: alex99 | 2009年10月12日 23:49

もうひとつ
south country と言うよりは
southern country
では無いでしょうか?


「匂い」を英辞郎で牽いてみると
aroma
flavor〈古〉
foil(けだものの)〈古〉
fume
nose
odor
perfume
scent
smell
【連結】
ozo-
匂い(odor)を放つ

・・・とありますが

「芳香」という意味合いでは
fragrance
incense
もありますよね

また
「flavor〈古〉」
とありますが
flavor は古いんですかね?(笑)
広告でよく使われていると思いますが
バニラ・フレイヴァーなどと

また、正確な記憶はありませんが「女の匂い」と言うような映画の題名で(エロティックな意味合いだと思いますが)
scent
が使われていたような記憶があります

投稿: alex99 | 2009年10月13日 03:17

ハマッコー さん:

>Tシャツにプリントされた“英文”を読んで、あ~ぁ見えちゃったなあ(脳みそが)と思うことよく有りますね。

「見てるこっちの方が恥ずかしいわい!」 と言いたくなることがありますね ^^;)

"BITCH" に関しては、こんなのが見つかりました。

http://rish.tumblr.com/post/34102503/bitch

非常に下品な言い方で、

"She's my bitch."

なんていう言い方があるみたいです。

「俺のスケだぜ」(古い! ^^;)ってなニュアンスでしょうかね。

投稿: tak | 2009年10月13日 10:45

alex さん:

>少し昔にさかのぼれば
>ケンゾーの「JAP」
>という大変なブランド名がありましたね
>JAP という言葉が世界でどういう風に使われているかを知っていれば、そんな名前を付けることなどは、日本人として出来るはずが無いのですが

まあ、自分で言う分にはちょっと自虐的なジョークになるわけですが、ブランド名にするのは、憚られますよね。

"Yankee" は、南部人からすれば侮蔑的な言い方なんですが、「勝てば官軍」 で、野球チームが堂々と名乗ってますね ^^;)

>もうひとつ
>south country と言うよりは
>southern country
>では無いでしょうか?

文法的には southern country がベターなんでしょうけど、south country でも通じるみたいですね。

Bob Dylan に "North Country Blues" という歌もありますし。

>また
>「flavor〈古〉」
>とありますが
>flavor は古いんですかね?(笑)

意外ですね ^^;)

>広告でよく使われていると思いますが
>バニラ・フレイヴァーなどと

そうですよね。

ただ、Vanilla は、米国人の発音だと 「ヴィネラ」 に聞こえますね。(「ネ」 にアクセント)

だから、頭にアクセントのある 「バニラ」 だと思っている日本人には、絶対に通じません。
(それとも、私の付き合いのある米国人が訛ってるのかなあ)

それから、「南国の風の香り」 なんていう発想自体が、非常に日本的なんじゃないかなあと思うんですが。
例えば、「風薫る五月」 という決まり文句がありますが、英語に訳せないですよね。

投稿: tak | 2009年10月13日 11:11

英語も日本語も微妙なニュアンスの使い分けはやっかいですね。この場合は scent くらいがちょうどいいような。

japは最近の若い人たちの場合、差別語という認識を持っていないことも多いようで、フォーラムなどで日本のことを語るときにjapを使って他の人に指摘されて、「あ、そうなの?」みたいなやりとりになっているケースをたまに見かけます。

Urban Dictionary http://www.urbandictionary.com/define.php?term=jap
の13番にも

guy 1: I wonder what anime the japs are making nowadays?
guy 2: they're called Japanese you dumbass.

なんて例がありますが、ホントにこんな感じで知らずに使う人が増えている印象です。

このサイトによると、jewish american princess などという意味もあるようですね。「ユダヤ系のお嬢様」といったところでしょうか。こちらは同じ jap でも随分イメージが違います(^^;

投稿: ぐすたふ | 2009年10月14日 19:13

誤解を招くかも知れないのでちょっと訂正。
フォーラム(forum)と書いたのは掲示板のことです。

投稿: ぐすたふ | 2009年10月14日 19:25

ぐすたふ さん:

>japは最近の若い人たちの場合、差別語という認識を持っていないことも多いようで、フォーラムなどで日本のことを語るときにjapを使って他の人に指摘されて、「あ、そうなの?」みたいなやりとりになっているケースをたまに見かけます。

単に Japanese の短縮形と思われているフシもありますね。

>このサイトによると、jewish american princess などという意味もあるようですね。

小文字の jap は、そんな意味になるんですね。
知りませんでした。

投稿: tak | 2009年10月15日 10:59

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