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2009年10月 5日

ジル・サンダーとユニクロとオンワード

先週金曜日の、ユニクロとジル・サンダーの話の関連でもう一本書かせてもらう。ジル・サンダー本人は、今は ブランドとしての 「ジル・サンダー」を使えない身の上だったのだ。

「ジル・サンダー」という会社は、日本のオンワード樫山のものになってしまっていたのを、一昨日、記事を書き上げてから思い出した。

Google で検索してみたら、昨年 9月に、オンワードがジル・サンダーを買収した際のリリースが見つかった(参照)。オンワードのホールディング・カンパニーである (株) オンワードホールディングスが、ジル・サンダーの持ち株会社を完全子会社化していたのである。

じゃあ、日本におけるオンワードとユニクロの関係はどうなるのかというと、実は、全然関係ないのだ。というのは、ジル・サンダー自身は今、自分の作った「ジル・サンダー」という会社から離れていて、つまり、自分の名前である「ジル・サンダー」を、自分の作った商品のブランドとしては使えないという境遇なのだ。不憫な話である。

この間の事情は、ざっと次の通り。

ジル・サンダーは 1973年にデザイナーとしてのキャリアを開始してパリ・コレにデビュー、87年にミラノ・コレクションに舞台を移した。彼女の会社は 99年にプラダに買収され、当初は自身がディレクションを担当したが、方針の相違から自分で創立した会社を去り、2003年に一度は復帰したものの、翌年には再び離れざるを得なかった。

プラダという会社は、よくこういう無茶をする。一人のデザイナーが丹精込めて作り上げたブランドを買収し、そのコンセプトをスポイルしてしまうのだ。まあ、スポイルしたのではなく、ビジネスとして発展させたのだという人もいるわけだが。

ところがプラダは、2006年にジル・サンダーをチェンジ・キャピタルという投資会社に売却し、昨年になって、そこからオンワードが買い取ったというわけだ。同社の商品のデザイン・ディレクションは現在、ラフ・シモンズが担当しており、名前以外は、創業者のジル・サンダーとは無関係になっている。

こうした例は別に珍しいことではなく、ケンゾーやヘルムート・ラングなんかもそうだ。前者は LVMH に、後者はプラダに買収されたためである。70年代に一世を風靡した米国のホルストンは、経営戦略の失敗のために自分で作った会社から追い出されて、自分の名前を冠したブランドを使えなくなり、間もなくエイズで死んだ。

今や、ファッション・ブランドは、金融商品みたいに取引きされるものになってしまった感がある。ジル・サンダー関連でいえば、オンワードは大金を投じて名前とステータスを取り、それに対して、ユニクロは実体に近いところを取ったというわけだ。

この件に関しては、私はユニクロの方が利口だと思う。少なくとも今のマーケットにずっとマッチした手法だ。それは、一人勝ちと言われるユニクロの好調とオンワードの不振という事実が雄弁に証明している。(参照

今後、ユニクロの "+J" というブランドに関連して、ジル・サンダーというデザイナーの名前はしばしば登場するだろう。ブランドとしてではなく、デザイナーの個人名なのだから、「使うな」というわけにはいかない。これはパブリシティの強みになる。

で、今のジル・サンダー社が「ユニクロとは無関係」(参照)と強調すればするほど、同時に「本家本元のジル・サンダーとも無関係で、『要するにブランドを名乗ってるだけ』なのね」 とバレバレになるのだから、ちょっと興醒めなところである。

ちょっと前までだったら、"+J" の取り組みは 「ハイファッションの舞台を失ったデザイナーが、安物のデザイン稼業に落ちぶれた」と言われかねないケースだが、今や誰もそんなふうには思わない。新たなマーケットの創出という側面の方がずっと大きいだろう。

最後にまったく別件だが、前に書いた記事の関連で 2点。

今年 2月 17日付の「中川さんの仏頂面」という記事

いみじくも pfaelzerwein さんがコメントの中で 「あの政治家もおかしな薬を常用しているのでしょう」と指摘しておられるが、実は私も同じような疑いをもっていたところである。これが見当はずれであってくれればいいと思う。見当はずれでなかったら、親父の二の舞になってしまう心配さえある。

ああ、心配したとおり、親父の二の舞になっちまった。

2007年 3月 7日の 「石原慎太郎は、これで終わりということで」という記事

北京の後の後に、またしても東アジアでの開催なんて、難しいに決まってるじゃん。そんなことに無駄金使って、どうしようというのだ。

石原慎太郎の 3期目は当選になってしまったが、東京オリンピックはダメだったので、おあいこである。あの近年では最低の北京オリンピックの次の次にまた東アジアに招致するなんて、当の日本人のシンパシーも得られなかったんだから、落選も当然だ。

2016年でなく、2020年だったらまだ可能性があったのに、自分の任期のうちにオリンピック招致を成功させたかったんだろうなあ。これがエゴでなくてなんだというのだろう。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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コメント

ジルサンダーに関しては、「1999年に会社を一部プラダに売却して、その後結局最終的に業界から姿を眩ましていた」と、三月に新聞を読んで書きましたが、資本介入乗っ取りの典型的な例だったようですね。逆にこれを読むと、その記事にプラダは出てもオンワードが出なかった理由など、今回の「共同作業」の真実が記事として隠されていたのが分かります。新聞社の取材漏れだったのか、それともなんらかの配慮があったのか、プレス情報の意図にそのまま乗ったのかなど大変興味が湧きます。

中川氏の死はそれなりに衝撃でしたね。死因は分かっていないようですが、政治家としては公表できない強い薬に依存する生活だったのでしょう。そうした運命の悪い循環を断ち切る「政治相続」が禁止されようとしていますが、さて今回はどうなるのでしょうか?親父さんは総裁戦に破れ、負の相続を断ち切る有形無形の経済的な負債を背負っていたと想像するのですが、鳩山総理の相続税脱税疑惑にしてもやはり公的政治資金があっても「金が力」であることは小沢幹事長が明言してますからね。

投稿: pfaelzerwein | 2009年10月 5日 12:46

pfaelzerwein さん:

>ジルサンダーに関しては、「1999年に会社を一部プラダに売却して、その後結局最終的に業界から姿を眩ましていた」と、三月に新聞を読んで書きましたが、資本介入乗っ取りの典型的な例だったようですね。

その 3月の記事、拝見しました。
ドイツでも半年も前から話題になっていたのですね。

私はプラダとか LVMH のやり口は、基本的に好きません。
(おっしゃるとおり、要するに、乗っ取りですからね)

「ジル・サンダーのいないジル・サンダー」 を手に入れて、後は投資ファンドに売り払ってしまったわけです。

>逆にこれを読むと、その記事にプラダは出てもオンワードが出なかった理由など、今回の「共同作業」の真実が記事として隠されていたのが分かります。

単にその後の推移を知らなかったのか。
あるいは、書いてもしかたのないことと思ったのか。

普通に考えれば、名前だけのジル・サンダーと、本人のジル・サンダーが日本で相まみえるというおもしろいニュース・ストーリーを敢えて書かなかったのは、何かの配慮があったんでしょうね。

それとも、ジル・サンダー自身が 「過去のことは、どうでもいいわ」 と、敢えて触れなかったのか。

>中川氏の死はそれなりに衝撃でしたね。死因は分かっていないようですが、政治家としては公表できない強い薬に依存する生活だったのでしょう。

私はなぜか、マイケル・ジャクソンの死を想起してしまいましたよ。

投稿: tak | 2009年10月 5日 13:38


ちょっと申し上げたいですね

中川氏のアルコール依存は衆知の事実ですが、推測?だけで薬物依存までを「強く」「安易に」示唆するのは不穏当ではありませんか??
tak-shonai さんまでが、単に個人的な推測だけで、これだけのことをおっしゃるのですか?
ただし、なにかそういう強い噂でもあるのであれば別です
それならそれで、その情報(うわさ)を、「噂だが」と断ってお書きになればいい
そ~ゆ~いいがかりをつけられれば、私なんかも日頃の言動から?、飲み屋での醜態から、薬物依存とされるでしょうね (笑)

私は中川氏を好ましい政治家の一人と考えていましたので、個人的には例の酩酊会見で失脚したことが残念でなりません

それはそれとして
私は今のマスコミは唾棄すべきものだと思っています

麻生総理にしても中川氏にしても、ベストではなくてもそれなりの人物です
マスコミがそろって小学生以下の知性の持ち主のごとく連日馬鹿にし、バッシングするなど正気の沙汰とも思えません
それも本筋のことを取り上げてではありません

ホテルのバー通いが何が悪いのですか?!
少し前は、政治家の料亭通いをバッシングし続けた後は、ホテルのバーもだめですか?
それでは、いわゆる「家飲み」だけになりますね
健康なことです

それに対して、故人献金などの明らかな不正を犯した鳩山首相には大甘ですね

日本のマスコミは左翼のかたまりだとは知っていますが、あまりにひどい


投稿: alex99 | 2009年10月 5日 20:37

alex さん:

>中川氏のアルコール依存は衆知の事実ですが、推測?だけで薬物依存までを「強く」「安易に」示唆するのは不穏当ではありませんか??
>tak-shonai さんまでが、単に個人的な推測だけで、これだけのことをおっしゃるのですか?

不穏当に取られたのだとすると、私の筆の滑りすぎです。
禁止薬物とかいう意味で書いたのでは決してなく、「強い薬物」とでも言えばいいのかな。

医者に無理言って、強い薬を処方してもらってたんじゃあるまいかというようなことを想像したわけです。
これって、ありがちなことですから。

>私は中川氏を好ましい政治家の一人と考えていましたので、個人的には例の酩酊会見で失脚したことが残念でなりません

私も、中川氏はある意味、評価していました。
しかし、あの酒癖では、どうしようもないなとも思っていました。
ニュースに登場するたびに 「寝起きの顔」 でしたから。

>ホテルのバー通いが何が悪いのですか?!

私も、昨年の 11月 3日付で、麻生さんのホテルバー通いに難癖付ける人のことを、単なる感情論と揶揄しています。

https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2008/11/post-0de7.html

私、基本的にホテル・バーは好きです (^o^)

しかし、そのほぼ 1ヶ月後に、こうも書いています。

>党内掌握が全然できていない。毎晩ホテルのバーで飲んでも、全然無駄のようなのだ。一体誰と飲んでどんな話をしているのやら。

https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2008/12/4-280b.html

もっとも、この頃は自民党が泥船で、どうしようもなくなっていたので、麻生さんが悪いというわけでもなかったのですが。

>それに対して、故人献金などの明らかな不正を犯した鳩山首相には大甘ですね

歴史的な政権交代なので、「ご祝儀」 みたいなことで、不問に付すという 「空気」 になっちゃってますね。
まあ、いつまでも続かないでしょうが。

>日本のマスコミは左翼のかたまりだとは知っていますが、あまりにひどい

本当に、マスコミの感覚は、福島ミズホさんですよ。

投稿: tak | 2009年10月 5日 22:38

ひけらかすようで申し訳ないのですが、私ハロンドン時代、RAC(ROYAL AUTOMOBIL CLUB)という「クラブ」の会員でした
英国の「クラブ」がどういうものかは、ご存じでしょうが、要するに上流階級の男性の隠れ家(笑)です
バー・レストラン・クリーニング店・郵便局・トルコ風呂(おっと スチームバスです)・プール・マッサージルーム・大宴会場などが整っています
私がどうしてこ~ゆ~クラブに入れたかは丸秘です (笑) 

英国の政治家は、特に上流階級寄りの保守党は日本の自民党の政治家の料亭のように (笑) 実質、ここでの密談で政治を動かすと言われています

料亭政治を非難されれば、どうすればいいのでしょう?
ホテルのバーなんて、極めてリーズナブルで(守秘の面では落第ですが)庶民的じゃないですか
「ホテルのバーは贅沢だ」だなんて言って糾弾した北海道新聞のバカ女性記者!!
この新聞社の給料はバカ高(失礼)だそうですよ

自民党が
何を言ってもけなす
何をやってもバッシング
それが日本のマスコミです
そ~ゆ~マスコミの記者の実態
ひどいものですよ
政治家以上に贅沢をしている
昔のテレビドラマで社旗をなびかせた特権?大型社用車にド~ンと乗って事件現場に駆けて、庶民の視点で (笑)取材する新聞記者が常識でしたね (笑) 

投稿: alex99 | 2009年10月 6日 03:34


それから (笑) 一流!新聞社の海外駐在員の現地での威張り方はスゴイ
そ~ゆ~所でいばるのは大使館員と新聞記者です
私に名刺を差し出して、さも「驚いたか?」というひょじょうで私の反応を中止しています
私がわざと何の反応も示さないと、以降、態度が冷たい (笑) 
そ~ゆ~特派員は自分の足で取材せず、現地のアシスタントの取材を記事にするだけです


投稿: alex99 | 2009年10月 6日 03:38

alex さん:

>ひけらかすようで申し訳ないのですが、私ハロンドン時代、RAC(ROYAL AUTOMOBIL CLUB)という「クラブ」の会員でした

すごいですね !

>昔のテレビドラマで社旗をなびかせた特権?大型社用車にド~ンと乗って事件現場に駆けて、庶民の視点で (笑)取材する新聞記者が常識でしたね (笑) 

さすがに今は、海軍旗みたいなのを付けた社用車でやってくる記者は、あまり見かけませんけどね。
態度だけは、あまり改まりません。
(「書いてやるんだから、ありがたく思え」という意識が見え見えですね)

>それから (笑) 一流!新聞社の海外駐在員の現地での威張り方はスゴイ

海外での態度は、海軍旗記者以外は、接したことがないので、私は知りませんが、想像はつきます。

だいぶ前の JR西日本の宝塚線事故の記者会見のときのように、勘違いしっぱなしの記者もいます。

https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2005/05/post_a815.html

投稿: tak | 2009年10月 6日 09:52

 先日の記事といい、ジル・サンダーさんが離れても、ブランド名はジル・サンダーで、ご本人がいらっしゃってもジル・サンダーのブランド名を名乗れないというのはびっくりでした。それもファッション業界ではよくある話というので二度びっくりです。
 ベルサーチも日本をいったん離れるようで、逆にユニクロがパリにお店を出したりと高級ブランドの再編が進んでいるのでしょうか?

 石原閣下が帰国の機上で「泣いた」というコメントを仰っていましたが、うちの嫁曰く「どうせ日本に戻ったら、都議会でこてんぱんにやられるのがいやで泣いているんでしょ。」とのこと。
 仰るとおりです。(笑)

投稿: 雪山男 | 2009年10月 6日 12:02

雪山男 さん:

>ベルサーチも日本をいったん離れるようで、

東京紀尾井町のホテルニューオータニのところにあったヴェルサーチ・ブティックですが、客の入っているのを見たことがありません。

まあ、お客は有名なところでは元ジャイアンツの桑田、楽天の野村監督のほか、土建屋、金貸しなどのバブリーな業界、演歌系歌手、「や」 のつく業界と、そんなところが多かったわけですから、最近は相当な赤字だったと思われます。

アパレル業界でメシを食ってる私がいうのもなんですが、もう、服に余計な金をかける時代じゃありません。

実際の話、夏用と冬用のスーツが 1着ずつあれば (年に 2~3回ずつ着る必要があったりしますので)、あとはユニクロで十分です。

石原都知事の 「泣いた」 発言には、申し訳ないけど笑ってしまいました。

「不適切な発言」 でリオが怒っているそうですが、石原さんが言わなくても、初めからわかっていたことなんだけどなあという気がします。

わざわざあんなところで言うから物議を醸す。

投稿: tak | 2009年10月 6日 14:16

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