『唯一郎句集』 レビュー #74
そしてまた、あっという間の週末。恒例の『唯一郎句集』レビューである。このところ、唯一郎の 30代初めの頃の作とみられる句を味わっている。
十代の頃の作と違い、安定しているが、鋭さはなくなってきている。この後の文人趣味の熟してくるまでの過渡期と言えるかもしれない。
さっそくレビューである。
あさもやの中夏草の莖をいたわりわたす
「莖」は「茎」の異体字。朝靄の立ちこめる野に出て、夏草の細い茎が折れないようにいたわりつつ、誰かに渡す。
誰に渡しているのだろう。10代の頃の作なら、淡い初恋を感じさせるが、既に子どもができた 30代の男の作である。その意味では、ちょっとフィクションぽい感じを醸し出すといってもいい句だ。
俳句の世界で「夏草」といえば、芭蕉の「夏草や兵どもが夢の跡」という句が思い出される。「夏草」と聞くだけで、そうした遠い世界に思いを馳せる感覚が想起される。
靄は朝靄はおしなべて夏花莖を細うする
「靄は」の次に「朝靄は」と続け、幻想的な雰囲気を表わしている。
靄の中に浮かび上がる夏草と、その細くしなしなと揺れる茎の先端に小さく咲く花。その頼りないほどの細い茎は、朝靄の中で伸びるからという。
本当に夢幻的な句である。
本日はこれぎり。
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