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2009年10月16日

秋の空は、男心か? 女心か?

秋である。今日は全国的にいい天気だが、週末は崩れ、来週は 3~4日周期で変化するようになると、天気予報は言っている。

よく 「女心と秋の空」 などと言われ、「男心と秋の空」とも言われるが、本来の日本語としては「男心と秋の空」だったというのは、知る人ぞ知るという程度のレベルのようだ。

端唄「さのさ」にこんな歌詞がある。

あなた そりゃ無理よ
二、三日ならともかくも
十日も二十日もその間
便りもせずに ネェ ゐらりようか
まして 男心と秋の空

「さのさ」 という歌は、明治の中頃から花柳界で広まったと伝えられるが、元歌は江戸末期頃から九州方面の民謡として歌われていたらしい。それが変形して今の端唄「さのさ」になった。

この歌が本格的に広まったのは、確実に明治に入ってからと思われる。なにしろ、いわゆる「ヨナ抜き音階」とはいえ、最後が西洋音階の主音で終わるのだから、江戸時代の歌でありようがない。そして、この頃は「男心と秋の空」という言い方が一般的だったとわかる。

「女心と秋の空」というのは、後からできた言い方で、Goo 辞書で検索しても次のように出てくる。

(2) 女の変わりやすい心。
  「―と秋の空(元来ハ「男心と秋の空」)

辞書の世界では、「男心と秋の空」が元々の形というのが常識のようなのだ。確認はしていないが、広辞苑では、第 5版 (1998年刊行) まで 「女心と秋の空」という項目すらなかったらしい(参照)。まだ公民権を得ていない新語扱いだったのね。

どうして「女心と秋の空」という言い方が広まったのかというと、西洋文化の影響というのが定説だ。英語の決まり文句に、"A woman's mind and winter wind change often." (女心と冬の風はよく変わる) というのがあって、それからの影響という説もあるが、私は最も有力なのは「女心の歌」だと思う。

オペラ 『リゴレット』 のアリア「女心の歌」は、オペラなんて縁のない人でも口ずさめるほど日本でも有名だ。浅草オペラなどの軽演劇を発信源としてもずいぶん流行ったので、日本人の心にあっという間に食い込んだようだ。

♪ 風の中の羽根のように
♪ いつも変わる女心

というやつである。だから、昭和以降は「女心と秋の空」がずいぶん一般化してしまったのである。

ただ、「男心」と「女心」が入れ替わっただけとはいえ、その意味合いにはちょっとした違いがある。「男心」と言った場合は、明らかに「浮気心」のことであり、「女心」と言うと、浮気心以外の「気まぐれ、移り気」というニュアンスがある。

昔の日本では、女には貞節が求められたが、男の浮気には大変寛大だった。妾を持つのが男の甲斐性だと思われていたぐらいだから、男は金さえあれば(なくても?)浮気のし放題で、それだから女の側から見ると「男心は秋の空のように油断がならない」と感じられたのだろう。

ところが昭和以後になると、女もずいぶん強くなり (実は昔から強かったという見方もできるが)、「文句ある?」ってな感じで、気まぐれや移り気を前面に出した生き方が可能になった。そのせいで、男の方が翻弄されるなんてことも珍しくなくなったのである。そこで、「とんでもない、秋の空は女心の方じゃないか」なんてことになったのだろう。

当時は軍国主義が台頭していて、少なくとも表面上は、男は忠節を誓ってヒラヒラしていてはいけないという空気になりつつあったので、この傾向はなおさらである。

というわけで、いろいろな時代の風潮を経過して、今の日本では「両方あり」ということに落ち着いてしまったようなのだ。

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