『唯一郎句集』 レビュー #77
じんましんというのも馬鹿にできない。あれだけひどい症状になると(発疹なんかは出てないのに)、回復するのにかなりの体力を使うようで、ちょっとぐったりしている。
とはいえ、昨日よりはずっと楽なので、今日は仕事にでかけようと思う。私は土曜も日曜もないのである。
出かける前に、週末恒例の『唯一郎句集』のレビューをしておこう。これは多分、秋頃の句なのではないかと思う。
沙魚釣りの父子にけふ野菊が咲き遠い山見え
「沙魚」は「ハゼ」。庄内浜にいくらでもいる魚である。とくに黒鯛とかを狙って釣るのではなく、素人が何の気なしに釣り糸を垂れると釣れてくる。
親子で庄内浜に釣りに出かけたときの情景だろう。「けふ野菊が咲き」というのがいい。別にその日に咲き始めたわけではないにしろ、それまでのあわただしい生活から逃れた時に、その年初めて野菊の咲くのに気付いたのかもしれない。
そして、海岸からは遠い山が見える。秋の空気が澄み切っているので、輪郭がとてもはっきりしている。
えんまごほろぎも來るよをつどひ座す家人ら
日が暮れてから座敷に集まり、四方山話をして楽しむ家族。唯一郎は寡黙なタイプだったが、家族の団らんに心の和まないはずがない。
その「小さな幸せ」にえんまこおろぎまでが引き寄せられてやってくる。
俊一の下痢が止まらない起き出でて月が出ているよ
俊一は、唯一郎の長男の名。かなり前に亡くなったので、私には「とても静かな人」という印象以外に、はっきりした記憶がない。
子どもの下痢が止まらず、夜になっても頻繁に目を覚まして便所に駆け込む。当時のこととて、便所は戸外にある別の建物だったろうから、親が付き添っていく。見上げれば秋の空に皓々と月が照っている。
月を見上げているしかない唯一郎。
五圓札をたたみなさい月が高く出ている
五円札というのがあったらしい。昭和初期の五円の価値がどのくらいだったのかというと、一概には言えないが、今の一万円ぐらいだったんではないかと思う。
これは子どもに対しての呼びかけのようなものだから、やはり唯一郎の家の子どもは、けっこう恵まれていたのだなあと思う。小遣いか何かでもらった五円札を、無駄遣いしないようにたたんでしまっておきなさいと言っている。
その次に続くのが、「月が高く出ている」 という言葉。五円札よりも風流の方に目を向けてもらいたいという願いが、自然に出ていて、おもしろい。
本日はこれぎり。
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