『唯一郎句集』 レビュー #78
前回レビューしたのは秋の季節の句だと思うが、次のページもう初夏の句である。
『唯一郎句集』 の時系列は、ちょっと怪しいところがある。これもみな、唯一郎が作り捨て主義で、句帳というものを持たなかったために、後で整理しにくかったのだろう。
さっそくレビューである。
茂り黒ずむ山麓の川白い浪をたてて
山肌の木が葉を茂らせ、若葉の新緑の頃を越えると色が濃くなる。それを「茂り黒ずむ山麓」と言っているのは、かなり思い切った言い方である。
これは多分、最上峡のあたりの光景だろう。五月雨を集めて水量の増えた最上川が、しぶきをたてて流れる。
初夏の眩しい光、緑の濃くなる山肌、そして白い浪。絵画的とも言える句だ。
あみだにかむせて吾子と出づ桐の花落ちくる
子どもの頭にあみだにかむせたのは、多分、麦わら帽子だろう。林の中を行くと、日射しと葉の影がめまぐるしく交錯して、目眩を覚えるほどだ。
無言で連れだって歩く親子に、桐の花びらが降りかかる。
芍薬の日覆に片ほほをかげらしているや
「日覆」 は、ここは 「ひおい」 と読みたいところである。庭先に芍薬の花が見事に咲いて、まるで日除けのようになっている。
縁側に立って庭を眺める子どもの片ほほに、芍薬のかげが映り、コントラストになっている。もう片方は、陽をうけて白く輝いている。
本日はこれぎり
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