『唯一郎句集』 レビュー #79
立冬になったのに、妙に暖かすぎる。『唯一郎句集』のレビュー中のページが初夏の季節の句だからといって、あまりに暖かすぎて、現実の季節感が狂ってしまう。
そんなことを思っていると、明日の最高気温は今日より 6度も下がって寒くなるのだそうだ。忙しい季節である。
さっそくレビューである。
去年の夏服の小さきに枕べに眠らせる貧しき妻
子どもに着せている去年の夏服が、もう小さくなってしまったのだろう。今年用の夏服はまだ誂えていないので、小さくなった夏服を枕べにおいて、子どもを寝かせ付ける妻。
決して貧しい家ではないのだが、「貧しき妻」 と表現してしまうところに、妻とのちょっとした心のギャップを感じさせる。不和というわけではないし、子どもを愛しているのだが、妻に対しては越えられない溝を意識する唯一郎。
一八地べたより咲きし正しさを人ら歩むなり
「一八」 は 「いちはつ」 と読み、「一初」 とも書く、あやめ、杜若の仲間の花。私なぞは、この花の類は見ただけでは全然区別がつかないが、一番早く咲き始めるのが一八だという。
久し振りで唯一郎らしいシュールさを漂わせる句だ。地べたから突き出るように他に先んでて咲く一八のように、何の疑いもなく、「我こそは正しき者なり」 という顔をして世間を行く人を、唯一郎は憂いをもって句にしているのだろうか。
唯一郎は熱心な浄土真宗信徒だから、自分だけが正しいというような態度を見ると、違和感を覚えてしまうのかもしれない。
山鳩を飼ひ小暗きに蓮の花のそよぎ
これもフラッシュバックのような場面転換で、シュールな感覚に満ちた句だ。
山鳩を飼う小屋の暗さ、早朝の陽を浴びて開く蓮の花のそよぎ。蓮の花というと、浄土の光景を連想させる。ほの暗さに満ちた現実の生活と、浄土の救済の対比を思うのは、穿ちすぎか。
本日はこれにて。
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