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2009年11月21日

『唯一郎句集』 レビュー #80

この頃の唯一郎の句には、とても子煩悩な家庭人というイメージが強く出ている。妻への愛情はなぜかあまり語られないが、子どものことは可愛くて堪らないという風情だ。

さて、お盆の頃の句である。子どもたちが可愛い盛りの夏、唯一郎は若き日のペシミズムを忘れてしまいたいというように、家業と子どもに没頭しているように見える。

それでも時々、ふとしたはずみに、あの新感覚派的鋭い感性が表れて、遠くをみるまなざしになる。さて、レビューである。

稲妻するきちこうの花や蕾は青く

「きちこう」は「桔梗」の別称。桔梗の蕾は、風船のように丸く閉じていて、徐々に緑から紫に変わり、やがてあの特徴ある花を開く。

その蕾の青く変わってきた頃、遠雷が聞こえ、稲妻が光る。家庭人に収まっている自分自身が、まだ稲妻を聞く蕾なのかもしれないとの思いが、どこかにある。

雷はまだ遠くで鳴っている。

白粉ぬりぬりお盆の帯をして小さい財布

子どもたちがお盆の着物を着せてもらい、お盆の帯を締めて、鼻筋におしろいを塗ってもらっている。

帯の間には、小さい財布をはさみ、お小遣いを入れている。可愛らしい子どもたちをみて、心がなごむ。家庭人に収まるのも悪くない。このまま家業をしながら風流人として生きるのも悪くない。

そんな風に思えたりもする。

朝顔ひまはりの花みな小さい僕の庭痩地

庭に咲く朝顔、ひまわり、みな小振りだ。自分の家の庭は痩地なのかもしれない。

自分も、数年前には新進の俳人として一時注目されたが、そのまま大成することなく今では家庭人に収まっている。これでいいのだろうか。いや、そんなことを思っても仕方がない。

そんな煩悶の垣間見える句だ。

本日はこれまで。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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