ユニクロの「過剰品質」
文藝春秋 9月号に載った「ユニクロ栄えて国滅ぶ」というエコノミストの浜矩子氏による論文が、まだあちこちで話題になっている。
私はその論文を読んでいないし、読もうという気にもならないが、アパレル業界ではユニクロを目の敵にする人が少なくない。それで、その論文のタイトルだけが一人歩きしている。
私自身は、アパレル業界でメシを食ってはいるのだけれど、ユニクロをことさらに否定しようとは思わない。「ユニクロ大好き」というわけでもなく、かといって「大嫌い」というほどの理由もないという立場だ。そして気付いてみれば私自身、ユニクロで買った品物が結構な数になっている。
はっきり言って、ユニクロ、商売がうまい。ちょっと前までは「やっぱり田舎から出てきたカジュアル屋のおやじの発想だなあ」というところがあったが、最近はそうした欠点が見えにくくなった。品番を絞ってスケールメリットで迫る企画と、もう少し多品種にまで広げてファッション性をぎりぎり確保する企画のメリハリがついてきている。
それにユニクロの製品を「安かろう悪かろう」の代表のように言う人がいるが、はっきり言ってそれは間違いだ。ユニクロの製品は、値段の割には「慇懃無礼なほど」品質がいい。「そこまでするか」というほどである。
例えば、値段がやたらと安いのに、チノパンに使っている素材が「エクストラファインコットン」だったり、ニットに使っているのが「ファインメリノ」だったり「カシミア混」だったりする。チノパンなんて、定番のゴワゴワ・コットンで十分だし、安物のセーターなんて中番手ウールで十分なのに、ユニクロはことさらに高級素材を使いたがる。
ただ、ユニクロの「過剰品質」は、それなりの戦略に裏打ちされているのではないかという気もする。
まずあれだけの「過剰品質」を訴求すれば、「安かろう悪かろう」では決してないというイメージを定着させることができる。今、ユニクロを「安かろう悪かろう」と言っているのは、ユニクロを着たことのない人だけである。
それから、素材に細番手の高級素材を使いたがるのは、ちょっとパラドキシカルな効果がある。細番手素材というのは見た目が滑らかで、感触がソフトで、なかなかいいものなのだが、物理的にはそれほど強度がない。そりゃ、細い糸で薄くできているのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
だから、細番手素材の服やパンツをカジュアルに、もっと言えばラフに着倒したら、型くずれしやすいし、それに何より、裾や縫い目がすり切れやすい。だからユニクロのチノパンは回転が早まる。回転が速いから、安くても数が売れる。それに「品質はいい」という既成観念ができているから、買う人の多くはリピーターになる。
というわけで、ユニクロの「過剰品質」は、回転を速めることを狙った戦略なのではなかろうかと、私はちょっとひねくれた見方をしているのである。回転さえ速まればちょっと高めの素材を使っても、あれだけの規模なのだから利益的にはおつりが来るだろう。
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コメント
ユニクロはヒット商品であっても「売り切る」ところに、(高級ブランドではない)量販店としては珍しい凄みを感じます。たとえば去年のヒットはヒートテックだったと思うのですが、年が明けたらもう入手困難になっていました。まだまだ寒いし、売れる時期だったと思うんですが。
悔しさを味わった私は、今年、早々に何枚も購入してしまいました(笑) うまく乗せられているなぁ(汗)
投稿: 山辺響 | 2009年11月 4日 18:36
山辺響 さん:
>ユニクロはヒット商品であっても「売り切る」ところに、(高級ブランドではない)量販店としては珍しい凄みを感じます。
これ、数年前のフリース・ジャケットの教訓が遺憾なく発揮されていると思います。
年明けまでに売り残しても、どうせ値引き販売しなければ鳴りませんし、ヒートテックはまだまだ他社の類似品が少ないので、アドバンテージがあります。
だったら、売り残さずにプロパー販売比率を高めてしまおうということだったんでしょうね。
投稿: tak | 2009年11月 4日 20:00
ユニクロの通販で防寒用パンツを買った
なんじゃ?これ? 寒冷地じゃ使い物にならない。
比較的温暖な西日本でも駄目だ。
股下が余りにも、余りにも浅くて、座ると尻が出る
尻が出るのですよ。
そのくせモモのあたりはダブダブ、内側のフリースはオブラートのようにペラペラ。
防寒パンツをはいてラップダンスか?ヒップホップか?
外見だけ作って、中味はむちゃくちゃ。
衣類は先ず用途に沿って普通(良心的)に作るべきものだ。
安かろう悪かろうはいずれアウトになる。
大衆煽動、拝金主義的営業手法のユニクロは駄目
ヒートテックとかで調子に乗っているのだろう。
経営手法としてダイエーの轍を踏むだろう
投稿: ユニクロは駄目 | 2009年12月 1日 03:26
ユニクロは駄目 さん:
>股下が余りにも、余りにも浅くて、座ると尻が出る
多分、「股下」 ではなく 「股上」(またがみ) のことをおっしゃってるんだと解釈させていただきます。
ちなみに、私の買ったのは股上たっぷりですけどね。
いろいろなデザインがあるのかなあ。
>防寒パンツをはいてラップダンスか?ヒップホップか?
本当にそんなイメージでデザインしたのかもしれませんね。
>経営手法としてダイエーの轍を踏むだろう
そのリスクは、確かに内在しています。
投稿: tak | 2009年12月 1日 20:21
某国内インナーウェアメーカー(以下:某w社)の開発からの情報です。
メーカーは競合他社との品質、価格競争の為に他社製品を自社内で品質試験に掛ける事が多々あるそうです。
恐らくどのメーカーもパテントの問題もあるので、やっている事だということ。
それで某w社もウニQのHTを試験に掛けたところ、確かに広告で謳われている機能は備わっていたそうです。
しかし、問題はここから。
洗濯を4〜5回繰り返したところ、どのアイテムも機能が全く無くなり、ただの化繊インナーになったそうです。
その後分かった事で、あくまでも製品後加工で、洗濯により機能がさっぱり落ちる事が判明。
某w社はもちろん国産でがんばってます。
会社批判になってしまい訴訟問題になりかねないので、声だかに言い回る事も出来ないと某w社の開発担当は大変悔しがってました。
品質過剰と書かれていますが、私はそうは思えません。
テクノロジーを海外に漏洩しまくり、国内の物作り環境を根絶やしにしていってるメーカーの商品を購入することは、リスクを背負っていることに気づいて欲しい物です。
単純に、価格は倍違ったとしても、機能がすぐに無くなるが安い物と、
機能は損なわれないもの。
どちらが「まっとう」なのか一度考えてみてください。
投稿: infor | 2010年4月20日 17:03
infor さん:
>品質過剰と書かれていますが、私はそうは思えません。
私は 「品質過剰」 とは書いていません。
カッコ付きの "「過剰品質」" と書いているところに、注目してくだされば、この記事のトーンはおわかりいただけると思います。
>テクノロジーを海外に漏洩しまくり、国内の物作り環境を根絶やしにしていってるメーカーの商品を購入することは、リスクを背負っていることに気づいて欲しい物です。
今や、国内で流通している衣料品の 8割ぐらいは中国製です。
ということは、ほとんどの衣料品メーカーが、「国内のモノ作り環境を根絶やしにしていっている」 と言っても過言ではないわけです。
消費者としては、購入する衣料品の原産国に関しては、選択の幅がほとんどないというのが現状です。
ことは個別のメーカーの問題ではなく、業界全体、あるいは日本経済全体の問題です。
投稿: tak | 2010年4月20日 17:49
私はいまだに一枚も買ったことのない者です。
何度か足を運びましたがどの商品も質が悪いのがすぐにわかりました。
手のひらですーっと撫でるとわかるんです。
ゴワゴワ、ペラペラです。
着心地も悪いね。
ケチケチ、キチキチに仕立てるから着心地も悪いです。
それに染色も悪くて色がくすんでます。
お店全体をざーっと見回してご覧なさい。
煮しめたような服が陳列してあるでしょう。あれをみただけで気が滅入ってしまいます。
自分があんな洋服を買うのはとても惨めです。
買っている自分を友達に見られたくない。
ユニクロの洋服着て楽しいですか?幸せな気分になりますか?
ユニクロがいいとおっしゃる方は着心地や気分などを教えて下さい。
投稿: miyakowasure | 2010年10月 3日 00:55
miyakowasure さん:
>何度か足を運びましたがどの商品も質が悪いのがすぐにわかりました。
>手のひらですーっと撫でるとわかるんです。
>ゴワゴワ、ペラペラです。
>着心地も悪いね。
お言葉ですが、これは客観的に言うと、かなり偏見が入っているなと思いますよ。
ユニクロ商品の品質が 「いい」 とまでは言いませんが、「決して悪くない」 というのは、アパレルの品質管理に携わっている人間の間では、「好き嫌い」 は別として、ほぼ常識です。
あなたの言い方は、どうも、「品質」 と 「テイスト」 いう別個のファクターを、ごっちゃにされているような気がします。
ユニクロの商品の中には、元々の商品企画の段階から 「ゴワゴワ、ペラペラ」 なテイストを志向して作ってあるものもかなりありますので、そのようにできあがっているからと言って批判するのは、いかがなものかと思います。
むしろそれは、商品企画の狙い通りの仕上がりであったりするわけです。
また、ユニクロのユーザーの中には、あの 「くすんだ色」 や、「煮しめたような服」 が好きな層もいます。
彼らは安いから仕方なく買っているのではなく、むしろ、それが気に入って買っているのです。
あなたがそうしたテイストがお嫌いなら、それはそれで全然構わないのですが、やや一方的な言い方に感じられましたので、あえてこうしたレスをさせていただきました。
投稿: tak | 2010年10月 3日 18:46
miyakowasure さん:
通り一遍のレスでは済まない気がしましたので、私の見解を 2010.10.04 の記事として書きました。どうぞお読みください。
https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2010/10/post-6b64.html
投稿: tak | 2010年10月 4日 18:46
ユニクロ製品は間違いなく「安かろう悪かろう」です。
もっと正確に言えば「高かろう悪かろう」です。
実際の品物を何点か購入し見ましたが、最低の素材で
ポケット部の縫製が中途半端で穴があいているものあった。
ユニクロ製品はティッシュペーパーのように使い捨て商品でしょう。 芸能界のお笑いと同じで使い捨て。
外見だけ繕っているイカサマ商品。
『もったいない』と言う言葉が注目される時代に
ユニクロの商法は資源を大切にしていない。
目先の見栄え(ユニクロのデザインが見栄えがいいとは思わないが)消費消費で金儲けをする扇動悪徳商法。
投稿: ユニ黒 | 2012年4月22日 13:11
ユニ黒 さん:
>ユニクロ製品は間違いなく「安かろう悪かろう」です。
>もっと正確に言えば「高かろう悪かろう」です。
あなたの見解は、アパレル業界の品質管理スタッフ (つまり、衣料品の品質に関するプロ) の一般的な見解とは、明らかに異なるようですとだけ申し上げておきます。
私は 2010/10/04 の記事で次のように書いています。
しかもユニクロ商品の 「品質」 に関しては、「大変いい」 とは言わないが、「決して悪くない」 というのは、アパレル業界で品質管理に携わる人たちにとって、ほぼ常識となっている。むしろ、「よくまあ、あの値段であの品質を実現しているものだ」 と、感心している人もいるほどだ。
https://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2010/10/post-6b64.html
>最低の素材で
>ポケット部の縫製が中途半端で穴があいているものあった。
「最低の素材」というのが何を指しているのかわかりません。
趣味志向の問題を、品質の高低に還元する愚を犯したくはないと、私は思っています。
縫製不良に関しては、どんなアパレル製品にも起こりうることです。そんな場合は購入店で交換か返品を申し出ればいいと思います。
ちなみに、縫製不良はどんな高額品でも発生率をゼロに抑えるのは困難です。
>ユニクロ製品はティッシュペーパーのように使い捨て商品でしょう。 芸能界のお笑いと同じで使い捨て。
それに関しては、「ティッシュペーパーのように」とは言いませんが、半ば賛同します。それはこの記事の本文にもあるとおりです。
>ユニクロの 「過剰品質」 は、回転を速めることを狙った戦略なのではなかろうかと、私はちょっとひねくれた見方をしているのである。
とはそういうことです。
(前にも書きましたが、カッコ付きの「過剰品質」という表記に注目してください)
とはいいながら、私はユニクロの商品を何年も着ていますがね。
投稿: tak | 2012年4月22日 21:02
よく「寒冷地では使い物にならない」
などと言っている人がいますが、何を考えてるんだろうなぁって思います
そりゃ極寒の地でユニクロレベルな値段の商品で済ませられる訳ないじゃないですか
それに、ユニクロ自体もそこまで極端に寒い場所で着てもらう為に作ってはいませんよと言いたいです
そういう変な人を除けば、ユニクロの品質は既にファストファッションのレベルを超えていると思います
ある程度ユニクロの服を着てみればそれがすぐに理解できる筈です
勿論、デザイン面で満足できない物も多いですが
シンプルなパンツやデニムなどは本当に重宝しています
これだっていう他メーカーのパンツを数本持っておいてもいいですが
それ以外の普段履きのパンツはユニクロで十二分に満足できていますよ
耐久性も同じ物をずーっと履いたり着たりするなら別ですが
普通にローテーションを組んで楽しめば全然問題ない品質です
過剰にユニクロを批判する人は高ければ何でもいい物だと思い込む人なのではないでしょうか
確かに世界の経済的にはあまりに安くて品質のいい物ばかりが増えるとよくないのかもしれませんが・・・
投稿: 蒼 | 2014年5月24日 20:20
蒼 さん:
この記事のコメントで、「寒冷地じゃ使い物にならない」と書いているのは、お尻が出そうなローライズのデザインを、「ユニクロ固有の欠陥」と認識しているような方です。
実際は、「よくある流行のデザイン」に過ぎず、要するに、元々「実用よりファッション性」を狙った企画ですよね。そうしたニーズに応えただけの商品なのですから、「欠陥」ではありません。
ミニスカートを取り上げて、「丈の短すぎる欠陥商品」と、ピンぼけを言っているのと同じです。
単なる「好き嫌い」の問題で、嫌いなら買わなきゃいいだけの話です。ところが、ユニクロの場合は、「好き嫌い」の問題を「品質の善し悪し」と混同して文句を言う人が、とくに多いようです。
まあ、よくわかってない人からこんなピンぼけの文句を言われるのは、ユニクロの有名税みたいなものなのでしょうね。
投稿: tak | 2014年5月25日 00:08