狭山茶にみる美しい関係
先日、車を運転しながらカーラジオを聞いていたら、聴取者参加で、「知られざる郷土自慢」 という企画があった。
聞いていると、なるほど、極々マイナーな知られざる郷土自慢が、各地にあるものである。自慢してもしょうがないような郷土自慢というのも、なかなかほほえましいものだ。
で、その番組にどんな郷土自慢が寄せられていたのかというと、申し訳ないがほとんど忘れてしまった。その程度の、どうでもいい郷土自慢だったのである。それでも、その土地の人にとっては、ちょっとしたプライドのようなのである。まあ、それはそれで大切にしてもらいたいという気はしたのだった。
そうしたマイナーな郷土自慢の中で、たった一つ、今でも覚えているのが、入間市在住の聴取者からの、「狭山茶の生産量は、実は狭山市ではなく、入間市の方が断然多い」 というものだった。これは統計上、本当のことなのだそうだ。
そして、彼はこう続けるのだった。
「入間市で生産されているのに、名称が 『狭山茶』 になっていることは、別にいいんです。名前は狭山に譲ってあげているんです。そんな小さなことに、入間市民はこだわらないんです」
これを紹介したラジオのパーソナリティは、「入間市民はなかなか太っ腹ですね。まあ、東京ディズニーランドみたいなものですかね」 とコメントしていた。
しかし、この見解は甚だ疑問である。というのは、入間で生産された 「狭山茶」 は、狭山市民からみたら、細かいことを言ってしまえば 「ブランドただ乗り」 と言われても仕方ないのではなかろうかという気もするのである。
しかし、そこはお互いに太っ腹であるおかげで助かっている。狭山茶を狭山市内だけで生産されるものに限定していたら、ブランドとしての規模を保持するためには、ちょっと流通が少なすぎるということになるだろう。入間のお茶も加えて、初めて 「狭山茶」 のブランド価値を維持できる。
これこそきっと "win - win" の関係というものなのだろうと思う。お互いに内心では 「ブランドただ乗りしやがって」 とか 「生産量が少ないくせに看板だけは譲らない」 とか、少しの不満を抱いているのかもしれないが、表立って我を張らないおかげで、両方ともハッピーな関係を維持できている。
ちょっとずつ我慢して譲り合うというのが、実は最も美しい関係なのかもしれない。
| 固定リンク
「ちょっといい話」カテゴリの記事
- 夏の川柳: 牛食ってヒトに食われるヒグマかな(2023.08.24)
- 税務署って、血も涙もあるのだね(2023.05.01)
- 香港のトラック・ドライバーの「グッジョブ」(2022.05.30)
- 「夢うつつ」の状態なら、結構おもしろいかも(2021.06.05)
- マグロと融合するマスクカバーが素晴らしい!(2020.05.03)
コメント
いつも楽しく読ませていただいています。
今日のお話、最後の一文とそこまでの流れがとてもきれいで感銘しました。
投稿: とも | 2009年11月 4日 10:43
とも さん:
>今日のお話、最後の一文とそこまでの流れがとてもきれいで感銘しました。
どっかの家の、嫁と姑も、そうなってくれれば …… なんてことを思ったりして ^^;)
(ウチのことではありません。死んだ母と妻は、とても仲良しでした。念のため)
投稿: tak | 2009年11月 4日 11:34