『唯一郎句集』 レビュー #84
あっという間の師走。このレビューを始めた当初は、年内か、そうでなくても来年の初め頃には完了できそうに思っていたが、とんでもない。来年の春まではかかりそうだ。
前回は雪の降る頃の句のレビューだったが、今回はもう晩夏から初秋の句である。この句集、所載の時系列は、はなはだ怪しい。
まあ、そんなことを言っていても仕方がないから、さっそくレビューである。
わづかに灯のとどき秋めくを石のすはり
庭の片隅、家の中の灯りがわずかにそこまで届く薄暗がり。そこに庭石がある。夏の間は座りが悪く感じたが、妙に静まってみえるのは、秋めいてきているからだろうか。
家族の誰も気付かない、心の半分は家の中に収まりきれない唯一郎独特の感性。
母唐きびをやくにそれをじつとまつている
母が唐きび(とうもろこし)焼いている傍らで、焼き上がるのをじっと待っている唯一郎。
半分は子どものような感覚。もう半分は、老い行く母の後ろ姿を見守りたい大人の感覚。
フアッシヨのともたち青萱原の風吹くに没す
イタリアでファシスト党が結成されたのは 1921年、大正 10年だから、大正末期から昭和初期の日本ではもう、「ファッショ」 という言葉はお馴染みだったのだろう。
「ファッショのともたち」 とは、この全体主義かぶれの友人達のことを指しているのだろうが、唯一郎にはファッショに対する共感があったようには思われない。どうも突き放した見方をしているようだ。
青い萱原が風に揺れる。その中に彼らは消えて行く。そこに唯一郎はそこに何を見ていたのか。
本日はこれにて
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コメント
>母唐きびをやくにそれをじつとまつている
この感覚はよく分かりますね。
このなんでもない瞬間、いつまで続くのだろうかこの幸福 といった思いもあったのでしょうか。
投稿: ハマッコー | 2009年12月 6日 01:28
ハマッコー さん:
>この感覚はよく分かりますね。
そうですね。
母が亡くなってしまうと、リアルタイムでもっとわかっていたかったなという気がします。
投稿: tak | 2009年12月 6日 22:23