『唯一郎句集』 レビュー #86
さて、今日で 12月の第2週も終わる。早いものである。年賀状を作らなければならないし、年末進行の原稿も書かなければならない。
あちこちから喪中葉書が相次いで届く。私の年頃だと、親が 80歳を越してしまう時期なので、毎年誰かの親が亡くなる。唯一郎が死んだのは 40代だったが。
さて、さっそくレビューである。改めて確認しておくが、ここに挙げられているのは、唯一郎がまだ 20代の頃の作品である。唯一郎は家業を継いでからはどんどん寡作になっていったので、盛んに句を作っていた頃の最終段階ともいえる時期である。
月の出風が吹いて花畠花屋の娘
このページの 3句は秋の頃の句なので、花畠に咲いているのも秋の花だろう。昔のことだから、菊とか桔梗とかだったのではなかろうかと思う。
その花畠の夕暮れ。東の空に満月が出て、秋風が吹く。花の色が宵闇に褪せていく。そんな中で、花屋の娘が花の吟味をしている。ほっそりとしたシルエットが美しく見える。
風がことしの稲穂をならしている百姓の婆さん
「ことしの稲穂」 というのが、いかにも米どころに住む人間の感性である。ことしの稲穂が風に揺れ、さわさわと鳴る。
百姓の婆さんが畦道に腰掛けて休んでいる。すぐに稲刈りが始まる。昔のことだから、稲刈りは家族総出の作業である。婆さんもまだまだ働くつもりで、頼もしい顔つきである。
海女の子よ藪から顔を出して秋の海原
庄内砂丘を昇っていくと、松の防砂林を抜け、海が目前になったあたりは小さな藪になっている。
その藪から小さな子が顔を出してこちらを見ている。夏の間、海で泳ぎっぱなしだったらしく、真っ黒に日焼けした顔だ。波打ち際では海女が海草獲りの仕事をしている。
日本海の秋の海原は、冬とは違い、まだまだ静かである。
本日はこれぎり
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