『唯一郎句集』 レビュー #91
さて、今年最後の『唯一郎句集』レビューである。始めた頃は、今頃は終わっているかと思ったが、とんでもない。1年以上かかる息の長い企画になってしまった。
今日は 3句。時系列からみても、多分昨日の 2句と連続して作られたものだと思う。共通した感興が漂っていると思う。
季節は秋。庄内の秋は、急速に涼しくなる。一年の盛りをとっくの間に過ぎたような気がしてくる季節である。唯一郎の普段の心もように合いそうな季節だ。
さっそくレビューである。
些かのゆとりをもち野をゆけば芒ならべり
「いささかのゆとり」 という表現が、ちょっとおもしろいところである。そんなような 「ゆとり」 と、野に並んで生えているすすきが、不思議な対称をなしている。どのような対称かと言われても説明しにくいところで、そこがまたおもしろい。
小さな入江の軒近く秋潮よせてくるなり
庄内砂丘はずっとまっすぐな砂浜なので、小さな入江というのは、吹浦のあたりだろうか。
いくらなんでも入江に沿って立つ民家の軒近くまで潮が満ちてくることなどない。しかし、そのように見えるのは、決して大袈裟な描写というわけでもない。あり得ないことでも、実感は実感だ。
秋潮がひたひたと寄せてくる、呑気ではあるが、ちょっと心細い感興。
秋草を抱へしに逢いこころよく逢へり
秋草をどっさりと抱えた人に会う。向こうも作業の途中で忙しそうなので、余計な世間話にはなりそうにない。
ご苦労様とねぎらい、ちょっと挨拶をして通り過ぎるだけというのが、唯一郎にとって、こころよい人と人との関係。
本日はこれぎり。残りは年明けに。
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