『唯一郎句集』 レビュー #89
ずっと週末に続けてきた 『唯一郎句集』 のレビューだが、当初は年内か年明け早々ぐらいには終わるだろうと思っていた。
ところが、今年の土日は今日を含めて 3回しか残っていない。そして句は 30回分以上残っている。これじゃあ、桜が咲く頃までに終わるかどうかだ。
今日の句は、五月の頃。春から初夏にかけての句だ。昨日の句は吹浦に旅した秋の句だったから、冬を抜かしてしまっている。この辺りの所載の順序は、あまり当てにならないものと、諦めた方がよさそうだ。
さて、レビューである。
合歓の葉ゆれ五月の魚並べられる
ここに登場する食事は、やはり夕食なのだろう。日が延びて、夕食の時分にようやく日が沈んで暗くなり始める。そうすると、ネムノキは葉を閉じ始める。その時に吹く風とともに、さわさわと葉擦れの音がする。
五月の魚といえば、カツオが思い浮かぶかもしれないが、庄内人としては、アジなのではないかと思う。カツオでは並べきれないし。
さわやかな夕暮れの風景である。
松の高きに風鳴るを歩きつつ背に
酒田の街には松の木が多い。庄内砂丘の防砂林に使われていて、砂丘でなくてもあちこちに植えられている。
初夏の風で松の葉が鳴るのを聞きながら歩く唯一郎。ことさらに見上げることもなく、音を背に受けて通り過ぎる。
土を掘り土を覆ふ種隠れたる
私が中学生の頃、この句集を読んで一番気に入った句である。「土を」というのをあえて二度繰り返しているが、唯一郎が時々使う手法だ。
淡々とした写生の中に、目に見えないいのち、それは可能性と言ってもいいかもしれないが、そうしたものに対する思いが感じられる。重要なのは 「隠れたる」 と連体形で止められて余韻を残しているところだ。
この母子に虎杖の葉の目にあまる
「虎杖」は「イタドリ」と読む。別名「スカンポ」。山菜として食べたりする。この句に登場するのは、大きな葉のイタドリのようなので、オオイタドリという亜種 (?) かもしれない。
「この母子」とは、妻と子どもたちのことなのだろう。子どもたちには大きすぎて、折ってかじることもできないというような情景が目に浮かぶ。
本日はこれぎり。
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