でっごぐさんのとしや(大黒様の歳夜) #2
昨日は私の郷里の庄内で本日 12月 9日に行われる「でっごぐさんのとしや(大黒様の歳夜)」という行事を紹介した。
しかし、大黒様の歳夜(年越しの夜)がどうして 12月 9日なのかということが、さっぱりわからないし、文献を調べてもそれらしき記述に行き当たらない。
というわけで、あまり気になるのでインターネットで検索の限りを尽くしたところ、少しは関係があるのかなというようなところが見えてきたので、今日はそれについて書いてみたい。
まず、ちょうど今頃が一年のうちで日没の一番早い時期だからという説がある。こちら のブログはなんと、土佐の高知の方の書かれたものだが、やはり大黒様の年越しを祝うという。そして、それはこの頃が一番日没が早く、農耕民にとっての分岐点になるからではないかというような推論が書かれている。
確かに、山形県でもこの頃が一番日没が早いのである(参照)。12月の 4日から 10日までは、午後 4時 18分には日没になってしまい、11日を過ぎると、日没時刻はほんのわずかずつ先に伸びていく。ただ 1月 半ばまでは日の出がさらに遅くなり、日の短さということに関しては、冬至が分岐点になる。
外で仕事をする農耕民にとって、歳の変わり目という体感的実感があるのは、日没の一番早いこの頃なのかもしれない。そりゃ、早く日が暮れれば、日が短いと思ってしまう。
それから思い当たるのは、12月 9日というのは、旧暦に換算すると、年によって違うが大体 10月の中旬から 11月中旬にあたるということである。旧暦 10月といえば神無月と呼ばれ、日本中の神様が大黒様(大国主命)の本拠地である出雲に集まるので、その他の地域から神様がいなくなるという月だ。
もっとも 「神無月」は当て字で、日本中の神様が出雲に集まるというのは、中世以後に広まった俗説だが、この時代に民俗行事の多くが発生しているのだから、関係ないとは言い切れない。その神無月の末日が、新暦の 12月 9日に近く、しかも日没が一番早い時期というのが、勘所のように思われる。
ところで、この土佐の高知の方の記述で興味深いのは、次の記述である。
師走のある夜、父が「大黒大黒、まっかん大根、耳開けて」と神棚の大黒様に向かって大きな声で呼び掛けていた。
私にはこの 「耳開けて」 という件に関する記憶はないが、こちらのページには、「山形では、12月 9日の夕方は、耳あけをやります」 という記述がある。
二股の大根を神棚に上げ、豆の入った一升マスを上下に振りながら、
「お大黒様、お大黒さま、耳をあけて聞いておりますから、いい事を聞かせて下さい」(実際は、山形弁で)と、これを3回繰り返します。我が家では、子供がこれをやることになってました。
ふうむ、大黒様と 「耳開け」 というのは、何か強い繋がりがあるようなのだ。さらに こちらのページ には、以下のような興味深い記述がある。
東北地方では、十二月九日を「妻迎え」、「嫁取り」、「お方迎え」などと呼び大黒様が嫁を迎える日としてきました。この日は、ワラで編んだ皿に小豆飯を盛り、二股大根を供えます。この二股大根を「大黒さんのかかさん」「嫁大根」と呼んでいます。
また、山形県米沢市には、八日に「大黒様の耳明け」という行事があります。二股大根の嫁に柏の葉の着物を着せたものと大豆飯を供えます。そして、炒り大豆を桝に入れてがらがら振りながら、「大黒様、大黒様、耳をあけておりますから、いいこと聞かせてください」と唱え、神棚に祭った大黒に大豆を投げるのです。家によっては、「ぜにかね、ざっくもっく(たくさん)入るようにしてください」とも唱えます。宮城県では、十日の夕方に、おなじようにして、「大黒大黒耳をあけ、よいこと聞いて悪いことを聞きたもうな」と唱えます。大黒は耳の悪い神なので、願いを聞き届けてもらえるよう、大きな音をたて、大きな声で言うのです。
どうやら、子孫繁栄と豊作(はたまた商売繁盛まで)を重ねて祈願する意味合いが感じられる。まっか大根(二股大根)を大黒様の嫁に見立てるのは、前述の如くその形状によるもので、子孫繁栄を連想させるからである。さらに、神棚に大豆を投げるというのは、節分の豆まきとの関連もありそうだ。
それから、大黒様は耳が悪いとか遠いとかいう俗信も興味深い。耳が遠いのは大黒様だけでなく、恵比寿様もそうだという俗信がある。古来、恵比寿・大黒でワンセットになっていて、両方とも繁栄とか長生きの神様でもあるので、長生きして年を取ると耳が遠くなるという発想だろうか。
それにしても、この行事は庄内特有のものだと思っていたが、よく調べると、他の土地でも祝っているようなのだ。南三陸町でも大黒様にまっか大根を供えるようで、その由来が こちらのページ に書かれている。先に紹介した由来と共通する。
こうしてみると、元々は日本各地にあった子孫繁栄と豊作を祈る民俗行事なのだが、東北地方、なかんずく庄内地方で、大黒様の年越しという感覚的な意味合いも重ね、最も脈々と受け継がれているというようなことではなかろうかという気がする。
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