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2009年12月11日

電車の「人身事故」

近頃、毎朝のように電車の遅れや運転見合わせがある。今日も地下鉄東西線の早稲田駅での人身事故で、遅れが出ているとのニュースが流れていた。

先ほどニュースで検索してみると、はねられた男性は腕などに怪我を負って意識不明。自殺を図った可能性もあるとみられている。

ダイヤの乱れは、信号故障、車両点検という原因が多いが、最近は「人身事故」というのが急増していて、鉄道の駅構内で起きる人身事故の多くは、自殺によるものだと聞いたことがある。多分、本当なのだろう。そしてその自殺による人身事故というのは、なぜかラッシュ・アワーに発生することが多い。

鉄道の利用客は「自殺するならするで、もっと暇な時間帯を選んで飛び込んでくれればいいのに」などと、はなはだ不人情なことを言ったりするが、その気持ちは理解できないことはない。鉄道自殺だけではない。高層建築からの投身自殺などではもっと悲惨なことに、下にいた人が巻き添えになってしまうこともある。

「飛び込むなら、下に人がいないのを確認してからにしろよ」と言いたくもなろうというものである。しかし多くの場合、それは無理というものなのだ。

私は極度のノイローゼから立ち直った人の話を聞いたことがある。その人は職場の人間関係が原因で精神状態がおかしくなり、会社に行くのが辛くてたまらなくなった。毎朝家を出るのだが、駅のプラットホームのベンチに座ったまま、しばらく動けなかったという。

次々に到着する電車に乗ることもできず、かなりの時間、茫然としたまま過ごし、いつも大幅に遅刻して出社していた。もちろん、出社してもしばらくは仕事が手に付かず、ただ茫然としたままなので、周囲の人間からは腫れ物に触るような扱いをされた。

それだけならまだいいが、駅のホームのベンチに座っていると頭の中が空っぽになり、いつの間にかホームに入ってくる電車に向かってふらふらと歩いているのに気付き、ハッとして思いとどまったことも一度や二度ではないという。

電車に飛び込んでしまう人の精神状態というのは、そのようにまともな状態ではないので、迷惑にならないようにラッシュ・アワーを避けようなんて思う余裕は全然ないのである。屋上から身を投げる人だって、下の安全を確かめる余裕なんてない。それだけの余裕があれば、身投げなんてしなくて済む。

よく「発作的に」なんてことを言うことがあるが、その言い方も正確なニュアンスを伝えていないと思う。「発作的」というよりは、「何がなんだかわからないうちに」という精神状態なのだろう。

彼の問題はすっかり解決し、今では精神の健康もすっかり取り戻しているが、電車の直前でハッと思いとどまった時のぞっとするような感覚は、今でも覚えているという。

彼の場合は危うく自殺せずに済んだわけだが、世の中にはハッと気付いて立ち止まることもなく、そのまま電車に飛び込んでしまった人も少なくないわけだ。昨年秋のリーマン・ショック以来、こうしたことが増えているような気がする。

自殺が増える増えないは、単純に経済状態が持ち直すか否かとう要素に左右されることが大きい。金の問題が原因で、自分の命を自分で絶つなんていうのは悲しいことである。それを悲しいと思うことができれば、自殺もせずに済むのかもしれないが。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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コメント

発作的と言うと、死の衝動買いのような印象を抱きます。
錯乱のほうがまだ近いような…うーん、遠さは似たり寄ったりですかね。
心身喪失という言い方しか思い付かないです。客観的な表現は難しい…。


ちなみに私は先日、『停電による信号機の故障』で二時間多めに閉じ込められてしまいました。
ローカル線の始発から終点までなので、計三時間も電車内にいた事に!
ああ、勿体ない…^^;

投稿: みぞれ | 2009年12月11日 17:27

みぞれ さん:

>ちなみに私は先日、『停電による信号機の故障』で二時間多めに閉じ込められてしまいました。

それはそれは、難儀なことでしたね。

私は閉所恐怖症というわけでもないんですが、閉じこめられた状態、つまり、自由にあちこち行けない状態というのは、かなり苦手です。

二時間も動かない電車に閉じこめられたら、神経的に辛いと思います。よく辛抱されましたね。

投稿: tak | 2009年12月11日 20:03

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