『唯一郎句集』 レビュー #94
今日と明日とで、「湯野浜にて八句」という添え書きのある句をレビューする。湯野浜というのは、今の鶴岡市(酒田のお隣)にある海辺の温泉町である。
夏は海水浴場としても大勢の人が集まるが、この 8句は春に訪れた時のことのようだ。2句めに「竹の秋」という季語があるので。
湯野浜の観光シーズンは、海水浴場もあるので圧倒的に夏なのだが、この時は湯治か何かで湯野浜を訪れたのだろう。湯治目的ならば、混雑する夏よりも春の方が落ち着いて温泉に浸かれるのだろう。
とりあえず、前半の 4句のレビューをしてみよう。
湯野浜にて八句
草の花しろきに海が見え電車は砂山曲がる
今は湯野浜に行くには鶴岡駅からバスに乗るのだが、昔は電車があった。私が小学生の頃には、海水浴に行くのにこの電車に乗っていたのだが、今は廃止となっている。
湯野浜には車でいくという風潮になってしまったので、採算が取れなくなったのだろう。Wikipedia で調べてみたところ、庄内交通湯野浜線という路線で、1975年まで運行していたようだ。そんなに後まで運行していたとは知らなかった。私自身、60年代後半以後はもっぱら車で行っていたので、電車のことは念頭から消えていた。
余談はともかく、句そのものは、シンプルな写生である。草の花が白く咲き始めている景色を眺めていると、突然進行方向にきらめく海が見える。庄内砂丘の砂山を曲がると、そこは湯野浜だ。
酒田からそれほど遠くないのに、そこはかなり非日常的な町。旅情を感じさせる。
ゆふべわかめ汁の腹に収まるを竹の秋
旅館で一夜を過ごし、周囲の散歩をする。夕食にはわかめ汁がついていた。葉が色づいた竹藪がみえる。
腹の中のわかめと竹の葉がなんとなくリンクする。いつもの風景ではないところを歩いているからかもしれない。
すなはまの草が根の白きうすぐもり
砂浜の所々に草が寄り集まって生えている。その草の群落の端は、風に吹かれて砂が飛ばされ、草の根が露出している。その草の根は思いがけないほど白い。
根の白さと同じような白さの薄曇り。その空の色を映して、海の色も白っぽい。蒼い海とはまったく異なった情緒の風景。
海辺山に入る道の何の白い木々の垂り花
鶴岡と湯野浜の間には、ちょっとした丘陵地帯がある。海辺からの登り口に、白い垂り花の咲く木がある。木の名前はわからない。
湯野浜という海岸の温泉町に来ているのに、眼につく色は、青ではなく白っぽい色である。唯一郎の心象風景に原色は似合わない。
本日はこれぎり。
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