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2010年1月23日

『唯一郎句集』 レビュー #97

先週末は「知のヴァーリトゥード 8周年記念」の記事を書いたせいで、『唯一郎句集』を一度しかレビューしなかった。近頃、週末に 2度のレビューをするのが習慣になってしまっていたので、少し淋しいような気がしていた。

句集もだいぶページが進んできて残り少なくなったので、春頃にはレビューを終わるだろう。その後にぽっかりと、燃え尽き症候群なんかにならないように考えておこう。

さて、レビューである。

さびた鋏の水底に見えて二月盡くる

水底というのは、何の水底か語られていない。どこかの小さな池かもしれないし、あるいは、川か海かもしれない。いずれにしても、さびた鋏が沈んでいるのが見えるのである。澄んだ水である。

池でも川でも海でもいいが、水底に鋏が沈んでいるのが見えるというのは、ちょっとした非日常である。意識がふと別の方向に向いてしまう一瞬だ。

その一瞬のうちに、短い二月が終わってしまう。酒田はまだ寒いのだが、季節は変わろうとしている。

冬海雲のかげりも見え島崎の海苔かき人ら

冬の日本海は荒海だが、それでも 2月になれば少しは日の射して波の静かな日もある。そんな日に、海苔かきをする人影がみえる。

海苔かきとは、岩についた海苔をかき集めること。かいたばかりの岩海苔はそれはそれはおいしい。

島崎は酒田から北の吹浦方向にいったあたりの海辺である。そこで冬の海と海苔かき人らを眺める唯一郎。雲のかげりで、明るくなったり暗くなったりする海である。

冬白い花もちて女の手女の指

昔の庄内で冬に花が登場するなんていうのは、それは仏前に供える花でしかない。白い菊だろう。

登場する 「女」 は妻だろうか。冬のこととて、少し赤く荒れているかもしれないが、それでも白い花にふさわしい繊細さを感じている。

本日はこれにて

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