『唯一郎句集』 レビュー #99
『唯一郎句集』の今回レビューするのは、今頃の季節より少し進んだ、立春過ぎの季節の句だと思う。立春過ぎとはいえ、酒田はまだまだ寒く、根雪は解けていない。
私が酒田で暮らしていた昭和 40年中頃までは、真冬の道は雪で覆われ、3月になるまで根雪が残った。近頃では、真冬に酒田に帰っても全然雪の積もっていないことも多いのに驚く。中学校や高校のグランドで、野球部が元気な声を出して練習している。昔は信じられないことだった。
こんな風に地球が温暖化したので、近頃は甲子園野球でも東北や北海道の高校がけっこう活躍できるのだと思う。昔は冬には体育館で腹筋や腕立て伏せでもしているしかなかったから、練習にならなかったのだ。
というわけで、隔世の感を覚えつつ、レビューに入ろう。
母の雪沓の雫よこの川うすらひの雪を覆ふ
「うすらひ」は漢字では 「薄ら氷」と書き、読みは「うすらい」。薄氷のことで、歳時記では春の季語ということになっている。
母の雪沓とはどんなものだったのか。ゴム長靴は昭和初期には一般化していたようだから、多分、そんなものだったろう。
所々に薄氷の張った川の畔は雪で覆われ、その雪の中を歩く母のゴム長靴に付いた雪が解け、雫になって流れ落ちる。
唯一郎は妻のことはあまり句にしないが、母のことは愛情を込めてよく句にしている。
ひき舟ともづななのたわみもとおい山々の雪
ひき舟が川岸につないである。その舟をもやうともづながたわむ。たわむのは川の流れが早くない証拠だ。
遠い山々の雪が解けて水量が増える春には、ともづなもぴんと張るようになる。庄内の春はまだ遠い。
本日はこれにて。
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