『唯一郎句集』 レビュー #100
今日の 『唯一郎句集』 レビューは、早春から晩春にかけての作と思われる 4句である。さっそくレビューに入る。
葱の香に雪はれて葱を掘り張りくる乳房
「張りくる乳房」などというと、女性の句と勘違いされそうだが、これは多分、出産の近い妻の様子を句にしたものだろうと思われる。私の母は 10月の生まれだから、多分、伯父の誰かが生まれる時のことだ。
畑で葱が育つようになり、雪が晴れて青空がのぞくようになった。庄内の暗い冬が終わりかけ、ようやく命の息吹が感じられるようになった頃、新しい命が生まれようとしている。
日本主義者らむれてゆくにことに降る雪の山茶花
「日本主義者ら」というのは、この頃台頭していた国粋主義を信奉する者たちのことを言っているのだろう。唯一郎は国粋主義に対してはかなりシニカルな見方をしているように思われる。
群れて声高に政治を論じながら行く者たちに雪は降りかかり、山茶花がぽたりぽたりと落ちる。
蛙遠く鳴き山うどの和など辛い
山うどが食卓に上るのは、雪が解け、すっかり春になってからだ。「和」 は 「あえ」 だろう。冬眠から覚めた蛙たちの鳴くのが遠く聞こえる中で、山うどの和え物を食べると、辛い。
遠くの鳴き声と、口の中の辛さ。
まろい手の甲が見え著莪の花の雨
著莪は「しゃが」と読む。私の和歌ログに写真が載っている(参照)。小さいがよく見ると妖艶さを感じさせる花だ。
「まろい手の甲」とは、子どもの手のことか。子どもたちが著莪の花を摘んでくる。春の雨が優しく降る。
本日はこれぎり。
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