医者は治さなくてはならないのか?
土曜日にラジオを聞いていたら、永六輔さんの番組に、元フォークル、現在精神科医の北山修氏が出ていて、おもしろいことをおっしゃっていた。
世の中に、医者にかかるのが好きな人というのはあまりいない(たまに大好きという人もいるが)。 それはなぜかということである。
というのは、さしもの永六輔さんも寄る年波か、転んで肋骨を折ったりというようなこともあって、医者にかかることが多くなったという話からの発展である。永さんは、初めは医者にかかるのがいやでしょうがなかったが、最近になってようやく医者に慣れて、安心して身を任すことができるようになったという。
で、北山氏は、「私は医者はサービス業だと思ってやってますよ」と応じる。永さんは「そういう医者は少ない」と言う。医者はなんとなく役人ぽいというのである。役人ぽい人を好きな人というのは、そうはいない。
そして、北山氏は近頃の医者が役人ぽくなったのは、「医者は病気を治さなければならない」と思われるようになってしまったからだと言うのである。なるほど、そうかもしれない。
昔は、病気は治らないものだった。治る病気なら、医者になんかかからなくても放っておけば自然に治る。放っておいても治らないから医者にかかるのである。ところが、放っておいても治らない病気というのは、医者としてもそれほど簡単に治せるものではない。医者にかかって治ったら、それは運がいいのである。
昔の医者は「治す」というよりは「慰める」のが仕事だったというのである。だから医者は「男芸者」だったというのだ。治るか治らないかわからないが、まあ、医者にかかっているうちは、なんとなく不安から逃れることができる。死ぬときは死ぬのだから、不安からうまく遠ざけてもらいさえすればいい。
ところが現代人は、病気を治してもらうために医者にかかるのである。治らないのは医者の責任とでも言わんばかりの患者が多い。治らなかった人の遺族の中には、訴訟に出る人もいる。
そうなると、医者の側でも防衛のために役人ぽくならざるを得ない。まず、「治るか治らんかわからん みたいなことをいう。そして、「治ったら医者の手柄、治らなかったら不可抗力」という認識を患者に持たそうとするのだ。
そんなことでは、せっかく癒しを求めて医者に掛かった患者の方では、不安の方が先に立つ。ストレスが増えてしまって、治る病気も治らなくなってしまうかも知れない。これは医者にとっても、患者にとっても不幸なことである。
もしかしたら、現代人は生きながらえることにこだわりすぎているのかもしれない。
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コメント
医者に限った話ではないような。
本家本元がどういうつもりでおっしゃられたのか分からないのですが、「お客様は神様です。」を実践なさる「お客」がいるところ全てで同様の問題が起きていると思います。
あえて医者の業務の特殊性をいうなら感覚的に「修理」ってところじゃないでしょうか。100%うまくいっても元に戻るだけでなんら価値の上乗せがない。
20万かけたエステで作ってきた皮膚炎の治療費2000円が「高い」とおっしゃる方がいるそうですが、20万エステにかけることがOKなのは元の自分に何かプラスするように感じるからだと思うと(納得はできませんが)理解は出来ます。
投稿: あ~る。 | 2010年1月14日 21:57
あ~る。さん:
>本家本元がどういうつもりでおっしゃられたのか分からないのですが、「お客様は神様です。」を実践なさる「お客」がいるところ全てで同様の問題が起きていると思います。
うぅん、ちょっと具体的にわかりません。
>あえて医者の業務の特殊性をいうなら感覚的に「修理」ってところじゃないでしょうか。100%うまくいっても元に戻るだけでなんら価値の上乗せがない。
うぅむ、上記の部分よりは理解できます。
>20万かけたエステで作ってきた皮膚炎の治療費2000円が「高い」とおっしゃる方がいるそうですが、20万エステにかけることがOKなのは元の自分に何かプラスするように感じるからだと思うと(納得はできませんが)理解は出来ます。
確かに、さらに理解できます。
投稿: tak | 2010年1月14日 22:50
>うぅん、ちょっと具体的にわかりません。
分かりにくくてごめんなさい。
「神様」なお客とは自分の中での「正解」を提供してもらえないとサービスを提供してもらったとみなさい人、とでも定義しましょうか。対医療ということでは、みのもんた、古くは久米宏(特にステロイドがらみ)あたりの言説が彼らの行動を後押ししている印象です。
例えば、ユ○クロのヒー○テックが行き渡らなくてゴネたおっさんとか、(勝手な)期待を「正解」にされてゴネられちゃうと取り付く島がないのであらかじめ予防しようとすると役人的な対応になっていくように思います。
それぞれのケースで色々事情は違うと思いますが、(本当は親身になってあげたくても)同様の力学で対応が役人的になっていってしまうケースってあるんじゃないかなぁーと。
また、(事実関係はともかく)”安部英医師「薬害エイズ」事件の真実”で書かれているように最前線で最も濃密に対処せねばならなかった人々に(うまくいかなかったときの)非難が集中しやすい風潮の中では、業務上の責任を個人のそれから切り離さないとおちおち仕事もできないとなれば、やはり役人的対応が多数派になっていくように思います。
これも、医療に限ったことではないのでは。
例えが悪いかもしれませんが、保険屋さんの約款に似たマインドを感じます。
投稿: あ~る。 | 2010年1月14日 23:53
あ~る。さん:
>「神様」なお客とは自分の中での「正解」を提供してもらえないとサービスを提供してもらったとみなさい人、とでも定義しましょうか。
なるほど。わかりました。
各種のサービスを受ける人の中には、多かれ少なかれ、そうした 「神様」 なお客はいますね。
サービスに限らず、何でもかんでも自分の文脈でしか理解できなくて、同じことでも別の言い方で説明されると 「それは違う!」 と言い立てるという、とっても疲れる人もいます ^^;)
>それぞれのケースで色々事情は違うと思いますが、(本当は親身になってあげたくても)同様の力学で対応が役人的になっていってしまうケースってあるんじゃないかなぁーと。
それは、多分にありますね。
投稿: tak | 2010年1月15日 15:44
takさん
以前に耳にしたのですが・・・
名医と謳われる方が「ワタシの誤診率は3割ですよ」と仰った際の反応が;
世間一般:ええっ!(酷い)そんなに間違えてるの?
同業者:ええっ!(凄い)そんなに間違えないの?
というものだったとの由。
誤診の判断基準が不明瞭なので、数字の大小について何とも云いようは無いのですが、内と外では認識基盤が全く違うという一例です。
医療については、世間一般が断片的且つ恣意的な情報のみで【勝手なイメージ】を持っている印象はありますね。
まあ、多かれ少なかれ業界外の人間の反応/対応/批評が無知/的外れで業界内の人間の憫笑を買うなんて事例は何処にでもある事で、名称を知っているだけではその事象を理解していることにはならないのですが、困った事に名前を覚えただけで物事を理解したつもりでいる輩も何処にでもいまして、しかも得てして声が大きい。
以上、自戒の念も込めながらの記述です。(苦笑)
昔の役人的な対応(現在ではお役所仕事でもサービス精神に溢れた部署担当者はそれなりに見受けられるようになりましたのでこういう物言いとしました)が決して良いとは思いませんが、そういう対応しか取って貰えないのも仕方無いような受け手の存在もまた公然の事実でしょう。
>治るか治らんか~
兎にも角にも本人次第だと云われた事があります。
会社の産業医から知己となった医師の方が「わたし達は患者さんが治そう、治ろうとする手助けをしているんですよ。」と仰せで、小生もその通りだと思いました。
自己治癒力の認識を誤って、似非科学の塊みたいなナントカ療法に傾注するのは愚の骨頂ですが、医者に掛かれば自動的に修復する、なんてのも、思慮も科学性も皆無ということですね。私見では少なくとも、お医者さんは整備修理する人では無いですし、生身の体はもちろん機械では無いのだから。
投稿: 貿易風 | 2010年1月17日 03:11
貿易風 さん:
>名医と謳われる方が「ワタシの誤診率は3割ですよ」と仰った際の反応が;
>世間一般:ええっ!(酷い)そんなに間違えてるの?
>同業者:ええっ!(凄い)そんなに間違えないの?
いつのことだったか覚えてませんが、確かにありましたね。そういう話が。
私は、「誤診され命取りになるような病気になってないから、まあ、いいか」 と思った記憶があります。
「誤診されて命取りになる病気」 というのは、そもそも、誤診されやすい病気なんでしょうね。
>名称を知っているだけではその事象を理解していることにはならないのですが、困った事に名前を覚えただけで物事を理解したつもりでいる輩も何処にでもいまして、しかも得てして声が大きい。
そうそう ^^;)
声の大きい「こまったちゃん」は、あちこちにいます。
>会社の産業医から知己となった医師の方が「わたし達は患者さんが治そう、治ろうとする手助けをしているんですよ。」と仰せで、小生もその通りだと思いました。
この認識でいるのが、一番いいですね。
医者にとっても患者にとっても。
投稿: tak | 2010年1月17日 07:06