『唯一郎句集』 レビュー #102
『唯一郎句集』 のレビューも、ついに 100回目なった。始めたときに、「100回以上のシリーズになるかも」とは思っていたが、実際にそうなってみると、ちょっとした感慨がある。そして 100回どころではなく、まだもう少し続く。
さて、さっそく 100回目のレビューだ。
(注: 連番の振り間違いがあり、修正したので、実はこれは 102回目である)
馬をあつめて牧場を下るめをとの馬喰
唯一郎の若い頃は自動車というものが一般にはなかったから、陸上輸送は馬車か牛車が主流だった。私が子どもの頃でさえ、酒田の街の通りのあちこちに馬糞や牛糞が落ちていた。
農家では農作業に牛を使うから、運搬にもその牛を使い、運送業者は馬を使っていたのではないかという印象がある。だから、馬喰という仕事はかなり重要な仕事だったようである。
馬喰の夫婦が、夕暮れに牧場で草を食ませていた馬を集め、厩舎に戻る。夕陽は日本海に沈む。
風の音、馬の息遣いなどは、遠くから見つめていると聞こえない。夢のような風景である。
時雨のあとほそぼそと照りそむる草むら
夕方近くにざっと降った時雨が通り過ぎ、沈みかけた陽がかなり低い角度で細々と照る。風に揺れる草の影がまたたく。
そしてどんどん暗くなっていく。馬たちの去った牧場は静かに闇に呑まれていく。
秋のひざし桶屋が桶をこしらへている
酒田の街に戻れば、職人町で物作りの音が聞こえる。
柔らかい日射しを店先に入れながら、桶屋が桶を作っている。桶作りというのは、なかなか細かい技術の要る仕事だ。その見事さにふと見入る唯一郎。
文芸好きは、自分ではなかなかできない 「もの作り」 の職人芸に、ある種の畏敬のような感慨をもつ。
100回目はこれまで。
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コメント
100回到達、おめでとうございます。
万葉のころよりもリアルな生活風景、かといって現代では経験できないことのご教示、誠にありがとうございます。
併せて自分の田舎(母の実家ですが…)の“昔”を想像して、「便利になったなぁ〜」と、しみじみ感じ入る次第です。
ノスタルジーを感じながら、リブフォートゥデイを誓う。
takさん、このレビューは偉業です。
シャーラーララララ…。
投稿: 乙痴庵 | 2010年2月 8日 13:58
乙痴庵 さん:
コメント、ありがとうございます。
>併せて自分の田舎(母の実家ですが…)の“昔”を想像して、「便利になったなぁ〜」と、しみじみ感じ入る次第です。
大正末期から昭和初期といえば、80年ぐらい前のことで、私の父が生まれた頃です。
この 80年ほどの間に、日本の暮らしの風景は、ずいぶん変わったんですね。
多分、江戸時代の 265年間のほぼ3分の1の期間のうちにそれ以上の変化をみせてるんだと思います。
その中にも変わらない人情の機微のようなものがあるのが、不思議に思えるほどです。
投稿: tak | 2010年2月 8日 15:54