『唯一郎句集』 レビュー #101
前回が春から初夏の句だと思ったら、次のページは晩秋から冬にかけての句である。このあたりは、散逸する句を集めて編纂するのにかなり苦労したのかもしれない。時系列もあまり信用しないで、のんびりと読み進めるのがいいようだ。
さて、さっそくレビューである。
山深く栗の落毬も氷雨をあびてあらむ
「落毬」は何と読んだらいいのだろう。「いが」は普通「毬」と書くが、「落毬」だと 「おちいが」になるのだろうか。歳時記には「青毬」というのがあり、これは熟す前に青いうちに落ちた毬のことをいうらしい。
もしかしたら、唯一郎はこの「青毬」をイメージしてこの句を作ったのだろうか。熟すのを前に、青いうちに地に落ちて氷雨を浴びている毬。若いうちに父を失い、中央に出て俳句の道を進むことをあきらめ、家業を継いだ自分と重ね合わせたとみたら、穿ちすぎだろうか。
花もなくなりぬ菊を移し植えて父
晩秋を過ぎると庭に花の彩りがなくなり、急に淋しくなる。そこで、片隅に菊を移植してこの秋最後の花を楽しもうとする。
するとふいに、父が庭の手入れをしている後ろ姿を思い出す。
多分、生きている父が庭で菊の移植をしている姿をリアルタイムで句にしたものではない。
照りかげりする冬の山花嫁ゆけり
空一面が低く垂れ込めた黒雲に覆われる真冬を前に、分厚い雲のかたまりがどんどん風に流される。上空は強い風が吹いているのだろうと感じさせる。
そんな中を、花嫁行列が行く。昔、私も花嫁行列をよく見た。仲人が先頭に立ち、「嫁だあ、嫁だあ」 と触れ歩く後ろに、角隠しに白塗りの顔をかくした花嫁が続く。
雲の動きに伴って、山襞が時に照り、時にかげる。それを背景に、一時の不思議な光景が行きすぎる。
あるはかげりあるは明るう冬山の重なり
上述のように、庄内の初秋は雲の動きが激しい。山襞に雲の影が映る。上の方が白く雪に覆われた山の、照りかげりする姿が、間近に迫った本格的な寒さと地吹雪を予感させる。
本日はこれにて。
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