詐欺女の教訓
私はこの手のニュースにはあまり興味がなくて、テレビのニュースショーなんかを食い入るように見たりはしないので、恥ずかしながら、最近のよく似た 2つの事件の区別がつかなかった。区別が付かないというよりは、1人の女の起こした事件だと思っていた。
2つの事件というのは、あまり魅力的とも見えないような女が、男を手玉にとって詐欺を働き、さらに複数の殺人を犯したのかもしれないという、例のアレである。一つは埼玉の木嶋佳苗容疑者の件、もう一つは、鳥取の上田美由紀容疑者の件だ。
最近、鳥取だか島根だかの山の中の川で電気店主を殺した疑いがあるなんてニュースを聞いて、「へぇ、容疑者は埼玉だか、東京の下町だかに住んでいたような話だったけど、ずいぶん遠いところまで出張して悪事を重ねてたんだなあ」なんて思っていた。しかし、よく聞いてみると別人のお話だったのである。迂闊なことである。
前から思っていることなのだが、世の中では似たような事件が同じ時期に連続して起きやすい。通り魔とか、連続殺人とか、飛行機墜落事故とか、大規模な詐欺事件とか、そんなのは、一つ報道されると似たような事件が連続してニュースになりがちだ。
こういうのを「シンクロニシティ」というらしい。私は前にこれについて次のように書いている。(参照)
「シンクロニシティ」というのはユングの造語なんだろうが、アカデミックな世界では一般に疑似科学扱いされているコンセプトである。 "Synchronic" (共時的な) という形容詞から派生した名詞で、「共時性」なんて訳されており、「因果律」とは区別されている。
わかりやすく言うと(わかりやすいかなあ?)、「朱に交われば赤くなる」というのは因果律(law of causality)で、「類は友を呼ぶ」というのが共時性(synchronicity) である。朱に交わって赤く染まるのは合理的に説明できるが、本当に類が友を呼んだのかどうかは、単なる偶然と区別がつかない。
それでも、我々の実体験の中には、シンクロニシティといえば言えるという現象がいくらでもある。単なる偶然というには、確率論から言っても多すぎるような気がする。ただ、あくまでも、「気がする」のである。類が友を呼ばないケースは、印象に残らないだけで、呼んだケースよりずっと多いのかもしれない。
というわけで、似たような事件が同時期に発生しやすいというのは、単なる印象に過ぎないのかも知れないし、あるいは未だ知られざる合理的な理由が存在するのかも知れない。それはよくわからない。
いずれにしても、私が興味を覚えたのは、こう言っちゃなんだが、報道された写真をみる限りではちっとも魅力的に見えない 2人の太ったオバチャンが、男を手玉に取り、少なくない額の金をだまし取ったりしているということである。
先日車を運転しながらカーラジオを聞いていたら、敢えて名を秘すが、ゲストで登場した昔は美人女優で鳴らした結構ご高齢の独身のお方が、「あんなんで、あれだけ多くの男を騙せるんだったら、私だって、結構やれたはずなのに……」と嘆息しておられた。最後の 「のに……」 というところに、妙なリアリティを感じてしまった。
でも、多分、美人過ぎる女性は結婚詐欺なんかやりにくいのかもしれない。ある程度の不細工さがキーポイントなのだ。きっと。
男は美人に弱いが、いざとなると警戒する。しかしある程度不細工な女には警戒心が弱まる。もしかしたら、自分がこの女を援助してやるんだという優越感を持たされてしまうのかもしれない。優越感と警戒心を両立させるのは、至難の業である。
そう考えると、人を騙そうと思ったら、下手に出て相手に優越感を持たせるに限る。逆に、どんなに正しいことでも、「まだわからないみたいだから、俺がわからせてやる」とばかりに、偉そうに説明して相手を萎縮させると、それだけで相手は警戒して信じてくれない。
世の中の多くは、客観的にみて正しいか正しくないかで動くのではなく、気分とか雰囲気とかで動くのである。
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コメント
>どんなに正しいことでも、「まだわからないみたいだから、俺がわからせてやる」 とばかりに、偉そうに説明して相手を萎縮させると、それだけで相手は警戒して信じてくれない。
コレ、実際に経験しました。実験して見せてるのに信じてくれないんです。
何も言い返せなくなってましたが、納得はしてくれませんでした。
客観的なデータもこうなると力を発揮しないんですね。
件の女性は料理が上手く(本格的だったそうです)、暇があればフローリングにコロコロをかけている
家庭的な女性だったそうです。
他の男性がどうなのかは知りませんが、自分だったらイチコロですね。
簡単に餌付けされていたことでしょう。
投稿: 夜の指揮者 | 2010年2月 3日 16:03
美人のお姉さんが同席してくださる飲み屋さんなんかだと、基本萎縮しまくりです。
美しさと知識を兼ね備えた、ある種の完璧さを醸し出しておられるお姿は、アタクシの方が一歩引いてしまいます。(実際は、鼻の下が伸びてることと…。たぶん。)
かたや、居酒屋などで忙しそうに切り盛りしていらっしゃるおネーちゃんの方に、親しみを感じてしまいます。
「ビールのおかわりは、いいですか?(にこっ!)」なんと神々しい…。(やっぱり鼻の下が伸びているんか)
アタクシも、コロッとやられちゃう口ですなぁ…。
まぁ、貢げるだけの銭を持ってないし。
投稿: 乙痴庵 | 2010年2月 3日 19:32
夜の指揮者 さん:
>コレ、実際に経験しました。実験して見せてるのに信じてくれないんです。
>何も言い返せなくなってましたが、納得はしてくれませんでした。
>客観的なデータもこうなると力を発揮しないんですね。
ほとんどの人間は、理性的な動物ではないんです。
ただ、中にはチョー論理的な人もいて、一見ものすごく生意気で取っつきにくいんだけれど、理を尽くして説明しさえすれば、それを理解することにちょっとした快感を覚えてくれるふうで、快く納得してくれるという人もいます。
理解してもらった時には、「ああ、この人、実はいい人なんだ!」 なんて思いがちですが、よく観察すると、「俺はお前の言うことぐらい、すぐに理解できるんだぞ、ありがたく思え」 ってな感じが見え隠れして、「やっぱりね」 ってな感じになりますね。
でも、そんな人は、まだ扱いやすい部類です。なにしろ、論理的に妥当ならばすぐに納得してくれるんですから。
投稿: tak | 2010年2月 3日 20:57
乙痴庵 さん:
>美人のお姉さんが同席してくださる飲み屋さんなんかだと、基本萎縮しまくりです。
>美しさと知識を兼ね備えた、ある種の完璧さを醸し出しておられるお姿は、アタクシの方が一歩引いてしまいます。(実際は、鼻の下が伸びてることと…。たぶん。)
私は基本的に、オネエサンが隣にひっついてくれるところで酒を飲むのが苦手です。
(男同士でダハダハ飲むのが好きなもので ^^;)
ただ、かなり前に一度だけ、きれいなおねえさんと文学論で意気投合して盛り上がったことがありました。
時々あなどれない文学少女のオネエサンがいるから、油断がなりません。
投稿: tak | 2010年2月 3日 21:01
さすが!文学のオーソリティ!着眼点が違いますね!
圧倒的に、所謂“お姉さん同席デフォルトの飲み屋”で飲む機会などないので、takさんのような経験はありません。
でも一度、野球の話で盛り上がった経験はあります。
“ポジションの役割”とか、“送りバントの必要悪”とか…。
…いやぁ、仕事上の付き合いで、たまたまそういう店に行ったんだってば。
いや、決して君の気持ちを…(以下略)。
投稿: 乙痴庵 | 2010年2月 3日 22:52
え?別の事件だったんですか?!
投稿: HIRO | 2010年2月 4日 08:42
乙痴庵 さん:
いやあ、あの時は一緒に行った業界のオッサン連中から、「お前ら二人、向こう行って勝手に盛り上がってろ」 とヒンシュクものでした ^^;)
投稿: tak | 2010年2月 4日 10:20
HIRO さん:
>え?別の事件だったんですか?!
いやはや (^o^)
ナイス・ボケかも。
投稿: tak | 2010年2月 4日 10:22
コメントの流れからちょっとズレてしまいますけど、シンクロニシティって不思議ですよね。
統計学とか心理学とかサイクルとかである程度説明が付くと言われると確かにそんな気もするのですが、原因の異なる飛行機事故が立て続けにあったりすると、うーん、何なんだろうと思ってしまいます。
教会で大事故が起こったときに、行くはずだった人たちが全員それぞれ違う理由で遅刻して難を逃れたという有名な話がありますが、実話なら本当に不思議です。
身近なところでは、午前中に今日は救急車が多いな、と思っていたら、その日は夜まで何度もサイレンの音を耳にし続ける、というパターンもときどきありますね。
シンクロニシティではないかもしれませんけど、いわゆる虫の知らせというのも結構耳にします。仏間でチーンと音が鳴ったのでなんだろうと思っていたら、直後に電話が鳴って、元気だと思っていた人の訃報が飛び込んできた、という話を直接聞いたときには、やっぱり何かあるのかなあ、と思ってしまいました。
投稿: ぐすたふ | 2010年2月 5日 19:20
ぐすたふ さん:
>コメントの流れからちょっとズレてしまいますけど、シンクロニシティって不思議ですよね。
本当に不思議です。
数々ある偶然の中から、人間の方でとくに印象してしまうだけなのかも知れませんが、そうだとすると、その印象する心理メカニズムというものに興味を持ってしまいます。
投稿: tak | 2010年2月 5日 20:47