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2010年2月11日

渋谷のハチ公と、名古屋のナナちゃん人形

車を走らせながらカーラジオを聞いていると、TBS ラジオの「小島慶子キラ☆キラ」(公式表記通り)で、「ああ、待ち合わせ」という特集をしていて、待ち合わせに関する悲喜こもごもの話がリスナーから寄せられていた。

私は待ち合わせに関する特段の体験はないのだが、私の二人の友人(F男とK子)がある日、渋谷で待ち合わせをした時の話を思い出した。1970年代後半のこと。何やら、初デートかなにかの待ち合わせだったらしい。

渋谷の待ち合わせといえば、そりゃもう、ハチ公前である。K子は渋谷駅北口を出て、いそいそとハチ公像に向うと、既に着いている F男の姿が、遠くからもはっきりと見えた。しかし K子はその瞬間、きびすを返して帰ってきてしまった。そして F男は延々と待ちぼうけをくらった。

後日、K子はこう述懐した。「だって、F男君ったら、あのハチ公像にまたがって、辺りをきょろきょろ見回してるんだよ。ぼさぼさ頭で、雪駄はいて、ズタ袋ぶら下げて。怪しすぎだよ。そんなところに近付いていって、下から『ごめんね、待った?』なんて、声かけられるわけないじゃない」

F男は応えた。「あまり人が多いから、目立った方が探し出してもらいやすいかと思って……」

F男は 30分以上ハチ公像にまたがったまま待ち続けたが、北口交番の拡声器の「そこから降りなさい!」という警告で退散した。そして、この二人の恋は実らなかった。

教訓。「ハチ公前」で待ち合わせたら、「ハチ公上」で待ってはいけない。

ちなみにこの放送では、名駅(名古屋人は名古屋駅のことを「めいえき」と呼ぶ)近くの「ナナちゃん人形」前の待ち合わせというのが、やたらと印象に残った。なんでも名古屋では渋谷のハチ公前に劣らぬ待ち合わせの名所らしい。名古屋出身の番組スタッフも、「その通り」と太鼓判を押したというのだから、本当なのだろう。

ナナちゃん人形というのは、身長 6メートル以上のマネキン人形で、しょっちゅうコスプレするのだという。あまり巨大すぎて、待ち合わせをしている間にふと気付くと、ナナちゃん人形の股の下にはいってしまっていたりすることもあるらしい。(小島慶子さんの 「パンツ、はいてるんでしょうかね?」という発言は、聞かなかったことにする)

スタジオではさっさとインターネットで検索したらしく、「すごい!」なんて言って盛り上がっている。一度気になってしまうと、知りたくてしょうがなくなる性分の私としては、自分もそのナナちゃん人形とやらを見たくてたまらない。そこで、信号待ちの間に iPhone で検索してみると、ものすごくあっけなく見つかった。

こんな のである。

このナナちゃん人形の紹介記事を読んで、私はナナちゃん人形の偉容そのものよりも、インターネット時代の便利さに痛く感動してしまったのだった。

インターネットがなかったら、「ナナちゃん人形」なんてものの話をラジオで小耳に挟んだとしても、それがどんなものかは調べようがない。百科事典なんかに載ってるわけないし、名古屋の観光案内の本を買っても、乗ってるかどうか怪しいものだ。名古屋の知人に、「ナナちゃん人形って知ってる?」なんてわざわざ電話するのも考え物だ。

ところが、今の時代、「ナナちゃん人形」でググれば即座に検索できる。あまつさえ、画像だって「もういい」と言いたくなるほど見つかるのである。たかだか手の平サイズの iPhone という小型端末で。

新聞以外ではみかん箱ぐらいの大きさの真空管ラジオの雑音だらけの放送でしか、まともな情報を得られなかったラジオ少年が、今、オッサンとなって、カーラジオで聞いた気がかりな待ち合わせスポットに関して、信号待ちの僅かな時間のうちに、どんなものか、おおよそのところがわかってしまうのだ。

これって、よく考えると、すごいことである。当たり前みたいにやっちゃってるけど。

思えば、F男と K子が待ち合わせをしたあの頃、ケータイなんて影も形もなかったのである。だからこそ、F男はハチ公にまたがったのだ。そして、K子は「今すぐそこから降りなきゃ、帰っちゃうよ」なんてメールすることもできなかったのだ。

 

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コメント

気になった事があればメモ帳にちまちまと書留、
後でパソコンで検索している自分がひどく遅れて見えます。
携帯で検索できないわけじゃないけど、表示に限界があるし、入力だって手間なので、
乗り換えやマップ検索など、困った時しか使わない、取っておきツールです。
iPhoneひとつでここまで差が付くとは・・・。

投稿: 夜の指揮者 | 2010年2月11日 22:49

夜の指揮者 さん:

>iPhoneひとつでここまで差が付くとは・・・。

自分としても、iPhone 購入を境に、ビフォー・アフターで分けたいぐらいです。マジな話。

投稿: tak | 2010年2月12日 00:17

k子が寛大な女性でなければ、やっぱりメールなんてしないで帰ってしまう気がしますが、
そもそもケータイがあれば、f男もハチ公の上に登って目立たないとすれ違ってしまうという恐れを抱く必要も無かったわけで、
その上、お互いがカメラやwebブラウザ付きの携帯を持っているなら、定番の待ち合わせスポットを利用する必要すら無くなり、
この先、便利さが進むと恋愛ドラマの形がどこまで変化することになるのか、ちょっと想像がつきません。

投稿: clark0226 | 2010年2月12日 04:42

clark0226 さん:

>k子が寛大な女性でなければ、やっぱりメールなんてしないで帰ってしまう気がしますが、

その程度の寛大さはあったんじゃないかと、私はみてるんですが、さて、どうでしょうかね。

>そもそもケータイがあれば、f男もハチ公の上に登って目立たないとすれ違ってしまうという恐れを抱く必要も無かったわけで、

まさにその通りで、本文でも 「だからこそ、F男はハチ公にまたがったのだ」 と触れています。

>この先、便利さが進むと恋愛ドラマの形がどこまで変化することになるのか、ちょっと想像がつきません。

遠距離恋愛は、確実にハードルが低くなるでしょうね。
Skype でデートしちゃったりして。
そして、逆にたまにリアルで会うと勝手が違ってぎくしゃくしちゃったりして。

投稿: tak | 2010年2月12日 10:43

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