「ポータブル字幕システム」を巡る冒険
「ポータブル字幕システムで舞台のバリアフリー」という記事に、つい反応してしまった。「耳が不自由な人も演劇が楽しめるよう、携帯端末に字幕を表示するシステム」なんだそうだ。
歌舞伎の同時解説や、オペラなど外国語公演の電光字幕などで知られるイヤホンガイド社という会社が、希望者に iPod Touch を貸し出し、画面上に台詞や効果音を表示するというサービスを、試験的に開始したという。
劇場の客席のあちこちで、ぼうっと光る端末画面がちらちら動くんじゃ気が散るなあと思ったが、記事の写真をみると、黒い背景に白い字が表示されるという仕様で、ご丁寧にもプライバシーフィルターを張るなどの配慮もしてあるので、その心配は無用のようだ。
イヤホンガイド社の久門隆社長は「聴覚障害者だけでなく、外国人などマイノリティー向けの個別サービスになりうる」と語っているそうだが、確かにその通りだろう。どこの国の言葉の演劇でも、その気になればマルチ言語対応ができる。
さらに、将来的には利用者個人の iPod Touch や iPhone への有料配信も検討しているという。それができれば、劇場側でのハードの準備は最低限で済むだろうし、現物の受信機器を貸し出して公演終了後に回収するという面倒な手間が省けるのが何よりだと思う。ああいうのは、回収してからの消毒とかメンテとかが案外大変なのだ。
そして、これができるなら、映画館での吹き替え音声配信というのも可能だろう。私は外国映画は字幕スーパーで見るのが当たり前と思っているのだが、最近は字幕を読み切れないという人間が増えているらしい。
それについては「字幕読めない若者急増」という記事に詳しく書いてあり、『ハリー・ポッター』のシリーズでは公開版でも吹き替え版の方が 6割になっているという。
私としては、演じている俳優自身の声と台詞廻しを聞きたいと思っていて、あのわざとらしいステロタイプの吹き替え言葉は勘弁してもらいたいと思っている。唯一許せるのは、『刑事コロンボ』の、今は亡き小池朝男さんの声だけだ。
だが、字幕が読み切れないから吹き替え版の方がいいという要望が強くなるなら、将来的には対応せざるを得ないだろう。とはいえ、全ての洋画を吹き替え版で見せられるのはたまらないから、どうしても吹き替え版で見たい人にだけ、吹き替え版を館内配信し、イヤフォンで聞いてもらうようにすればいい。
こんな音声サービスだけなら、別に iPod touch やiPhone でなくても、単純な FM 配信でいける。映画館で吹き替え音声で見たかったら、小型の FM ラジオを持参するというのを、日本の常識にしてしまえばいい。あるいはケータイで受信できるようにする手もある。ワンセグが受信できるのだから、FM 受信だってできるだろう。
ただ、それをそのまま録音しちゃうという輩がいないとも限らないから、著作権問題も含め、そのあたりのシステム整備が必要だ。そういうことになると、日本のシステムは複雑怪奇だから、合意が成立するまでにはずいぶん手間がかかるんだろうなあ。ああ、うっとうしい。
はたまた最近では、「読み」だけでなく、中学生レベルの歴史的事実や常識すら知らないというケースも増えていて、スパイ系作品の試写会後の感想で、「ソ連って何ですか?」「ナチスって何ですか?」なんていう質問が寄せられたりするそうだ。嘆かわしいことだが。
こんな常識知らずのお客のためにも、吹き替え音声配信と平行して、「これがわからなきゃ、映画そのものが理解できない」というような基礎知識を、文字情報で配信すればいいだろう。こればかりは、FM ラジオでは無理だが。
ただ、こんな非常識なお客だと、マナーモードにしなかったり、暗い中で明るい画面を光らせたり、スクリーンを動画撮影しちゃったりしないか、ちょっと心配になってしまう。法律やシステム整備ばかりでなく、マナー向上も必要になるだろうが、それを心配しすぎると、一歩も先に進めなくなるのが歯がゆい。
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コメント
ジャ…、ジャッキー・チェンは、是非、石丸博也さんの吹き替え版で、お願いします!
あと、TVでしたが、「シャーロック・ホームズの冒険」(だったっけ?)のシャーロック・ホームズは、露口茂さんで…。
投稿: 乙痴庵 | 2010年2月 4日 23:06
乙痴庵 さん:
ジャッキー・チェンの石丸博也さん
シャーロック・ホームズの露口茂さん
ごめんなさい。
両方ともその吹き替えで見たことがありません。
あるいは、様式美ともいえるようなレベルまで練り上げられた吹き替えは、許せるのかもしれませんね。
世間では、マリリン・モンローの吹き替えの向井真理子さんがもてはやされているようですが、あれは、日本人のイメージするちょっと異形のマリリンだと思います。
投稿: tak | 2010年2月 5日 09:12