大声でアイサツしさえすれば……
メインの仕事先が秋葉原にあるので、私はちょくちょくあのでっかい「アキバのヨドバシカメラ」で、オフィス用品の買い物をする。9時半の開店と同時に店内に飛び込んで買い物をすることもしばしばだ。
このヨドバシカメラという店は、開店直後に店内にはいると、店員がずらりと勢揃いして、まるで百貨店の開店直後みたいに、慇懃無礼な最敬礼をする。私はこれが嫌いである。百貨店でやられるのも嫌なのに、ヨドバシはやたら大声の「いらっしゃいませ!」まで加わるので、顔を背けたくなる。少なくとも秋葉原の街にはそぐわない。
こんな慇懃無礼をするくせに、開店からしばらく経つと、今度は単なる「無礼」に変身する。ここの店員は、通路を歩く客の目の前に平気で急に立ち止まったり、直前を横切ったりする。人混みの中を走るようにやってくる店員に条件反射的に道を譲っても、礼も言わずに行ってしまう。
ごく普通のマナーがなってないのに、開店直後の最敬礼さえすれば、ホスピタリティを示したと思っている。で、もしかしたら、世の中には、「開店直後に最敬礼して大きな声のアイサツで客を迎えるヨドバシは、店員教育がしっかりしてる」なんて思ってる人もいるかもしれない。
なんで急にこんなことを言いだしたかというと、実は今月 19日に書いた "「スポーツとナショナリズム」 という魔物" という記事の関連なのである。例のスノボ、ハーフパイプの国母選手の件で書いた記事だ。
私はこの記事の中で、「体育会系の石頭と、ゆるゆるヤンキーとは、あれだけ対極にあるように見えても、実は根っこの部分ではかなり近いのではないか」と指摘している。
それどころか有り体に言ってしまえば、体育会系の中には既にかなり前からヤンキー的、あるいはヒップホップ的な要素がちらほら見え隠れしている。朝青龍、亀田兄弟、山本 "KID" 徳郁あたりを見さえすれば、誰もそれを否定できないだろう。
水泳の北島康介選手が北京オリンピックで金メダルを取ったときの「チョー気持ちいい!」発言なんて、あの目つきからしてかなりヤンキーっぽかったという印象があるのだが、あれは熱狂的なご祝儀ムードのうちに、むしろ好意的に受け入れられ、流行語大賞にまでノミネートされた。「チョーご都合主義」である。
最近のスポーツ選手というのは昔と違って、ずいぶんカジュアルになっている。地方の高校の野球部員の制服の着こなしなんて、あの国母君よりひどかったりする。あの程度で「出場辞退せよ!」なんて迫ったら、甲子園の予選は成立しない。
それでも、頭を短く刈って、野球のユニフォームだけはちゃんと着て、先輩には大声でアイサツしさえすれば、他はユルユルでも「礼儀正しいヤツ」と思ってもらえる。スポーツの世界とは、いや、日本の社会というのは、かくのごとく「気分次第」、あるいは「アイサツ次第」で評価されるのである。
あの国母君だって、直後の記者会見で、深々と最敬礼してから「申し訳ありませんでしたっ! 気がゆるんでましたっ! 反省してますっ! 今後決してあのような格好はいたしません!」とかなんとか、しゃっちょこばって心にもないコメントをしさえすれば、一発で許されたのである。それをしなかったところが、国母君らしいところだけど。
まあ、体育会系の世の中では、ゆるゆるのヤンキーだったのが、社会の荒波にもまれて改心して妙に更生すると、今度は急にこっちんこっちんの石頭の指導者になったりするのである。両者の根っこの部分はすごく共通しているから。
で、私としては、そりゃアイサツはないよりゃあった方がいいけど、他はユルユルでも大声でアイサツさえすれば礼儀正しいと思ってもらえるなんていう、「大声のアイサツ=免罪符」みたいに機能させる風潮は、なんとかしてもらいたいと思っているのである。
とくに、ヨドバシカメラのあれ、うるさいだけだから。
【3月 2日 追記】
某ビジネスホテル・チェーンのエレベーター内で、こんな広告を見つけた。やっぱり「大きな声の挨拶」って、錦の御旗みたいな機能をもっているようだ。
ただ、それが 「一番の仕事」 というのもなんだかなあ。
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コメント
確かにヨドバシはうるさいですね。営業時間中にも大声で色々な販促案内放送がありますが、うるさいだけで何も聞き取れません。「ヨドバシはパチンコ屋か」と本社に一度抗議したことがありますが、静かになったのは直後だけした。
声が大きいのはいいことだっていう体育会系のノリって私はきらいです。
居酒屋なんかでも客の頭越に大声で客の注文を厨房に伝えてますね、あれもなんとかならないものかと思います。
投稿: ハマッコー | 2010年2月25日 14:54
ハマッコー さん:
>確かにヨドバシはうるさいですね。
あれって、「♪ まぁるい緑の山手線~~」 以来の社風なんでしょうね。
大量展示でドンチャカドンチャカやり、客の正常な判断力を麻痺させるというのは、高度成長期あたりからの量販店の常套手段です。
一時(岡田茂社長時代)は、あの三越もその手法を取り入れてました。
今でもやってるのは、ヨドバシとパチンコ屋ぐらいのものでしょうかね。
>居酒屋なんかでも客の頭越に大声で客の注文を厨房に伝えてますね、あれもなんとかならないものかと思います。
あれって、うるさいですね。
厨房からもオウム返しの大声が聞こえるし。
投稿: tak | 2010年2月25日 15:36
ヨドバシカメラって、店員の応対も、案外悪いですよね
もちろん、全部ってわけではないけれど、中に「なんだ?こいつ!」と思う応対をする奴がいる
ああいう、進歩の激しい商品を売っていると、最新の商品知識に無知な(笑)客に対して優位に立ったような誤解をして、客を馬鹿にする態度が身につくのかな?
投稿: alex99 | 2010年2月25日 19:07
alex さん:
>ヨドバシカメラって、店員の応対も、案外悪いですよね
>もちろん、全部ってわけではないけれど、中に「なんだ?こいつ!」と思う応対をする奴がいる
私の印象では、ヨドバシの店員はピンキリですね。
優秀なやつもいるけど、アホもいる。
平均がとれてなくて、落差が大きいという感じ。
>ああいう、進歩の激しい商品を売っていると、最新の商品知識に無知な(笑)客に対して優位に立ったような誤解をして、客を馬鹿にする態度が身につくのかな?
たまにそういう勘違いをしてる店員がいますね。
「俺がおしえてやる」みたいなやつ。
そういうやつに当たったら、ドーシテ、ドーシテ?、オセェテ、オセェテでしつこく迫り、何を言われても、理解できないフリをしてあげるといいです。
投稿: tak | 2010年2月26日 01:23
ヨドバシなどの店員の知識なんて、とても専門知識といえるレヴェルではありませんよ。私はあるエレクトロニクス製品の専門知識があるもんで、兄ちゃんに聞いても無駄と思ってますのでまず質問はしません。必要な知識は調べてから買い物に行きます。
店員の質は上下の差は激しいですね。
以前、35万のパソコンを買ったときにレジのにいちゃんから「ありあとあんした~」っていやいや言われました。
吉野家で働いてる中国人のバイト君の方がいい仕事してます。
真剣に客の立場に立っていい仕事してる人もいるんですが。
投稿: ハマッコー | 2010年2月26日 11:28
ハマッコー さん:
>ヨドバシなどの店員の知識なんて、とても専門知識といえるレヴェルではありませんよ。
確かに、何を聞いてもこっちがとっくに知ってる当たり前のことしか言いませんね (^o^)
>店員の質は上下の差は激しいですね。
まさに。
「こいつ、何にも知らねぇんでやんの!」 という感じの店員が結構います。
投稿: tak | 2010年2月26日 15:37
こんばんは。興味深く読みました。
なるほど、と思いました。
ヤンキーも体育会系も、どちらも「染まりやすい」という性質をもってるということですね。
○○は良いものだ、こうするべきだ、と仕込まれると「それが正しい」と考えて疑わないってところが似てるんですね。納得!
投稿: シロ | 2010年2月27日 01:08
シロ さん:
>ヤンキーも体育会系も、どちらも「染まりやすい」という性質をもってるということですね。
ヤンキー、体育会系だけじゃなく、もしかしたら、日本人の多くも。
そして、日本人だけじゃなく、多くの人たちも。
気を付けないと。
投稿: tak | 2010年2月27日 08:03
>>ヤンキーも体育会系も、どちらも「染まりやすい」という性質をもってるということですね。
>ヤンキー、体育会系だけじゃなく、もしかしたら、日本人の多くも。
数多くの流行・ブームが現れては消え、現れては消えているという日本の現状が、それをよく表していると思います。染まりやすいうえ、色落ちも早い。
挨拶についてですが、
私もやたらと声の大きい「体育会系の」挨拶や、旅館などで受ける形式ばった敬礼が嫌いです。する側はそれを「良かれ」と思っているのでしょうが、過ぎたるはなお及ばざるが如し。
>声が大きいのはいいことだっていう体育会系のノリって私はきらいです。(ハマッコーさん)
バラエティ番組を視聴していると、芸能界にもそのノリが蔓延しているように感じますね。正直、大声でのやり取りを聞いていると耳が痛くなります。
投稿: 綾川ほとり | 2010年2月28日 22:24
綾川ほとり さん:
>染まりやすいうえ、色落ちも早い。
大声のアイサツだけは、頑固に色落ちしませんね ^^;)
>バラエティ番組を視聴していると、芸能界にもそのノリが蔓延しているように感じますね。
あの世界って、ものすごく体育会系のノリがあるみたいですね。
投稿: tak | 2010年2月28日 22:56