「いつかはクラウン」 なんて言われてたなあ
そう言えば昔、「いつかはクラウン」 というキャッチコピーがあって、山村聡と吉永小百合が CM に登場していた。「真面目に努力して、それなりの地位について、それなりの家に住んで、それなりの暮らしをして、そうなったら乗る車はクラウンに行き着くでしょう」というメッセージである。
あの CM は本当に大ヒットだった。大抵の日本人の心の底に焼き付いた。私なんか、「多少お金ができたとしても、クラウンなんて乗ろうと思わないね」と反発していたが、キャッチコピーとしては本当によくできていたと思う。日本の経済発展が順調にいつまでも続くという幻想の上に、ものすごくよく乗っかっていた。
そのトヨタが今、大きな曲がり角にさしかかっている。
今や多くの日本人は、「別にクラウンなんか乗らなくっても」と思うようになった。着るものはユニクロなんだし、乗る車もコンパクト・カーで十分だ。クラウンに乗るより、むしろエコだ、ハイブリッドだということになった。
こんな世の中になって、フルラインの自動車メーカーであるトヨタとしては、さすがに陣容を整えざるを得なかった。ます、クラウンのさらに上のクラスとして、「レクサス」 ブランドを作った。そして、カローラより下のクラスのコンパクト・カーのラインも増強し、とっておきのアピールポイントとして、ハイブリッド・カーの「プリウス」 を出した。
こうしたマーケティング戦略というのは、多分相当前から練っていたのだろう。ところが、練りに練ってようやくスタートしたら、世の中は変わってしまっていた。日本はバブル崩壊後の泥沼からなかなかはい上がれず、「レクサス」は期待通りには売れなかった。プリウスは大ヒットしたが、米国でミソがついた。
日本人独特の「丁寧なモノ作り」で仕上げた「信頼品質」のイメージも、これでちょっとおかしくなった。「高品質なのにリーズナブル価格」というのが売り物だったのに、さらに安い車が登場しつつある。日の出の勢いの中国やインド市場では、トヨタの車でもやはりちょっと高いのだ。
「悪貨は良貨を駆逐する」というが、消費市場では、「廉価品は中級品を駆逐する」のである。高級品になってしまうと安物に食われないが、中級品はたやすく食われる。
トヨタの車って、私の専門分野の洋服にたとえれば「百貨店の平場商品」なのだ。シャネルやアルマーニじゃないが、安物っていうわけじゃない。それなりの価格と信頼品質が最大の売り物である。ところが今、百貨店の洋服が売れなくなっているじゃないか。こうしたトレンドは、トヨタの苦境と無関係じゃない。
今、「若者の車離れ」なんてことが言われているが、それは都会に限った話で、地方都市に行ったら、車がないと人間の暮らしができない。やっぱり車は必需品なのだ。ただ日常的な必需品にすぎないので、消費者は今、「車のユニクロ」が欲しいのだよ。
私なんか昔から、車なんて「ちゃんと動いて曲がって停まってくれればそれでいい」と思っていた。そして、「いつかはクラウン」の時代はとっくに過ぎ去ってしまった。
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コメント
こんにちは。
いやはや、トヨタも大変ですねぇ。
自分は、トヨタって装備の割に値段が高いなといつも思ってました。
でも世間ではカローラとか安い車扱いされていて、何でだろうと思っていましたけれど……
まぁ、そういうイメージ&ブランドなんでしょうね。
多少高くても安心とか。
自分の親もいまだに「いつかはクラウン」とか言いますし、たいしたものです。
うちの地元では、数年前にトヨタ車のステアリングのロッドが折れて死亡事故が起きたとか云う話もあったりで、品質に関してはちと不安だなぁっていうのが正直な感想だったりします。もちろん、レアケースですけれど。
投稿: ぺれ | 2010年3月16日 12:49
ぺれ さん:
>自分は、トヨタって装備の割に値段が高いなといつも思ってました。
マツダとかは、ごっつく値引きしてくれますからね (^o^)
>うちの地元では、数年前にトヨタ車のステアリングのロッドが折れて死亡事故が起きたとか云う話もあったりで、品質に関してはちと不安だなぁっていうのが正直な感想だったりします。
私の印象 (あくまでも個人的印象) では、トヨタ車は買ったばかりのときはすごく安定しているけど、耐久性は今イチという感じです。
マツダは長持ちするという印象があります。私みたいな 「乗りつぶし派」 には、いつまでも乗れる車という気がします。
投稿: tak | 2010年3月16日 15:39
英国はご存じのように階級制の強い国ですから,車にもはっきりと階級があります
ジャギュアー(日本人はジャガーとよぶ)(笑)は、専用の運転手に運転させずに自分で運転する英国製の車の中での最高峰
シティーでもっとも幅をきかせているベントレーになるとちょっと苦しい(笑)
ロールス・ロイスに至っては,自分で運転していると運転手と見なされる(笑)
レクサスを含めて、クラウンって,その意味で、運転手付きの車でしょうか?(笑)
運転手付きだと安っぽいし
自分で運転すると収まりが悪いし
日本車で運転手が運転する車は
○ 皇室御料車と
○ デボネアですかね?
三菱系はまだデボネアを買っているそうだから、三菱の重役は、外の世界と関係なくデボネア+運転手でさっそうと(笑)移動しているんでしょうね
まさか自分で買って運転する人がいるはずは無いし(笑)
中国の紅旗も、それに近い(笑)
ソ連にもありましたね
投稿: alex99 | 2010年3月16日 23:34
子供の頃、大人の車階級がバカだなーと何となく感じてました。それを理解する前にバブルがはじけちゃって、わからない大人になってしまいました。最近、学生が車の話をしている仲間をさして、「おっさんだ」と言っているのをたまに聞きす。私の時代より変わってしまったようです。
(私は服も違いの分からない人間で、百貨店の服とユニクロやら青山の服の値段以外の違いがわかりません。安価なものはデザインが甘い気がしますが、汎用性からの意図的な選択にも見えますし…?)
投稿: fn.line | 2010年3月17日 00:40
alex さん:
まさに、ロールスロイスなんかと比べたら、わけのわからない世界になってしまいますね。
今のクラウンは、レクサスのラインナップを差別化するために、若者まで範囲を広げて 「ゼロ・クラウン」 なんて言ってますが、かなり無理があります。
>三菱系はまだデボネアを買っているそうだから、三菱の重役は、外の世界と関係なくデボネア+運転手でさっそうと(笑)移動しているんでしょうね
近所で元三菱系でデボネアを持っている人がいますが、自分で運転してますよ (^o^)
投稿: tak | 2010年3月17日 10:30
fn.line さん:
>子供の頃、大人の車階級がバカだなーと何となく感じてました。
ドアを閉める音の重厚さが、高級車のバロメーターなんだそうです。
ちなみに、私の乗っているマツダ・デミオは、前のドアを閉めると 「バフッ」と重厚な音がしますが、後ろのドアを閉めると、「ペトン」 という浅はかな音です (^o^)
>最近、学生が車の話をしている仲間をさして、「おっさんだ」と言っているのをたまに聞きす。
車にこだわるのは、オッサン趣味なんですね。今や。
投稿: tak | 2010年3月17日 16:25