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2010年4月 4日

『唯一郎句集』 レビュー #118

今日は一気に 2ページ分のレビューをする。2ページ分といっても、1ページに 2句ずつしか載っていないので、4句のレビューである。

まず、見開き右側の 2句。十和田湖、岩手県を旅したときの句のようだ。

  十和田湖行

奥入瀬の山毛樹のむらがりて冷たき唾はき

はて、「山毛樹」というのはどう読んだらいいのだろうと、ちょっと調べてみたら、十和田湖からそう遠くない八幡平に 「山毛森 (ぶなもり)」 という名の山があるとわかった。

そうすると、「山毛樹」 は 「ブナ」 と読むべきなのだろう。ブナの群生する奥入瀬渓谷で、冷たい唾をはいたというのである。凛とした自然の冷たさと、唾を吐く人間の対比。

  好摩駅

ゆふべ草原を目で漕ぎゆく北上は見えず

好摩駅は今は盛岡市内にある駅で、いわて銀河鉄道が走っている。駅から草原を眺めたが、北上川までは見えなかったというのを、「目で漕ぎゆく」 と言っているのがおもしろい。

次に、見開きの左側。

地をぬらし花苗をぬらし玩具の噴水旺ん

子どもたちに玩具の噴水を買ってやったのだろう。子どもたちは大喜びでさかんに水を吹き出す。地面も花の苗も水浸しになる。

その様子を静かに、しかし楽しげに眺める唯一郎。

春の山くろぐろと野火跡の道あり

春の山を麓から見上げると、野焼きの跡が道のように連なって見える。異様なほどに黒々とした跡である。

街育ちの唯一郎には、とても新鮮なもののように見える。

本日はこれまで。あと 2ページで、句集は終わる。

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コメント

あと少しですか。
また最初から鑑賞したくなりました。

「地をぬらし花苗をぬらし玩具の噴水旺ん」

とても視覚的な楽しい句だと感じました。
玩具に向かってズームインしていき最後に噴水で拡散する水滴。

この方が現存ならば、映像方面でもすばらしい発想を提供されたのではないでしょうか。

投稿: jersey | 2010年4月 5日 00:22

jersey さん:

>この方が現存ならば、映像方面でもすばらしい発想を提供されたのではないでしょうか。

そうですね。
小津安二郎みたいな映像美を創ったかも。

投稿: tak | 2010年4月 5日 11:58

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