『唯一郎句集』 レビュー #118
今日は一気に 2ページ分のレビューをする。2ページ分といっても、1ページに 2句ずつしか載っていないので、4句のレビューである。
まず、見開き右側の 2句。十和田湖、岩手県を旅したときの句のようだ。
十和田湖行
奥入瀬の山毛樹のむらがりて冷たき唾はき
はて、「山毛樹」というのはどう読んだらいいのだろうと、ちょっと調べてみたら、十和田湖からそう遠くない八幡平に 「山毛森 (ぶなもり)」 という名の山があるとわかった。
そうすると、「山毛樹」 は 「ブナ」 と読むべきなのだろう。ブナの群生する奥入瀬渓谷で、冷たい唾をはいたというのである。凛とした自然の冷たさと、唾を吐く人間の対比。
好摩駅
ゆふべ草原を目で漕ぎゆく北上は見えず
好摩駅は今は盛岡市内にある駅で、いわて銀河鉄道が走っている。駅から草原を眺めたが、北上川までは見えなかったというのを、「目で漕ぎゆく」 と言っているのがおもしろい。
次に、見開きの左側。
地をぬらし花苗をぬらし玩具の噴水旺ん
子どもたちに玩具の噴水を買ってやったのだろう。子どもたちは大喜びでさかんに水を吹き出す。地面も花の苗も水浸しになる。
その様子を静かに、しかし楽しげに眺める唯一郎。
春の山くろぐろと野火跡の道あり
春の山を麓から見上げると、野焼きの跡が道のように連なって見える。異様なほどに黒々とした跡である。
街育ちの唯一郎には、とても新鮮なもののように見える。
本日はこれまで。あと 2ページで、句集は終わる。
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コメント
あと少しですか。
また最初から鑑賞したくなりました。
「地をぬらし花苗をぬらし玩具の噴水旺ん」
とても視覚的な楽しい句だと感じました。
玩具に向かってズームインしていき最後に噴水で拡散する水滴。
この方が現存ならば、映像方面でもすばらしい発想を提供されたのではないでしょうか。
投稿: jersey | 2010年4月 5日 00:22
jersey さん:
>この方が現存ならば、映像方面でもすばらしい発想を提供されたのではないでしょうか。
そうですね。
小津安二郎みたいな映像美を創ったかも。
投稿: tak | 2010年4月 5日 11:58