『唯一郎句集』 レビュー #123
おまけ第三弾で、ようやくすべての句のレビュー終了だ。というわけで、さっそくレビュー。
鶏肉屋の青い娘が鶏をくゝつて媚を投げる霙の中俺も淋しい男だ
このレビューの 59回目で「鶏肉屋の青い娘が鶏を縊ってはみぞれの中で俺も淋しい」という句をレビューしている。その推敲前の作がこれだろう。
ただ、これがどうして「肉親への情愛」の句なのか、わからないのが悲しい。
潜々泣けばひもじくなつて深夜の餅が俺の前でふくれてくれる
「潜々」は「ひそひそ」と読むのか、それではおかしいから、あるいは「さめざめ」とでも読ませるのか。
「深夜の餅」 とは、あるいは妻のことか。
遠足の児等の一人が泣出す春の山々の光りしづもり
このレビューの 16回目に「遠足の児等の一人が泣き出す春の山々の光しづもり」という句がある。今回紹介する句とほとんど同じだ。
もしかしたら、この 「児等の一人」 とは、自分の息子のことを言ったのだろうか。
大将の死が経つて長男の足袋が色々の光り放つ
「大将」とは父のことで、「長男」はとりもなおさず自分自身のことだろう。父の死後、しばらくしてふと足許をみると、足袋生地が光を反射しているという。生地がすり減るほど、動き回っていたことに気が付くまでに、ある程度の時間が必要だった。
父への情愛を、こんな遠回しに表現する唯一郎。
とりあえず、これで 『唯一郎句集』 に載ったすべての句のレビュー、完了。1年以上にわたる長いお付き合い、感謝。
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