"Empathy" の時代
近頃注目したいキーワードだと思っているのが "empathy" という言葉。英和辞書を引くと「感情移入、人などへの共感」と出てくる。似た言葉に "sympathy" があるが、これだと「同情」とか「支援」とかいうニュアンスが大きい。もっと言ってしまえば、同情や支援する自分という主体がある。
一方、"empathy" は、自分という主体をベースにするというより、「相手の身になる」ということだ。自我にこだわらずに、相手の視点でものを見つつ、相手の立場に立って行動を起こすというニュアンスが大きいと思う。
「利己的な遺伝子」という、実はあやふやな進化学上のテーゼが、これまでは一般社会で信じられてきた。通俗的な理解では、生物は各々が利己的であることによって生き残ってきたというのである。そして競争原理は結局は人類の幸福に寄与するのだと思われてきた。
しかし、それは人間が長い間とらわれてきた迷妄ではなかったか。競争によって強くなるというのは、都市伝説のようなものではないか。実は、協調によってある程度強くなったからこそ、競争が可能になったのであり、競争によって発展するというのは、進歩の一段階に過ぎないのではないか。人類はそろそろ、次のステージに進むべきなのではないか。
"Empathy" の思想は、人類の次に進むべきステージのテーマを暗示する。人類は本当はお互いに思いやりの行動を取ることによって、現代の危機的状況を脱することができるのではないか。
そして、思いやりの心というのは、人間だけでなく、生物が本来もっているものなので、無理に身に付けなくても、それを発揮することができるはずなのではないか。本当は相手の身になって思いやり的行動をすることが、本能的にも 「いい気持ち」 になれるのではないか。
それが偽善であるかのように思いこまれているのは、人間の行動様式があまりにも複雑化しすぎたために、empathy の発揮の仕方が錯綜してしまっているからではないか。
私は、日本人はグローバリズムというコンセプトのもとに展開される競争原理には、不向きなのではないかと思っている。日本人は、もっと別のコンセプトによるステージでこそ、その真価を発揮できるのではないか。そして、そのことによって人類に貢献することができそうな気がしている。
言論プラットフォーム「アゴラ」に、「神の見えざる両手 - 書評 - 共感の時代へ」という記事がある。「共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること」というのは、Francs de Waal 著の "The Age of Empathy" の翻訳(紀伊國屋書店・刊)。
私もまだ読んでいないので、さっき早速、Amazon で注文したばかり。
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コメント
私は rapport という単語を,「共感・感情移入」という意味合いで使用していました
Empathy と言う言葉は,知りませんでした
―――― ◇ ――――
無料のオンラインの英和辞典で引いたら,語義の説明があまりにも簡単なので,試しに英辞郎を引いてみたら下記の通り
なお、英辞郎にどの程度の信頼性をおけるのか、私にはわかりません
―――― ◇ ――――
• empathy
【名】
1. 共感、思いやり、感情移入
2. 自己移入◆ドイツ語Einfu"hlungの訳語として哲学・心理学・美学分野では「感情移入」と訳されているが、あまりにも情緒主義的な面が強く、一般語化しているので、現象学では能動的および受動的意味合いを含めた「自己移入」という訳語が用いられている。
―――― ◇ ――――
• rapport
【名】
〈フランス語〉〔お互いの〕ラポール、感情的な親密さ◆お互いが信頼し合い、また好みや感じ方などが一致しているという関係。
・Rapport between dog and trainer is crucial. : 犬と訓練者の親密な[調和した]関係が重要である。
―――― ◇ ――――
ちょっと意味合いが違うようですね
試しに merriam-webster の thesaurus 同義語辞典で探したら、empathy は独立した見出し語としては見当たらず、rapport のみ
empathy は、その rapport の同義語としてのみ、示されています
―――― ◇ ――――
Entry Word: rapport
Function: noun
Meaning: a friendly relationship marked by ready communication and mutual understanding
Synonyms
communion, fellowship, rapprochement
Related Words
accord, agreement, concord, harmony; oneness, solidarity, togetherness, unity; affinity, empathy, sympathy, understanding; amity, chumminess, companionship, friendship; reciprocity, symbiosis
Near Antonyms
alienation, disaffection, estrangement; coldness, cold shoulder, distance, iciness; animosity, antagonism, enmity, hostility, rancor, spite
投稿: alex99 | 2010年4月30日 02:46
訂正
冒頭で「私は rapport という単語を,「共感・感情移入」という意味合いで使用していました」・・・と書きましたが、訂正させていただきます
正しくは
「共感」という意味合いで・・・
投稿: alex99 | 2010年4月30日 02:49
alex さん:
"Empathy" という言葉は、英語としては哲学・美学分野での新語のようです。
日本語に訳すにしても、うまい言い方が見当たらないので、「エンパシー」 とカタカナで言ってしまう方がいいのかも知れません。
あるいは、「自己移入」が近いかも。
投稿: tak | 2010年4月30日 06:42
訳語としては、または思い切って 「人情」 なんて言ってしまうこともできるかも。
投稿: tak | 2010年4月30日 06:55
重ねてコメントさせていただきます
>私は、日本人はグローバリズムというコンセプトのもとに展開される競争原理には、不向きなのではないかと思っている。日本人は、もっと別のコンセプトによるステージでこそ、その真価を発揮できるのではないか。そして、そのことによって人類に貢献することができそうな気がしている。
ーーーー
私も,そんな気がします
やはり、島国民族ですから,グローバリズムとは、どうしてもなじまないと思います
その別のコンセプトを考えて行くことも有益ですね
ちょっと小さいが、「もったいない」なども、日本独特のコンセプトですよね
世界の人たちを「なるほど」と思わせる
そうして、そのことに日本人が自信を持つことが出来るような
ただ、日本の「いいもの」は外国人が発見するという傾向がありますが(笑)
投稿: alex99 | 2010年4月30日 15:08
alex さん:
>ちょっと小さいが、「もったいない」なども、日本独特のコンセプトですよね
>世界の人たちを「なるほど」と思わせる
日本人は石原慎太郎さんが言うようなのとは別の意味で、もっと自信を持っていいと思います。
日本人が世界で一番 (無意識にですが ^^;) きっちりと示している有意義なコンセプトは多いですね。
>そうして、そのことに日本人が自信を持つことが出来るような
>ただ、日本の「いいもの」は外国人が発見するという傾向がありますが(笑)
当人たちは無意識なので、外国人が発見しがちですね。
ただ、日本人の中にも半分外国人の視点をもった層が育っているので、だんだんいけるんじゃないかと。
投稿: tak | 2010年5月 1日 17:41